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経営者たちの哲学

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#経営哲学

自燃性 -「主体性」の哲学、稲盛和夫を中心に 3/4

自燃性 -「主体性」の哲学、稲盛和夫を中心に 3/4

稲盛和夫は、「自燃性」を主体性の重要な要素だと考えていた。「自燃性」とは、自ら情熱を持って行動を起こし、自分自身を高めていく性質のことを指す。

この章の冒頭にも紹介した稲盛自身が若い頃に実存的な悟りを開いたエピソードがある。当時、憧れて入った会社に嫌気がさし、辞めようかと考えていた。しかし、彼は、状況をどう受け止めるかは自分次第だと気づいたのだ。周りに流されるのではなく、自ら主体的に意味付けを行

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分解思考 -「主体性」の哲学、稲盛和夫を中心に 4/4

分解思考 -「主体性」の哲学、稲盛和夫を中心に 4/4

稲盛和夫は、主体性を発揮するために「分解思考」の重要性を説いていた。「分解思考」とは、大きな問題を小さな要素に分解し、一つ一つ解決していくアプローチのことを指す。

稲盛はこう語っている。

「できない」ものを「できる」と引き受けて、実際に「できる」までやり続ける。

これは、「未来へ向かって自己の可能性を追求し、自分自身を創造していく」という「自燃性」の精神に基づいている。しかし、可能性を開くに

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「成長」の哲学、江副浩正を中心に(1/3)

「成長」の哲学、江副浩正を中心に(1/3)

江副浩正は、リクルートの創業者であり、同社を日本初の包括的人材サービス会社に育て上げた経営者だ。2020年度の経済産業省の調査によると、大学発ベンチャーの数は過去最高の2,905社に達している。しかし、リクルートが創業された1960年代には、大学発ベンチャーはほとんど存在していなかった。そんな時代に江副が生み出したリクルートは、昭和最大のベンチャー企業に成長を遂げた。江副の哲学の核心には、「成長」

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人と違う -「成長」の哲学、江副浩正を中心に(2/3)

人と違う -「成長」の哲学、江副浩正を中心に(2/3)

江副浩正は、「人と違う」ことを重要な成長の要素だと考えていた。彼は、個性を発揮し、他者と一線を画すことで、新たな機会を創出し、自己成長につなげることができると説いた。

「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」

もっとも有名な彼のこの言葉には、自立と自己成長の重要性が込められている。一方で、会社側の支援や教育の提供を怠ることを正当化する言葉とも受け取れる。しかし、江副がリクルートを創業し

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人を見つける、人を育てる -「成長」の哲学、江副浩正を中心に(3/3)

人を見つける、人を育てる -「成長」の哲学、江副浩正を中心に(3/3)

「君たちは22年の人生で先人が創った歴史を学んできた。でも23歳からは自分で歴史を創るんだ。リクルートならそれができる。一緒に歴史を創らないか」

江副浩正は、優秀な人材を発掘し、育成することを重要視していた。リクルートの情報誌ビジネスでは、創業当初から多くの学生アルバイトを雇用していた。また、新入社員の最も重要な仕事は、自身の出身大学で自分よりも優秀な人材や、周囲に一目置かれている人材を見つけ出

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「努力」の哲学、松下幸之助を中心に(1/4)

「努力」の哲学、松下幸之助を中心に(1/4)

松下幸之助は、自らの人生において「努力」を何よりも大切にしていた経営者だ。彼は、厳しい環境下でも決して諦めることなく前進し、卓越した実力と謙虚さを兼ね備えた人物として知られている。

松下は、自身の成功の秘訣について次のように語っている。

「私は天からの3つの恵みを受けて生まれた。家が貧しかったこと、体が弱かったこと、小学校までしか進学出来なかったこと」

一見すると不利な条件ばかりに思えるが、

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あきらめない -「努力」の哲学、松下幸之助を中心に(2/4)

あきらめない -「努力」の哲学、松下幸之助を中心に(2/4)

松下幸之助は、「あきらめない」ことを何よりも大切にしていた。彼は、どんな困難に直面しても、決して諦めてはならないと説いた。

松下は、若い頃に師事した親方から聞いた話として、以下のような話をしている。

「ぼくが奉公している時分に一人前になるためには、小便が赤くなるくらいにならないとあかんのや、そういうことを二、三べん経てこないことには、一人前の商売人になれんぞということを、親方から聞いた。どうい

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謙虚さ -「努力」の哲学、松下幸之助を中心に(3/4)

