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生成AIは塊根植物の交配種をイメージできるか? vol.1

ごきげんよう!ナディアのディレクター小笠原です。
今回から数回に渡り、趣味の園芸は生成AIによって世界を拡張できるのか?を試していきたいと思います。


1. 生成AI、活用してますか?

皆さんは生成AIを活用していますか?
かくいう私も「AIを使いこなせばきっと仕事や生活が効率化できる!省エネできるに違いない!」と夢を見つつも、追究しきれていません。

無償で使えるChatGPT(GPT-3.5 ※2023年10月時点)に法制度や非専門分野のあれこれについて尋ねたり、英文を翻訳・要約させたり、脳内ひとり言を“壁打ち”を試してみるも、一般論的で無難な返しに失望したり、なんとなく触ってはいるものの、明確に「これに使える!」というような最適解を導き出せてないのが現状で、検索エンジンの代替用途といった使い方の域を脱していません。

<Stable Diffusion(v1-5_original) 未就学児の落書きが具現化したようなイメージ>

 こちらはStable Diffusion(v1-5_original)で生成した画像です。 未就学児の落書きが具現化したようなイメージになりました。
このような洗練されていないイメージには妙な味わいがありますが、個人的には量産しただけで満足しがち。そのため、生産的かと問われればノーです。
ただし、AIを使ったチャンスオペレーション的なアートの手法としてはアリなのかもしれません。

2. 新型コロナ禍ではじめた園芸趣味

本題に入る前に…。
北海道在住の私ですが、2020年にナディアが本格的にリモートワークが導入したのを機に多少不便な場所へ引越し、山を望む南東向きの広いベランダを手にすることになりました。

よい機会なので夫婦で家庭菜園をやろうと草花やハーブなどを育て始めました。サボテンの購入を機に子供の頃から好きだった多肉植物に目覚め、日本では珍しい塊根植物を求めて収集癖がエスカレート。その結果、実生を含め50株ほど生育・管理するようになりました。
北海道の冬はマイナス10℃を下回るため植物は必然的に室内管理になることが理に適っていたり、生育環境が合っていたのもハマった理由ですね。

北海道の気候・住環境が多肉植物の生育に向いていると考える要因

・ 比較的生育の遅い多肉植物は片手サイズの鉢に植える
 (設置場所:ベランダ⇔室内の移動が容易)
・ 冬の室内はストーブ暖房のおかげでプラス10℃以上をキープできる
・ 夏の湿度・気温が低く、南アや南米の高山帯で育つ植物に向いている
 (関東以西はほぼ亜熱帯でこれらの種には酷)

マダガスカル産の塊根植物(現地球株)を植え替え

< Pachypodium rosulatum var.gracilius >
手元の管理株、赤肌個体。プラ鉢からの植え替え時の様子。
いちおう"象牙宮" という和名が与えられているが、まったく浸透していない。
陶器鉢(伝市鉢)に植え替え後。
日本の媒体ではパキポディウム・グラキリス/グラキリウスとカナ表記の揺れがある。
園芸界隈ではグラキリスと呼んでおけば通用する

3. 稀少植物の探究から世界を知る

私が注力している植物のほとんどは南アフリカ・マダガスカル、中東アジア、中南米などに自生するもので、種によってはCITES(ワシントン条約)で取引が制限されていたり、生育が極端に遅く商業ベースの生産・流通が確立できず園芸市場には出回らないものあります。
▶︎参考サイト:経済産業省 > ワシントン条約(CITES)

出典:© CITES『CONVENTION ON INTERNATIONAL TRADE IN ENDANGERED SPECIES OF WILD FAUNA AND FLORA(PDF)』

自生地の多くは南半球・赤道に近い、政情不安のある地域

自生地の多くは次代の経済成長を担うとされる「グローバルサウス」の国々が含まれるエリアになります。グローバルサウスのほとんどの地域は政情不安定で資源的に貧しいため、希少植物の輸出が手っ取り早い外貨獲得の手段になります。
その結果、管理不足による乱獲や盗掘により個体数の減少が進行し、CITESによって2〜3年ごとの会議で附属書(規制・保護対象リスト)が見直され、動物と同様に保護対象=絶滅危惧種が増え続けるという、まさにイタチごっこの様相です。

4. 社会課題を園芸にフィードバック

日本がワシントン条約の締約国になったのは1980年。
そんな昭和の時代から、多くの動物種を絶滅に追いやった近代の過ちと、同じ轍を踏まないために、植物をめぐる攻防があったことや、CITES締約国(欧米、日本を含むアジア、オセアニア)の生産者・取引業者が “持続可能な” 市場を目指して、自国生産や園芸品種の作出で安定供給に取り組んだり、自生地の生物資源の保全や農場化・組織生産体制の確立をサポートしていることに驚きました。

園芸趣味家としての使命に目覚める

そんな私は単なる消費者・植物コレクターに陥る一歩手前で社会課題に感化され、ちょと大袈裟ですが、自分への問いが芽生えました。

<私に芽生えた問い>
・ 顔の見えない出品者から謎のルートで現地球株の抜き苗を購入することは悪に加担していないか?
・ 現地で生育しきった老球を買うとその時点で完成されているが、それは園芸的に正しいか?
・ 自分の手もとにある株をもとに繁殖させることが、自生地への恩返しになるのではないか?
・株の繁殖ができて、やっと一端の園芸家・サキュレンティスト・カクタシアンを名乗れるのではないか?

