「赤トンボのいた夕焼け空」
「僕の昭和スケッチ」イラストエッセイ206枚目
赤とんぼが好きだった。
竹垣の先などに止まっているのを見つけて駆け寄ったものだ。
だが、捕まえようとは思わなかった。子供心に何故か赤とんぼは捕まえてはいけないもののような気がしたからだ。
思い出すのは、秋の夕暮れ時。
まるで凶兆かと思うほど無数の赤とんぼが茜色の空に飛んでいた。
あまりの数の多さに驚嘆し、ポカンと大きな口を開けて見上げていたのも懐かしい。
そんな赤とんぼだが、次第に姿を見なくなった。
原因は稲作に殺虫剤が使われるようになった事と、そもそも水田そのものが減ってしまった(後継者不足等による水田の放棄)ため、と言われている。
水田は何と6000種を超える生き物*を育んでいたと言われ、赤とんぼも水田をゆりかごに育っていたのだ。
もちろん、農家は米を作るために稲作をしている訳で、赤とんぼのために働いている訳ではない。そもそも、農家の方達に生物の多様性を負わせるのもお門違いというものだ。それに、私達日本人が米を以前ほど食べなくなった・・つまり、水田減少の遠因は私達の食生活の変化でもある。
そう考えると、赤トンボがいなくなったことを嘆くのは、ただ都会に住む者の身勝手な感傷ということになる。
・・・難しいものだ。
けれど、感傷がなくなっては人は人ではなくなる。
暮らしの中に色々な生き物がいて、彼らと共に日々を紡いでいく。
現代は、もはやそんな事を望めない社会なのだ。
<余談>
僕は子供の頃、あまり童謡が好きではなかった。
何か古臭いものを大人や学校から押し付けられているような気がしたのだ。
だが、今聴くと、こんなに良いものだったのかと驚く。
自分は、なんと阿呆で嘆かわしい子供だったのだろうと恥じる。
「赤とんぼ」 山田耕作/作曲 三木露風/作詞
山田耕作の曲も無論素晴らしいが、三木露風の歌詞に胸打たれる。