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謙虚さ -「努力」の哲学、松下幸之助を中心に(3/4)
松下幸之助は、「努力」と同じくらい「謙虚さ」を大切にしていた。彼にとって、この二つは表裏一体のものだった。
努力することは、自己の能力を最大限に引き出し、目標達成に向けて精進することを意味する。一方で、謙虚さは、自分の限界や他人の価値を認識し、尊重することを意味する。謙虚な人は自分の成果を過大評価せず、成功を他人と共有する傾向がある。努力と謙虚さを兼ね備えた人、それが松下幸之助氏であった。
松下は、謙虚さについてこのように語っている。
「素直な心になりましょう。素直な心はあなたを強く正しく聡明にいたします」
「なすべきことをなす勇気と、人の声に私心なく耳を傾ける謙虚さがあれば、知恵はこんこんと湧き出てくるものです」
松下は、素直な心と謙虚な姿勢が、人を強く、正しく、そして賢明にすると説いている。他者の意見に耳を傾け、それを自分の糧とすることの大切さを強調しているのだ。
また、松下は経営者にとって謙虚さが不可欠だと考えていた。
「よく人の意見を聞く、これは経営者の第一条件です」
「私は学問のある他人が全部、私より良く見え、どんな話でも素直に耳を傾け、自分自身に吸収しようと努めました」
経営者は、他者の意見に真摯に耳を傾け、それを自分の成長につなげることが重要だと松下は説く。自分より優れた人の話を素直に聞き、吸収する姿勢が必要なのだ。
さらに松下は、謙虚さが人と人とを結びつけるものだと考えていた。
「誠意や真心から出たことばや行動は、それ自体が尊く、相手の心を打つものです」
「「ありがとう」と言う方は何気なくても、言われる方はうれしい、「ありがとう」これをもっと素直に言い合おう」
誠意や真心から発せられる言葉や行動は、相手の心に届く。そして、感謝の気持ちを素直に表現し合うことで、人と人との絆が深まるのだ。
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優れた経営者で謙虚さの重要性を説かない経営者はいないだろう。ほかの経営者の謙虚さが垣間見える名言を紹介する。
「人を動かすことのできる人は、他人の気持ちになることができる人である。相手が少人数でも、あるいは多くの人びとであっても、その人たちの気持ちになりうる人でなければならない」(本田宗一郎)
「成功する者と失敗する者の違いは、頭の差より性格の差の方が大きい」(孫正義)
本田宗一郎は、他者の気持ちになることの大切さを説き、孫正義は性格の重要性を強調している。いずれも、謙虚さが成功の鍵であることを示唆しているのだ。
松下幸之助の「謙虚さ」の哲学は、自分の限界を認識し、他者の価値を尊重することの大切さを説いている。素直な心で他者の意見に耳を傾け、感謝の気持ちを表現し合う。そうすることで、人は成長し、人と人との絆も深まる。この哲学は、私たち一人一人が他者と協調しながら生きていく上で、重要な指針となるだろう。