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【読書コラム】大人の女子サッカー部は面倒だけど楽しそう! - 『女の答えはピッチにある:女子サッカーが私に教えてくれたこと』キム・ホンビ(著), 小山内園子(訳)

 仕事関係で女子サッカーについて調べることがあった。

 小学生の頃、2002年のワールドカップ日韓大会があったので、当時、テレビっ子だったわたしは連日ハイライト映像を浴びせられ、サッカーに対する興味を人並み程度植え付けられている。それでも、女子サッカーを知ったのはなでしこジャパンが女子ワールドカップで優勝したとき。あくまでサッカーのメインは男子なんだと思っていた。

 ところが、あるネット記事に女子サッカーの方が盛り上がっていた時代もあると書いてあり、ビックリした。

 まず、サッカーの世界最古のオフィシャル協会が1863年だったのに対し、女子サッカーの公式試合がスコットランドでは1881年に、イングランドでは1895年に行われているというのだ。

 これに対して、フットボール・アソシエーション(FA)は女性差別な対応を取ったという。

 当時のイギリス社会では、女子サッカーの盛り上がりは「意外」なことだった。社会生活における男女格差は大きく、「サッカーは男性のスポーツ」という考えが根強かったからだ。女性がサッカーをすることに好意的ではない人も少なくなかった。

 それを裏付けるかのように、1902年、FAは加盟クラブに対し「女性と試合をしてはいけない」という通達を出した。女子サッカーの盛り上がりを抑えようとしたのだ。

KEGEN PRESS

 しかし、その後、第一次世界大戦が勃発。男性が戦地へ行き、女性は工場勤務に努める中、ストレス発散目的で女子サッカーが推奨されるようになったとか。

 その延長で軍需工場ごとに女子サッカークラブが作られるようになり、チャリティー目的の交流試合が開催。スター選手も誕生し、興行的にも人気を収めたらしい。

 しかし、戦後、またしてもFAが女性差別な邪魔をする。

 こうした状況を危惧したFAは、1921年、加盟クラブに対し「グラウンドを女子クラブに貸し出ししないように」と通達を出した。事実上、女子サッカーの試合を禁止したのだ。

 FAの評議会は「フットボール(サッカー)は男子のスポーツ」「フットボールは女性の健康を損なう」などといった偏見や根拠のない主張にもとづき、「フットボールの試合は女性に不適切であり、奨励されるべきではない」と結論づけた。英紙ガーディアンによると、当時の出席者からは「女性がフットボールをすることについて不満が出ている」などの意見があったという。

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 結果、女子のクラブチームは軒並み解散に追いやられ、1970年に至るまでこの理不尽な女子サッカー禁止令は続いたみたいだ。

 これが本当だとしたら、とんでもないことだと思った。だって、わたしがそうだと信じ込んできたサッカーにおける男女のイメージは、意図的に演出されたものだった可能性が高いのだから。

 正直、そこまで調べる必要はなかったのだけど、ネット記事にはソースが明記されていなかったので、個人的にあれこれ資料を集めることにした。

 それで、女子サッカーについて、テクニック論や選手の自伝、フィクションを除き、社会的見地を踏まえた書籍を探したところ、以下の二冊がヒットした。

 とりあえず、どちらも購入した。恐らく、『女子サッカー140年史:闘いはピッチとその外にもあり』の方に求めている情報が記載されているのだろうと予測を立てつつ、いまは我が家の積読コーナーに置いてある。

 というのも、先に届いた『女の答えはピッチにある:女子サッカーが私に教えてくれたこと』が面白過ぎて、ぐいぐい読み進めるうち、体験ルポ型のエッセイにハマってしまったのだ。

 この本は著者がブログで個人的に連載していたエッセイを出版したもの。リアルな経験を載せているので、個人情報保護の観点から匿名で描かれているけれど、なにもかもがリアルで凄い!

 男子サッカーマニアな著者は見る専門、子どもの頃から体育は苦手。なのに、近所で女子サッカーの社会人サークルがあると知り、興味本位で見学を申し込み、初日から練習に参加させられ、あれよあれよとメンバーになってしまう。

 自らの意志でスポーツに勤しむ喜びが語られる一方で、練習試合で一緒になった男性たちのマウンティングやチーム内の揉め事など、ひゃーって感じのエピソードがポップな文体で綴られていく。

 なんというか、正直、非常に面倒くさそう。ふだんの仕事で疲れているだろうに、休日、朝早くからトレーニングをしたり、人間関係に心をすり減らしたり、よくだからなぁと感心してしまう。だって、そんなことをしても給料は出ないどころか、会費を払わなきゃいけないわけで、赤字もいいところなんだもの。

 ただ、そういうしんどさを丸ごとひっくり返してしまうぐらい、自分の身体を自分の望んだ通りに動かして、ボールをポーンッと蹴り上げることは、なにものにも変え難い快感があるらしく、それを味わえるのは堪らなく羨ましい。

 なぜ、協会から女子サッカー禁止令が出てもなお、世界中でサッカーに励む女性たちが消えたりせず、その火をつなぎ続けたのか。性別に関係なく、人間として、サッカーを楽しみたいというシンプルな思いがすべてなのかもしれない。

 女子ワールドカップの規模は毎回大きくなっているし、2021年には日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)も始まった。本書はサッカー本大賞2021を受賞しているが、女子サッカーを取り巻く現代情勢を反映した実に象徴的な一冊だった。



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