『K』 (短歌連作25首)
3Kの3には犬と猫と猫 わたしはKで鍋をみている
お土産のハーゲンダッツ何故きみはセロリと野菜室にいるんだ
アイランドキッチンに立つ菜の花の湯気にピクニックの蜃気楼
しんなりと夜の湯船で絹さやはたんぽぽいろの渦に焦がれて
ごくまれに混入してる黒い粒わがキッチンへ今日もようこそ
銀河へとショートパスタを連れてゆく気泡と瀬戸の塩でたたかう
ペディキュアをひとすじのせる小指ほど小さなエリンギにもバターを
永遠に歳をとらない子の席に野バラを活けて白いブランチ
シリカゲルたべられませんシリカゲルたべられません親の前では
生米と茄子とトマトを混ぜている夜に上沼恵美子が欲しい
タイガーと駆け引きをするココマデの線をどこまで超えられるのか
ひこうきに祖父が飛び乗り北窓のソニーのラヂオからソーダ水
夏いろのたまごに逢った小麦粉は小麦の頃を思い出すのか
共謀のおとりの鮎は淡白で何のわる気もない味がした
コロッケの爆発音に慣れていて猫も杓子も気にしていない
裏庭の金魚の墓のお隣に焦げたししゃもを埋めたいもうと
刺身でも煮ても焼いても姫鯛は死んだ魚の目をしていない
家族とは減らないように減らすもの 筋子が三つ、四つ潰れた
渋い日も苦い日も甘受するからもう人名になれズッキーニ
松茸に酢橘を搾る親指に親不孝だと責められている
激情は冷めてしまったパパイヤや吉本ばななにはわからない
折鶴を模した赤津の箸置きを枕に眠る癌封じ箸
旧姓に含まれていた食材は母の煮物に溶け込んでいた
里芋が箸から落ちて泥んこの足を洗ったシンクの底へ
切る音が鳴り響いては煮えてゆく寒ブリに捧げるあおい首
片栗粉だけでつくったこのやろうハモニカに負けない味がする