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弱おじの本棚

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読んだ本の記録です。
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#読書感想文

純文学とは景色を眺めるようなものなのかもしれない。〜「海岸通り」を読みました〜

純文学とは景色を眺めるようなものなのかもしれない。〜「海岸通り」を読みました〜

坂崎かおるさんの「海岸通り」を読んだ。

綺麗だ。美しい。

文章を読んでいるのに、まるで景色を眺めているような感覚になる。

純文学ってそうゆうものかもしれない。
正直、本書を通じて作者が何を伝えたかったかなんて、無能な僕にはわかりはしない。

読んでいて心地が良かった。
おしゃれなワードセンスに心が躍った。
人と人との繋がりに心が温かくなり、恵まれない環境で生きる人を見て安心してしまう醜い自分

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春日という生き方はいわばマインドフルネスである。〜「春日と筋肉」を読みました〜

春日という生き方はいわばマインドフルネスである。〜「春日と筋肉」を読みました〜

「春日と筋肉」を読んだ。

春日さんが好きだ。
もちろん、若林さんも大好きだけど。

春日さんは継続の人だ。
継続は力なりという言葉を、身をもって体現している。

本書を読んで、その原動力は良い意味での「モチベーションの欠如」にあるのではないかと感じた。
壮大な夢も大きな理想もなく、ただ目の前のことを、やる。
そこに春日さんの強さであり魅力であり、幸せに生きるコツがあるのではないか。

私たちはつ

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自分の言葉で語るという最上のエンタメ〜「好きを言語化する技術」を読んで〜

自分の言葉で語るという最上のエンタメ〜「好きを言語化する技術」を読んで〜

「好きを言語化する技術」を読んだ。

感動したもの、自分の好きなものについて上手に相手に伝えるためのテクニックや考え方が詰め込まれた本。

本書を読んで、他人の言葉じゃなく、自分の言葉で伝えることの大切さを改めて学んだ。

何か作品に触れた時。
真っ先にSNSで誰かの感想を読み漁ってる自分がいた。

そうそう!わかる!
共感は喜びだが、その言葉に影響されて、自分が感じた尊い感情が上塗りされてしまっ

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考えたところで社会は変えられないが、その想像力は人生を豊かにしてくれる。〜「カエル男」を読んで〜

考えたところで社会は変えられないが、その想像力は人生を豊かにしてくれる。〜「カエル男」を読んで〜

「カエル男」を読んだ。

見事だ。
本を閉じて、そう呟いてしまった。

もちろん、ミステリー作品として素晴らしい。
どんでん返しに次ぐどんでん返しで、驚きながらどんどんとページを捲ってしまった。

その高揚感を支える本書の魅力は、裏側にしっかりと根付いたテーマなのだろう。

精神に異常のある方の犯罪は、犯罪として扱われるのか?
既に多くの議論が重ねられている問題であるが、恥ずかしながら、本書を読む

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楽しいから、やる。そんなことを増やしていけたらいい。〜「手段からの解放」を読んで〜

楽しいから、やる。そんなことを増やしていけたらいい。〜「手段からの解放」を読んで〜

「手段からの解放」を読んだ。

現代はすべての行為が目的への手段になってしまっていて、その物事自体を感じる喜びが得られていないよねって話。
身に覚えがありすぎて、少し怖くなった。

例えばSNSでいいねをもらうためだけに良い景色の場所にいったり。
その景色を楽しめてなんていなくて、見ているのは画面ばかりだったり。

行為自体を楽しむ。
〇〇のため、なんて考えないで、楽しいから、やる。
そんな趣味や

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撮りたいものを撮る。生きたいように生きる。それを人は青春と呼ぶ。〜「みずもかえでも」を読みました〜

撮りたいものを撮る。生きたいように生きる。それを人は青春と呼ぶ。〜「みずもかえでも」を読みました〜

関かおるさんの「みずもかえでも」を読んだ。

これはお仕事小説であり、青春小説だ。

主人公はウェディングフォトを撮るカメラマン。
訳あって落語を撮るカメラマンという夢に蓋をしている。

人生のカメラをどこに向けるか。
本当に自分が撮りたいものを撮ろうとしているか。
本書が僕にそう問いかける。

生きたいように生きることは難しい。
社会と折り合いをつけながら、撮りたくもない被写体をぼんやりと眺める

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苦しいけど、苦しくて当たり前って思えたら、少し苦しくなくなった。〜「太陽の坐る場所」を読んで〜

苦しいけど、苦しくて当たり前って思えたら、少し苦しくなくなった。〜「太陽の坐る場所」を読んで〜

辻村深月さんの「太陽の坐る場所」を読んだ。

他者との比較。
それじゃいつまでも幸せになんてなれない。
わかってる。

そんな自分を認める。
苦しんできた自分を、優しく肯定してあげる。包んであげる。なかったことになんてしない。

この先もきっと、他者との比較に苦しむのでしょう。
人間として生きてく以上、避けられないもの。
でもそんな自分を認めてあげられたら、少しは生きやすくなるかもね。

みんな同

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自由とは必然から逃れることじゃなく、必然をオモロがろうとすること。〜「はじめてのスピノザ」を読んで〜

自由とは必然から逃れることじゃなく、必然をオモロがろうとすること。〜「はじめてのスピノザ」を読んで〜

「はじめてのスピノザ」を読んだ。

「自由」とは何だろう?
何の制限もなく、気ままに生きること?

