
星とクスサンが降る里で長ロング大冒険〜アンモナイトを求めて24時間〜
ほんの少しだけご無沙汰しておりました。
疲労感が地層のように堆積していくにつれ、書きたい気持ちがその最下層へと埋もれてしまっていました。
少し休んで心の発掘が進み、昨日2度目のアンモナイト発掘も終えたことを受けて、また少しずつ書いてみようとnoteを開きました。
一度目はこちら↑
《19:00 冒険の始まりはいつも夜》
ラクダさんとの冒険は、今回で二回目。
前回、午前3時にスーパー銭湯の駐車場で「ハジメマシテ」した私達は、今回は時間を有効に使うため、金曜仕事終わりにそのまま合流してアンモナイト採掘地近辺で夜を明かし、早朝から活動開始することに。
もの作り大工のラクダさんの工房から最寄りの駅で「オヒサシブリ!」と待ち合わせ、食料調達のために大型複合スーパーへと向かう。
そこで待っていたのはサプライズディナー。

お店で食べるような本格的な味わい。
ラクダさんは外で食べるのも、自宅でスパイスを調合して作るのも大好きな無類のカレーマニアで、なんと夕食のためにココナツミルクとチキンのカレーを作ってきてくれたのだ。
しかも、車内で食べられるよう運転席と助手席の間に嵌め込んだ青いテーブルもラクダさんのお手製。
この日のために入念に準備してくださったラクダさんには、始終感謝しっぱなしだった。
《向かうは星の降る里…が、先にクスサンが降り注ぐ》
ディナーの後、ハイエースは「星の降る里」を目指し、街灯がポツリポツリと立ち並ぶ人気のない夜道を進んでいく。
市街へ外れた途端、私達は驚きの光景を目にした。


暗闇の中、仄明るい光に照らされた蛾の大群。
これらはすべてヤママユガ科のクスサンという蛾である。

普通ならキャーキャーしそうなこの光景に二人で興奮し車を降りて眺めていると、上から背後から絶え間なくクスサンが降り注ぐ。
気持ちのいいものではないが、気持ち悪さは全くなく、これほど大型の蛾がここの地域だけに大量発生することに、生き物の不思議を感じた。

セイコーマートの店員は
「はぁ、まぁ今年は少ない方です」
と虫網の隣で事もなげに語っていた。

ぬいぐるみみたいにモフモフ。
成虫は口が退化しているため
飲まず食わずで繁殖だけに生き、やがて死ぬ。
《22:30 星降る里に到着》
この日は、滝に隣接した駐車場で車中泊。
曇りか雨を覚悟していたが、天気は見事に晴れ渡り、これまでに見たことのないこぼれ落ちそうな満天の星空を見ることができた。


滝の音を聞き、トイレの個室ではクスサンたちに囲まれ用を足し、暗闇の中近づく気配にビクつき、それがキタキツネだったことに安堵して、ラクダさんを後部座席に追いやった私は、深夜1時にハイエースの後ろでのびのびと足を伸ばし、シュラフに包まれ眠りについた。

街灯の下でクスサンを食べていた。
《4:30 目覚めの一杯はカレーマニアの作るチャイ》
滝や道路を走る大型車の音でうつらうつらとしか眠れなかった私は、これから始まる冒険への期待感を力にして重い目をこじ開けた。
外気温15℃ほどの、ひんやりとした朝だった。
街灯に群をなしていたクスサンは跡形もなく消え、枯れ葉のようなクスサンの羽が道路上で儚く風に舞っていた。

細い右がメスである

薄いダウンを身にまとい朝のパトロールをすると、無事に伴侶を見つけられた者たちがひっそりと身を寄せ合っていた。
車に戻ると、ラクダさんがタッパーや小鍋、牛乳を手に何やら準備を始めた。
バーナーでお湯を沸かし、カルダモン、桂皮(シナモン)、クローブと、アッサムティー、ミルクで本格チャイを淹れてくれる。

顔を近づけると、シェラカップからスパイスの湯気が香り立ち、それだけで体を温めてくれる。
目覚めのチャイ一杯が、寝不足の身体にエネルギーを注入してくれるようだった。

《5:30 出発、いざアンモナイト採りに》
しばらく誰も分け入っていないようなハイエースの横幅ギリギリの(時々はみ出す)林道を、激しく揺すぶられながら進んでいく。


冷たい朝の新鮮な空気のなかを、エゾオオマルハナバチたちが一生懸命花粉集めをしているのを見ながら、お借りしたウェーダーとウェーディングシューズに履き替える。

みんなで分け合っているように見えた

タマバエか何かの虫こぶか。
独特の湿り気を帯びた涼しい風が心地よい。
ラクダさんがニジマス釣りに興じる間、一人川岸の石を見て回るものの、一ヶ月前に教わった「アンモナイトの特徴」をすっかり忘れている私の目には全て同じような石ころに見えてしまう。

「運が良ければ一日で2〜3個いけることもあるけど、こればかりはわからないからなぁ」と聞いていた私は、「今日は見つけられないかもしれない」と、早々に諦めかけていた。
川を渡り、上流へと進んでいく。