園芸趣味家としての使命に目覚めた私は、手始めにすでに開花していた冬型のキク科オトンナ属での属間交配・結実〜実生を成功させました。そして、次は夏型のキョウチクトウ科パキポディウム属の交配を目指すことに!

<Pachypodium brevicaule(和名:恵比須笑い) >
手元の管理株。直径10cm程度でも樹齢は二桁に達していると思われる現地球。
こちらはグラキリスと異なり、和名のほうが圧倒的に浸透している。
確かにパキポディウム・ブレビカウレは発音慣れが必要

5. 現実は甘くない

期待通りには花をつけない=交配は次のシーズンに持ち越し

パキポディウムは恵比寿笑いとグラキリスの交配を目指したものの、残念なことにどちらも開花せず。
どちらも前年の秋にもっと低温に曝して確実に休眠に入らせるべきだったのか?それとも初夏の休眠明けに湿度・温度が足りなかったのか?
次のチャンスは翌年の春まで持ち越しです。

6. 生成AIに交配をシミュレートさせたい

「Mochi Diffusion」をつかってみよう

ここで本題です。
実際の植物での交配は見送りになったため、今回、生成AIにパキポディウムの交配種のシミュレートさせようと考え、StableDiffusionを使用することにしました。
ローカル環境でのサーバー構築を避けてStableDiffusionを利用するにはGoogle Colab(正式名“Colaboratory”)を使うとよさそうですが、ある程度はPythonの理解・習得が必要なため、今回は「Mochi Diffusion」というMacOS用のアプリケーションを使ってみることにしました。

ぜんぜん精度が出ない…

とりあえず「交配」をシミュレートする前に、まずは実在する塊根植物のリアルなイメージの生成を試みます。
植物の属・科・種名などの具体名と生成用の命令を組み合わせてみましたが…

塊根植物(caudex plants)という括りや、パキポディウム属(Pachypodium)・ユーフォルビア属(Euphorbia)などの属・種の具体名を組み合わせた画像生成

植物の生態は理解しておらず、あくまでPictureとしてのキメラを生成しているだけ。

< Stable Diffusion(v1-5_original) "the Pachypodium. caudex plants. growing out of the ground." >

次に、自生地の具体的な地名や生育環境などの状況説明を加えてみました。

< Stable Diffusion(v1-5_original) "Pachypodium gracilius. caudex plants. The plant trunk is pachycaule, up to 40 centimetres across, and typically short and fat like a more or less regular balloon. It grows on sandstone escarpment, cliffs and rocks. lives in habitat, madagascar." >

木立するアロエ(Aloidendron dichotomum)に近くなってしまいました。アロエのほうがパキポよりもメジャーだからでしょうか?
知名度と生成イメージの相関関係を確認するため、ヒマワリ(Sun Flower)やタンポポ(dandelion)といった一般教養レベルの植物名で試してみると、ほぼ1発で精度が高めの画像が生成されます。どうやらプロンプトが悪いわけではなさそうです。

一般常識的に知れ渡っている草花などであれば、単語一語でも精度が高い

ヒマワリだけは実写風のリアルな画像ではなく、初回から絵画調(ゴッホの影響?)で生成されているのにも注目。
生成AIは言語モデルだから、自然科学ではなく人文科学に根付いているのかもしれません。
つまり「始めに言葉ありき」であると…。
現時点で人類に浸透したヒマワリのイメージは"ゴッホのヒマワリ"が、"生物としてのヒマワリ"を上回っていると、この時点のStable Diffusion(v1-5)が判断している可能性が高いようです。

7. 結局、塊根植物専用の学習モデルが必要?

塊根植物"パキポディウム"の交配種イメージを生成させるという理想には、素の状態の(?)Stable Diffusionでは役不足だということが理解できました。
理想の人物や人型キャラクターの生成に独自の学習モデルが多数出回っているように、塊根植物・多肉植物専用の学習モデルを用意する、追加学習させる必要がありそうです。

参考記事: Stable Diffusionで利用できるモデルを一覧でカテゴリー別に解説! - 法人様向けパソコンならドスパラプラス

そもそも自然科学的な整合性を担保したいなら、少なくとも種子植物全般のイメージも用意して追加学習させないとダメなのかもしれません。
ここに来て著作権の問題(AIの無断学習)に直面するのか…どうやら先は長そうです。さて、植物に特化したモデルは出回っていないのかな?
つづきはまた!


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