スピノザは、必然の中で前向きに楽しむことを自由だと読んだ。

この世界は必然しかない。
神様が与えてくる試練だとか、ランダムのように訪れる不幸とか、たまの幸せとか。

自由とは、この必然から逃れることではない。
人生は必然の連続なのだと理解して、その必然の中を楽しく踊り続けることこそが、自由なのだと

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誰しもがグロテスクな感情を抱えているし、それが人間なのだと思う。〜「グロテスク」を読んで〜

誰しもがグロテスクな感情を抱えているし、それが人間なのだと思う。〜「グロテスク」を読んで〜

桐野夏生さんの「グロテスク」を読んだ。

本書にはグロテスクなものがふんだんに詰め込まれている。
そう。人間の心情だ。

他人との比較。悪意。陰口。悪口。
どこか覚えのある感情を、本書の登場人物を通して再発見できる。

そして、読後は不思議な安心感を得られる。
「あ。私だけじゃなかったんだ。」って。

人は皆、グロテスクでダークな感情を抱えながら生きている。
私だけだろうか?と不安になる。
みんな

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人生っていう思い出づくりを、気楽に楽しんでいこうじゃないの。〜「DIE WITH ZERO」を読んで〜

人生っていう思い出づくりを、気楽に楽しんでいこうじゃないの。〜「DIE WITH ZERO」を読んで〜

「DIE WITH ZERO」を読んだ。

未来のために我慢して金を貯めて、本当に幸せになれるの?って話。
ゼロにして死んでいこうよって話。

人生とは死ぬまでの思い出づくりなのだと思う。
死ぬ間際、もしくは身体が自由に動かせなくなった老後に、若かりし頃を思い出して幸せを感じる。そんな人生であったらいい。

そのためには、経験が必要だ。
経験には金を使うという覚悟が必要だ。

所詮思い出作りだ。

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起こったことは変えられなくて。でもそこに無理に前向きな意味を添える必要なんてなくて。〜「わたしの知る花」を読みました〜

起こったことは変えられなくて。でもそこに無理に前向きな意味を添える必要なんてなくて。〜「わたしの知る花」を読みました〜

町田そのこさんの「わたしの知る花」を読んだ。

一人の老人を中心として、周囲の人たちにフォーカスを当てた各章が続いていくのだけど、あれ?主人公って誰なんだっけ?ってなった。

本書が描くのは苦しみであり悲しみであり葛藤であり後悔だ。それぞれが、それぞれの感情を抱えている。だから、主人公さえもわからなくなる。皆が皆、それぞれ抱えるものがあるから。

老若男女が抱える感情。
それぞれの年代で、それぞれ

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悩みはなくならないけど、それでいいし、それが人間。〜「エレジーは流れない」を読みました〜

悩みはなくならないけど、それでいいし、それが人間。〜「エレジーは流れない」を読みました〜

三浦しをんさんの「エレジーは流れない」を読んだ。

一言で表すなら、「安心感を与えてくれる本」だ。

主人公たちは高校生。いわば青春小説。
人間関係や恋、自分という存在に悩む。
そんな姿を見て、懐かしいなと思うと同時に、「今もそんなに変わってないやん」って、気づく。

人は悩む。悩みなんてなくならない。
それでいい。それが当たり前。

悩みながらでも、人生は進んでいく。
もうダメだと思ってみても、

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全然変じゃない。めちゃくちゃ骨太なミステリー。そんな変な本。〜「変な絵」を読みました〜

全然変じゃない。めちゃくちゃ骨太なミステリー。そんな変な本。〜「変な絵」を読みました〜

雨穴さんの「変な絵」を読んだ。

「めちゃくちゃ本格的やん」というのが、読んだ感想だ。

いわゆるトリック的な要素、変化球的な要素で人気の作品だと思っていたが、シンプルにミステリーの作品として面白すぎる。
同時に、文章だけじゃなく絵をふんだんに用いたトリックを仕掛けることで、すごく読みやすい作品になっている。

読書離れが叫ばれている現代だが、作者のようなクリエイターがその危機を救うのではないだろ

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運命なんて決まってる。だからこそ、好きに生きていい。〜「スピノザの診察室」を読んで〜

運命なんて決まってる。だからこそ、好きに生きていい。〜「スピノザの診察室」を読んで〜

夏川草介さんの「スピノザの診察室」を読んだ。

本書を読んで、スピノザという哲学者の存在をはじめて知った。

どうやら、必然性というものを説いている人らしい。

思うようにならない人生。
努力したって、そんなもの無視して襲いかかってくる現実や問題。

運命なんて決まってる。
じゃあ、努力を放棄すれば良い?
そんなことはないと、本書の物語が優しく教えてくれる。

どんなに手を尽くしても、治らない病だ

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