魂の交感から鎮魂へ。幽玄なる世界へと誘われる。小説「死者の書・口ぶえ」★5
8世紀奈良、非業の死を遂げた滋賀津彦(大津皇子)の魂が目覚め、そして、藤原南家の郎女は、そこに尊い俤を見る。二人は交感し、郎女の純真な想いは滋賀津彦の魂を鎮めていく。幻想的小説。他2編。
文庫2010年 折口信夫
最初に読んだのが、中公文庫の「死者の書」で、思いのほか気に入ってしまったので、こちらの岩波版も読んでみようと買ってしまった。あと気になるのが角川ソフィア文庫の。機会があれば見てみよう。
こちらは中公文庫のものに比べると、文字のサイズは小さくなっているが、読みやすい文体になっていると思う。何より詳細な解説があり、この難解な作品の理解に非常に役立ち、助かる。満足度高し!
でも、中公文庫の方の魅力もあるし、どっちがいいとは一概には言えない感じ。好みよねー。角川ソフィアのはどーなのかなー。値段でいうと、角川1000円→岩波800円→中公600円。ボリュームによるのかな。
「死者の書」
下地になるのが、奈良・當麻寺に伝わる中将姫伝説、大津皇子(滋賀津彦)の史実、山越しの阿弥陀像、あたりが組み合わされている。加えて、大伴家持と恵美押勝、天若日子神話、日想観などで構成。「執着」からの解放。
「死者の書 続篇」
続編となっているが、単純な続編ではなく、素人の自分からすると続編だと感じられなかったが、解説によると、どうやら、つながりを感じられるものらしい。そもそも「続編」とつけたのは編纂者のよう。
藤原頼長(1120~1156)がメイン。第一稿が熊野詣(中止)、第二稿が高野詣。男色の香りが漂う。もう一人の重要な存在が空海。こちらにもまた幻視的体験あり。未完のようなので、やはり続きが気にはなる。
「口ぶえ」
自伝的物語。同性愛者の少年・漆間安良(15歳?)の夏。彼の心を惑わす二人の男、''けがわらしい''岡沢と''浄らかな''渥美泰造。複雑な心模様。こちらも未完。崖っぷちラストの続きが気になる。
解説によると、主題となったのは、父の死や二度の自殺未遂、中学時代の落第による傷心一人旅、「すべての浄らかなるものと、あらゆるけがわらしいものとが」混然一体となった記憶の再現だと。
やはり妙な魅力。また読みたいわん!
「死者の書」文庫
主には、中公文庫・岩波文庫・角川ソフィア文庫、があるのかな。
漫画版、人形アニメ版も!