【親が生活保護を受給できる可能性】最低生活費を計算してみよう【老人ホームに入居していてもOK】
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親の介護を担うことになった多くの方々は、高額な介護費用に直面し、どう対応すべきか悩みます。
このような状況で、生活保護制度という重要なセーフティーネットの存在は知っているものの、自身のケースでは利用できることを知らない方が多いのが現実です。
また、制度の誤解が、適切な支援を受ける機会を逃す原因にもなっています。
この記事では、生活保護制度における最低生活費の計算方法について詳しく解説します。
生活保護制度は、年金受給者でも利用可能ですし、特定の状況下での加算も存在します。
これらの情報を理解することで、無理な経済援助を行う前に、自分の親が生活保護制度を利用可能かを把握し、「もし子供が経済援助できなくなった場合でも思い詰める必要はない」という、心の拠り所を持てる手助けとなることを願っています。
生活保護制度の基礎知識
生活保護制度は、すべての国民が人間らしい生活を送ることができるようにという理念の下、設けられた制度です。この制度の目的は、経済的な困難に直面している人々に対し、最低限度の生活を保障することにあります。
生活保護の対象となる人々
生活保護は、生活に困窮している日本国民が対象となります。ここでいう「困窮」とは、自力での生計維持が困難で、健康で文化的な最低限度の生活を営むことができない状態を指します。
年金受給者であっても、その収入が最低生活費に満たない場合は、生活保護の申請をすることが可能です。生活保護を受けるための条件
生活保護を受けるためには、まずその必要性があるかどうかを市町村の社会福祉事務所で相談し、査定を受ける必要があります。
査定は、申請者の収入、資産、家族構成、生活状況などを考慮して行われます。
生活保護の計算方法
生活保護の給付額は、申請者の「最低生活費」と「自己収入」の差額に基づいて計算されます。ここで重要なのは、「最低生活費」という概念を理解することです。
最低生活費とは、健康で文化的な最低限度の生活を送るために必要な費用のことを指します。
この費用には、食費、住居費、光熱費、衣類費、医療費などが含まれます。
最低生活費は、申請者の居住地域、家族構成、年齢、健康状態などによって異なりますが、介護を要する高齢者の場合は基本的に以下の「生活扶助」と「住宅扶助」の基準額を合算した額を最低生活費として考えれば良いでしょう。
計算の流れとして、まず、申請者の家族構成や状況に応じて最低生活費が算出されます。
ここでは以下の条件を例に計算していきます。
厚生労働省のHP(生活保護制度のページ)には、最新の級地区分一覧表と、生活扶助基準額の算出方法が記載されたシートが公開されているので、それらを使って確認しましょう。
級地区分とは、生活保護法第8条2項を根拠に、各地域における物価差などの実態に合った同一の生活水準を保障する観点から設けられています。
ここでは、当社の本社所在地である大阪府大阪市を例にしていきます。
級地区分は「1級地-1」と確認したので、生活扶助基準額の表を見ながら、年齢条件の各項目を計算します。
該当する項目に赤色の枠をつけています。
次に住宅扶助の基準額を確認します。
2024年1月16日時点では、厚生労働省社会・援護局長が平成27年4月14日に通達した「社援発0414第9号」が最新の基準になっています。
最後に先程算出した生活扶助の基準額と、確認した住宅扶助の基準額を合算すると、今回のモデルケースの最低生活費になります。
最低生活費から収入を差し引いた金額が、生活保護の給付金額となります。
この計算方法によって、それぞれの申請者に必要な給付額が決定され、個々の状況に応じた支援が提供されます。
今回のモデルケースでは、在宅介護には限界が見えており老人ホームの入居も視野に入れていました。
いま住んでいる大阪市内で選定する場合、単身世帯の住宅扶助基準額である40,000円以内かつ、家賃を含む月額料金(食費、共益費・管理費などを入れた総額)が最低生活費の111,900円以下の老人ホームなら生活保護を受給しながら住めるということになります。
収入が最低生活費を上回っても生活保護は受給できる
以下の要件を満たす場合は、収入が最低生活費の基準を超えていても生活保護を受給できる可能性があります。
収入から介護費用を差し引いた額が、最低生活費を下回る
介護によって、就労や資産形成などの経済活動が困難
認知症などで、日常生活や社会生活に支障があり、就労や資産形成が困難
扶養義務者(3親等以内の親族)からの経済的な支援を受けられない
このようなケースでは、収入が多くても、介護によって生活に困窮しているといえるため、生活保護を受給できる可能性があります。
また、収入のみで生活ができるように生活保護は却下されて境界層処置が適用される場合もあります。
境界層処置の概要については以前の記事をご覧ください。
特別な加算や一時扶助(臨時の給付)について
生活保護制度においては、特定の状況にある申請者に対して、先程計算した標準的な最低生活費(1類、2類)に加えて、特別な加算等が適用されることがあります。
一部を抜粋して説明します。
障害加算
障害者手帳の交付を受けている生活保護受給者において、障害年金1級または2級相当の障害を有する場合、障害者加算をつけることができます。生活扶助費の基準額に上乗せして支給される加算で、一人ひとり異なる障害特有のニーズに応えるために重要な役割を果たします。
障害基礎年金と生活保護制度における障害加算は別の制度ですが、障害基礎年金と生活保護は重複して受給することができません。
具体的には、障害基礎年金が優先的に支給され、生活保護費から年金額が差し引かれてプラスマイナス0になってしまいます。
しかし、障害基礎年金を請求する意味はないわけではありません。
何らかの理由で一時収入があり生活保護を休止、もしくは生活保護を廃止(抜けた)した後の生活において、「障害年金があるかないか」は大きな違いになるため、障害基礎年金が受給できる状況であれば申請しておくのが最善です。冬季加算
冬季加算は、特に寒冷地域において冬季の間、暖房費などの追加経費を支援するために提供されます。期末一時扶助
全国的にそれが一般かどうか不明ですが、阪神エリアでは俗に「正月のお餅代」などと呼ばれています。
「最低限度の文化的生活」をするにしても、年末年始は何かと物要りなので、それに対するものです。一時扶助
在宅で生活している生活保護受給者が、介護を理由に在宅生活が困難になり、老人ホームに入居する場合の引越し費用等は、移送費として給付されます。
また、在宅での生活環境が劣悪なケースでは、老人ホームに転居する際にこれまで使用していた衣類や寝具が不衛生で持って行けず、新たに購入するための被服費を臨時で申請したりします。
まとめ
この記事を通して、生活保護制度の基本的な知識、特に最低生活費の計算方法と特別な加算について解説しました。
生活保護は、経済的に困難な状況にある人々が健康で文化的な最低限度の生活を送るための重要なセーフティーネットです。
特に、高齢者や障害者に対する加算は、それぞれの個別のニーズに応じた適切な支援を可能にします。
私は、生活保護制度の正しい理解として、だれでも利用できる権利がある事と、どのような状況であれば利用できるのかを知っておくことが何より重要だと考えています。
もし、ご自身やご家族が生活保護の申請を検討している場合は、地域の社会福祉事務所や専門家に相談することをお勧めします。
また、周りに介護で思い詰めている方がいれば、この情報を共有して彼らの支援に役立ててください。
最後に、親の介護は大切ですが、無理な介護や金銭援助は身を滅ぼします。
適切な情報を得るための積極的な取り組みを心掛けましょう。
一人ひとりが知識を持つことで、社会全体がよりサポートし合える環境を作り出すことができます。