謙虚さ -「努力」の哲学、松下幸之助を中心に(3/4)

松下幸之助は、「努力」と同じくらい「謙虚さ」を大切にしていた。彼にとって、この二つは表裏一体のものだった。

努力することは、自己の能力を最大限に引き出し、目標達成に向けて精進することを意味する。一方で、謙虚さは、自分の限界や他人の価値を認識し、尊重することを意味する。謙虚な人は自分の成果を過大評価せず、成功を他人と共有する傾向がある。努力と謙虚さを兼ね備えた人、それが松下幸之助氏であった。

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「仲間」の哲学、本田宗一郎を中心に(1/4)

「仲間」の哲学、本田宗一郎を中心に(1/4)

「仲間」の哲学、本田宗一郎を中心に

本田宗一郎は、自動車修理の仕事をはじめとして、自分で手を動かして部品をつくり、組み立てる人だった。彼はよく次のように言っていた。

「右手は左手を可愛がり過ぎるくらいに可愛がって、それでちょうどいい」

右手が目立つ仕事をする人、左手が陰でそれを支える人を表現したこの言葉には、裏方こそが最も大切だという本田の思いが込められている。

本田宗一郎は、よき仲間と出

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支えあい ー「仲間」の哲学、本田宗一郎を中心に(2/4)

支えあい ー「仲間」の哲学、本田宗一郎を中心に(2/4)

本田宗一郎は、仲間との支え合いを何よりも大切にしていた。彼にとって、仲間は単なる同僚ではなく、互いの長所を活かし、短所を補い合う存在だった。本田はこう語っている。

本田は、一人一人が自分の強みを最大限に発揮し、仲間と協力することが、成功への鍵だと考えていた。自分の力の足りないところを自覚し、他人の知恵や力を借りることの大切さを説いている。

本田にとって、仲間との信頼関係は何物にも代えがたい財産

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理念 -「努力」の哲学、松下幸之助を中心に(4/4)

理念 -「努力」の哲学、松下幸之助を中心に(4/4)

企業は営利追求だけを目的とするのではないと言えばきれいごとに聞こえるだろうか。松下幸之助は、事業というものは社会に貢献し人々の生活を向上させる存在であるべきだと考えていた。また、企業は公明正大に運営され、私利私欲を追求すべきではないと考えていた。

松下は、企業の目的についてこう語っている。

「一般に、企業の目的は利益の追求にあると言われる。たしかに利益は健全な事業経営を行う上で欠かすことができ

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「人の心に棲んでみよ」 思いやり-「仲間」の哲学、本田宗一郎を中心に(3/4)

「人の心に棲んでみよ」

本田宗一郎は、仲間への思いやりを何よりも大切にしていた。彼は常に、相手の立場に立って考えることを心がけ、それを社員にも求めた。

本田は「人の心に棲んでみよ」という言葉をよく口にしていた。これは、お客様の立場に立ち、どんな商品を本当に望んでいるのかを深く考えることを研究者たちに求めたものだ。本田は、市場調査によって製品を決めることを嫌い、顧客の声を無批判に受け入れることを

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「社長なんて偉くも何ともない。課長、部長、包丁、盲腸と同じだ。要するに命令系統をはっきりさせる記号に過ぎない。」平等-「仲間」の哲学、本田宗一郎を中心に

本田宗一郎は、社内における平等を何よりも大切にしていた。彼は、社長であっても、一般の従業員と同じ技術者の一人に過ぎないと考えていた。

本田は、社長という地位を偉いものだとは考えていなかった。彼はこう語っている。

「社長なんて偉くも何ともない。課長、部長、包丁、盲腸と同じだ。要するに命令系統をはっきりさせる記号に過ぎない。」

社長という役職は、組織における序列を明確にするための単なる記号に過ぎ

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国籍なんちゅうのはただの紙きれだー「夢」の哲学、孫正義を中心に(1/3)

国籍なんちゅうのはただの紙きれだー「夢」の哲学、孫正義を中心に(1/3)

「今まで自分が悩んできた国籍だとか人種だとか同じように悩んでいる人達がいっぱいおる。俺は立派な事業家になってみせて孫正義の名前で、みんな人間は一緒だと証明してみせる。」

孫正義はソフトバンクグループの創業者である。彼が何よりも大切にしてきたのは「夢」だった。常に大きな夢を抱き、その実現に向けて果敢にチャレンジし続けることを説いた。

孫氏の「夢」重視の姿勢は、苦しい生い立ちの中から育まれていった

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