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豆電球が切れる頃


春の風の奥の奥に
冬の冷たい風が潜んでいる気がして
僕は急に寒くなった

だが夏も夏で
夏の風の手前の
冬の冷たい風に触れる気がして
僕は急に凍えてしまう

そんな季節を過ごす人生を
素敵だねと笑った君を

僕はとても愛おしいと思った

君の素敵だねの奥に潜む
僕を蔑む感情が
僕にじわりと突き刺さる

ざくり、ではなく
じわり、じわりと突き刺さる

点いた豆電球が君の温もりを助長させて
ぬめり、ぬめりと僕の中で何かが巡る
春、夏、秋、冬
変わらぬ温もりである君を僕は愛おしく抱きしめる

僕はどんどん冷えていくのに
君は変わらぬ温もりで僕を抱きしめ返す

豆電球が切れる頃
僕らはまだそのままでいられるかな

変わらぬ温度で君を感じられるかな

そっと髪に触れるこの瞬間が
たまらなく愛おしいと感じるのは
僕が君の横で息をしているから
君が僕の横で四季を感じているから

ただどうして僕は
その温もりの奥の奥の
きっと潜む冷たさに恐怖を感じてしまうのか

物事の見えぬ深い底
君の気持ちが見えなくなる

愛の深さに溺れて落ちて
僕は僕の息が出来なくなる

今夜も灯る豆電球は
君の言葉の奥に潜む
冷たさまでは照らしてくれない

ねぇ僕はこんなに君が好きなのに
君が本当に見ているのはさ

きっとそれは僕の兄
僕なんかよりも眉目秀麗、なんでも出来る
僕の奥深くに潜む兄の姿を追っているのだ

僕が兄になるまで
君の深くにはいけない気がして
僕は怖くなるんだ

灯る豆電球の下
窓から入る四季の風を感じて
そしてそれはどれもどこか冷たくて
僕は僕でいられなくなる

ほら今日も冷たい風が僕らの髪を揺らす
寝ている君の髪を揺らす

夏は終わり秋が来て
僕はそこに冷たさを感じて

豆電球はそろそろ消える
最近点滅し始めた
それでも君は気づかない
寝ている間のその点滅を

きっとそれは愛が冷める時
豆電球は命を終える

でも僕はどうしても
君に気付かれたくなくて
翌日そっと豆電球を変えるんだ

きっとこれは終わらない冷たさに溺れているから
君の奥に窒息して息をしていない僕が
助けを求めないようにするための巧妙な罠

風に温かさを感じた時
僕の横にきっと君はいないんだ

僕が兄になるまで
どうか君の中の温もりを照らさないように

君の中の温もりをずっと僕に向けて貰えますように

それがたとえ君の容姿端麗な偽物の愛であるとしても
どうか僕に向けていて

僕がいつか兄になれるまで

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