内藤 順

広告系男子。 元ノンフィクション書評サイトHONZ編集長

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    ノンフィクション書評サイトHONZ(2011−2024)のアーカイブ

最近の記事

HONZ終了に伴う読売新聞のインタビュー

    • ノンフィクションで世界をハックする 〜書評サイトHONZの挑戦〜

      ※本稿は『Journalism 2015年9月号』に寄稿したものを、一部改訂して掲載しております。 私が編集長を務める「HONZ」は、新刊ノンフィクションのみを紹介する書評サイトである。2011年7月にオープンし、ほぼ毎日レビュアーたちによって、 日替わりで記事が更新されている。 メンバーは、元マイクロソフト日本法人社長にして文筆家の成毛眞を代表に、 書評家、大学教授、タレント、ビジネスマン、書店員、研究者など多士済々。ほとんどのレビュアーがア

      • 2011-2024 この13年間における最高の一冊

        2011年7月15日にオープンしたノンフィクション書評サイトHONZ。本日2024年7月15日をもちまして13年間のサイト運営に終止符を打つこととなりました。 2011年の東日本大震災から、記憶に新しいコロナ禍まで。はたまたFacebookの時代からChatGPTの到来まで。その間に紹介してきた記事の総数は6105本。 発売3ヶ月以内の新刊ノンフィクションという条件のもと、数々のおすすめ本を紹介する中で、様々な出会いに恵まれました。信じられないような登場人物たち、それを軽

        • 『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』誰の心の中にも、フロンティアがある

          2023年3月、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地としてエスコンフィールド北海道が開業したことは多くの人に知られているところだろう。 本拠地が借家であることの限界を感じていた日本ハムファイターズは、数年前に札幌ドームを出ることを決め、札幌市と北広島市の誘致合戦が繰り広げられた結果、北広島市に新しいスタジアムを建設することが決定した。本書はその開業にいたるまでのプロセスを余すところなく描いた一冊である。 結末がどうなるか、誰もが知っているはずのストーリーではある。

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          2022年 今年の一冊

          HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊、今年で12回目を迎えるところとなりました。メンバーそれぞれが好きな本を、好きなタイミングで送ってくるので、毎回順番をどうしようかと頭を悩ませます…。今年は12回目を記念し(?)、基本に立ち返って名字を五十音順に並べてみました。 最大勢力となったのはア行とナ行。ア行が「うんこ→肉→防災アプリ→なめらかな社会→銀河文字」と美しき旋律を奏でれば、ナ行も負けじと「川口浩→介護食→フロイト→金玉→いい子症候群」と華麗にビート刻む。それぞれ一人ずつ

          2022年 今年の一冊

          『RRR』は絶対的おすすめ映画!

          『バーフバリ』でおなじみラージャマウリ監督の最新作は、1920年代イギリス植民地時代のインドが舞台。ちなみにRRRはRise, Roar,Revoltの略で、制作費は驚きの97億円!!! 個人的に音楽にあまり乗り切れなかったのと、荒唐無稽成分はあるもののやりすぎ感がなかったので上映会向きではないが、十分面白く、今年絶対に映画館で見るべき映画。 3時間超えの上映時間なのに休憩がないから、途中でトイレに行く人が続出なのだが、早く戻ってきたくて小走りでいくのが、ツボにはまった。

          『RRR』は絶対的おすすめ映画!

          『カースト』カーストのプログラムは、我々全員の無意識にインストールされている

          カーストといえば、多くの方がインドを想起するかもしれないが、本書はアメリカの話である。カーストこそがアメリカ社会のヒエラルキー構造であり、社会秩序を維持するための手引きであり、対立の基盤でもあると著者は説く。 著者はアフリカ系アメリカ人の女性。ヒエラルキーに抗うことにより獲得した自由な視点で、自由の国アメリカの水面下に広がる、不自由や差別の構造を鬼気迫る筆致で描き出した。 まず、アメリカ社会における人種のヒエラルキー構造を浮かび上がらせるため、2つの補助線が引かれる。それ

          『カースト』カーストのプログラムは、我々全員の無意識にインストールされている

          『ストーリーが世界を滅ぼす』我々が物語を所有しているのか? 物語が我々を所有しているのか?

          世界はどんどん良くなっている。世界の人口のうち、極度の貧困状態にある人の割合は、過去20年で半分になった。そして自然災害で毎年亡くなる人の数は、過去100年で半分以下にもなった。 一方で、世界はどんどん悪くなっている。政治の分極化、止まらない環境破壊、野放しのデマゴーグ、混迷きわめるウクライナ情勢、終わりの見えないコロナ禍。 一体どちらが、本当の姿なのだろうか? 答えはストーリーを操る、語り手次第である。私たちが一生の間にたえまなく行うコミュニケーションには、何よりも重

          『ストーリーが世界を滅ぼす』我々が物語を所有しているのか? 物語が我々を所有しているのか?