この流域に足を踏み入れた瞬間、不思議な予感がした。
なにかワクワクするものに出会えそうな、そんな予感。
先に歓声を上げたのはラクダさんだった。

ツヤツヤに輝く35cmのニジマス。
(ちなみに、彼女は今夜我が家で丸ごとムニエルとなった。)
私も負けていられない。足元の石に目を凝らす。

と、波打つ石を発見する。
これは、凸凹の凹の方、つまりアンモナイト本体にくっついていたオス・メスでいうとメス側の石だろうか。
ということは、ここには本体もあるはずだ。
しゃがみ込んで、周辺を重点的に探す。
少し前に傷めた腰が、痛い。
しかし、アンモナイトを探さねばならない。

あった!
僅かに堰のようになっている一区画に、それらは集中的に散らばっていた。

探せば探すだけ見つかるようだった。
多くは二枚貝の化石だったが、現代の私達が見る二枚貝と同じようなものが、数千万年前にもこの北海道の地に生きていたこと、そしてその長い時を経て、今私の手の中にあることを考えると、果てしない時空の渦の中に巻き込まれるような、そんな気分を味わった。


《12:00 さらなる刺激を求めて雨の川を歩く》
時刻は正午を回っていた。
雲行きが怪しくなってきたが、私達の冒険は終わらない。



別方面の川へと到着したタイミングで、薄暗くなった空から大粒の雨が降り始めた。
川の中を膝上まで浸かりながら進んでいる最中、雨を避けることはできない。
進んでいたコースから外れ、突然川岸へ待避したかに思われたラクダさんを追いかけると、駆け足で戻ってきた彼の手には、大きな大きなフキが握られていて、それを私に笑顔で手渡す。
となりのトトロで、雨宿りをするサツキとメイに、カンタが傘を差し出すシーンのようだった。

虫食いだらけだけど意外と丈夫で、冷たい雨から守る十分な働きをしてくれた。
この河原ではアンモナイトの代わりに彼らに出会うことができた。



しかし全く痛くない。
あむあむ甘噛み。



国内外来種らしい。

一時間ほど散策を続けたが雨が本降りになったため、川での活動はこれにて終了となった。
《14:30 開運!アンモナイト鑑定団》
持ち帰ったアンモナイトを手に、三笠市立博物館へと向かう。

枯れ葉ではなく全てクスサン


…とラクダさん。

お約束をしていたわけでもないというのに、学芸員の方が化石を見てくださるという。
事務所の奥へ通され、テーブルの上に一つずつ並べていくと、
「なるほど、なるほど…」
と、一瞬見ただけでそれらを種類ごとに分類していく姿にシビレる。
欠片が小さいものも多いので確実とは言えない、とのことだが、おおよその種類を教えていただくことができた。

(1億50万年〜6600万年前)

(1億4500万年〜6600万年前)

(1億4500万年〜6600万年前)

(1億50万年〜6600万年前)
そして、学芸員の方から「おぉ」という感嘆の声(?)をいただけたのは、私が「なんとなく怪しい…」と最後に採集したこちらの化石らしきものだった。

多くのアンモナイト化石と呼ばれるものは、その殻が残っているのではなく、殻の中に土や泥が溜まり、それが型でチョコレートを作ったように石化して残されたものだそう。
この私の拾った化石は、「死んだアンモナイトの殻の中に、小さなアンモナイトが入り、その状態で泥が堆積して石化したもの」であり、「周囲に固まった余分な土や石をクリーニングするとアンモナイトの真ん中部分の渦巻き🌀が現れる可能性が高い」と教えてくださった。
「それは、新聞紙などにくるんで慎重に持って帰った方がいいと思います」
の言葉がとても嬉しかった。
《16:00 冒険の〆はやはりカレーで》
帰り道。
空腹を覚えた私達の足は、カレー屋へと向かっていた。
カレーで始まった冒険は、カレーで締めなければならない。

本格パキスタンカレー
ラクダさんは「ハンマーとタガネをあげるから、自分で少しずつクリーニングしてみてはどうだろう」と提案してくれた。
自分で見つけたアンモナイトを、自分で削ってその姿を見ることができたら。
それほどワクワクして、ロマンチックなことはないかもしれない。
「是非また!」とラクダさんと熱い握手を交わし、採集した15個のアンモナイトと、ハンマーとタガネ、35cmのニジマス、一泊二日の冒険道具を両手に抱え、リュックを背負って帰宅した。
時計の針は、19:30を指していた。
24時間の冒険が終わった。
《番外編 冒険翌日のはなし》
体中が痛い。
アンモナイト15個をぶら下げていた左腕が特に張っている。
川の流れに逆らって酷使した太ももの前面も筋肉痛だ。
ずっとしゃがんで負担がかかった腰も膝も痛い。
しかし、気分はとてもいい。


臭みも全くなく、ふんわりとした身が
非常に美味しかった。
尻尾はもげたけど。


あっと言う間に血豆ができた。
なんのはなしですか
アラフォーが体力の限界に挑戦し、ひたすら楽しんだ冒険の代償は、結構大きかったはなし。
それでも冒険はやめられない、というはなしでもある。