村弘氏穂の日経下段 #60(2018.6.2)
虚ろなる化粧を終えて君のいない世界の風に晒すくちびる
(下野 海老原愛子)
今すぐに此処でキスしてくれる君なき世におけるメイクの仕方。一行に漂う椎名林檎的哀愁が読後も離れない。君がいる世界といない世界では<私>の作り方が異なる。その例としてルージュの種類もメイクアップの方法も全く違うということだろうか。そして何より、気合が違うんだろう。君がいない世界では、ツルツルのプルプルの唇で勝負する必要がないのだから。初句の『虚ろ』は二句目の化粧はもちろん、結句の『くちびる』にも関わ