          『映画を早送りで観る人たち』是か非かではなく、もはや不可逆

          YouTubeやNetflixで映画やドラマを1.5倍速で視聴するユーザーが急増しているという。それもそのはず、今やYouTubeにもNetflixにも倍速視聴機能や10秒スキップ機能が標準搭載されている時代だ。 しかし倍速視聴という行為だけを見れば表面化している些細な現象に過ぎないが、プラットフォーマー、コンテンツの作り手、社会、そしてユーザーを取り巻く様々な意識の変化がつながりあい、水面下ではうねりのような大きな変化が進行していた。 本書はかつて「『映画を早送りで観る

          『映画を早送りで観る人たち』是か非かではなく、もはや不可逆

          『アンソロ・ビジョン 人類学的思考で視るビジネスと世界』好奇心の使い方で、大きなリスクを未然に防ぐ

          ノンフィクション好き、とりわけ未開の地に住む部族の物語などが好きな人にとっては、実に役立つ一冊と言えるだろう。人類学的な思考法を獲得することが、ビジネスにおいて有効な知的ツールになりうるというのだ。 著者のジリアン・テットは、かつてフィナンシャル・タイムズの編集長も務めた人物。学生時代に文化人類学を専攻し、タジク人の婚姻儀礼を観察することで磨いたまなざしを、どのようにビジネスの世界へ転用したのか? そしてそれが多くのビジネスマンにとって重要なのはなぜなのか? 自身のキャリア

          『アンソロ・ビジョン 人類学的思考で視るビジネスと世界』好奇心の使い方で、大きなリスクを未然に防ぐ

          『古代中国の24時間』英雄たちの歴史の陰に民衆の変わらぬ日常があった

          「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか」という言葉がある。暗い場所から明るい場所はハッキリ見えるが、明るい場所から暗い場所は見えないだろうという意味だ。この言葉は、歴史の捉え方という観点から見ても、非常に示唆に富む。 中国古代史、中でも秦や漢の時代について語るとき、真っ先に脳裡に浮かぶのは、始皇帝、項羽と劉邦、三国志の武将など、その時代の太陽ともいえる人たちばかり。だが、激動の時代の頂点に君臨する英雄の足取りをもってその時代を理解する、という手法に見落としはないのだろうか。

          『古代中国の24時間』英雄たちの歴史の陰に民衆の変わらぬ日常があった

          2021年 今年の一冊

          HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊、今年で11回目を迎えるところとなりました。「この記事を読まないと、年を越せない!」といった声はまったく聞こえてきませんが、今年も勝手に開催させていただきます。 さすがにこれだけ長くやっていると、原稿を作成する際にメンバーのフルネームを何も見なくても正確に打てるようになっており、我ながらビックリしております。 ちなみにこのコーナー「今年最も○○な一冊」というお題で、レビュアーそれぞれにタイトルをつけてもらうのですが、身内の認知度が低いの

          2021年 今年の一冊

          『データ視覚化の人類史』思考すること、伝えること グラフ手法の進化プロセス

          コロナ禍で、新規感染者数やワクチン接種者数の推移グラフを世界中の人々が毎日のように眺め、喧々囂々議論するようになった。 これまでどのように推移し、この先どうなるのか。自国と海外を比べると、どのような違いがあるのか。問題が切実であるほど、一目で状況を理解できるグラフは頼りになる。過去を知り、未来を予測し、そして今何をすべきかを推し量るヒントとして、グラフは雄弁で、有能だ。 本書は、今やすっかり一般的になった「データ視覚化(data visualization)」の発展の概要

          『データ視覚化の人類史』思考すること、伝えること グラフ手法の進化プロセス

          『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』当たり前の不可思議さ、身近なものの奥深さ

          本は速く読めるにこしたことはないと思っている。だが久しぶりに、1日1章のペースでじっくりと味わいたい1冊が現れた。人体のあらゆるパーツをさまざまな角度から語り尽くし、徹底的に不思議を思議する。一見、当たり前のことほど驚きは深く、身近なものほど奥が深い。こういう感覚を何日にもわたって感じることができるのは、まさに至福だ。 著者はビル・ブライソン。これまで数々の秀作を手掛けたノンフィクションの名手が今回挑んだテーマは人体。本書は、「なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられ

          『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』当たり前の不可思議さ、身近なものの奥深さ

          『猫が30歳まで生きる日』ネコの寿命が2倍に? 「偶然」から活路を見いだす

          ネコ好きの人はもちろん、そうでない人にとっても朗報だ。ネコを飼った経験のある方はご存じかもしれないが、ほとんどのネコは老齢になると腎臓病にかかり、その多くは長く苦しんだ末に死んでしまう。しかし今、この腎臓病を治すための研究が進んでいるという。 もしこれが実現すれば、ネコの寿命は現在の2倍、30歳程度まで延びる可能性がある。それだけでなく、ネコを対象としたこの研究の成果により、ヒトの病気の治療にも明るい展望が開け始めているのだ。 本書では、これまでの医療では「治せない」とい

          『猫が30歳まで生きる日』ネコの寿命が2倍に? 「偶然」から活路を見いだす

          『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』まず自分の靴を脱ぐこと 足元から世界を変えていく

          著者が今、最も旬な書き手であることを確信させられる一冊だ。世界を覆う社会的なテーマを生活者として語り、解決のヒントを暮らしの中に見出す。そのスタンスや主張は数年前からさほど変わらないはずだが、時代が追いついてきた印象もある。 ブレイディみかこ氏が本作で選んだテーマは「エンパシー」。これは他者の感情や経験などを理解する「能力」を指す。エンパシーは「意識的に他者の立場で想像する作業」すなわち「他者の靴を履く」試みでもあり、その点で、共鳴する相手やかわいそうに思う相手に向けて心の

          『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』まず自分の靴を脱ぐこと 足元から世界を変えていく