なぜ、管理監督者と医療従事者は対立するのか
経営者および管理監督者と現場の医療従事者の対立の要因
わが国の医療業界は、少子高齢人口減少社会の影響により、病院経営はとても厳しくなると考えられています。組織が生き残るためには、外部環境に適応するだけでは不十分であり、経営者や管理監督者の視座は常に外部環境の進化の先にあることが重要と考えられています。つまり、経営者や管理監督者は、ビジョナリーであることが求められていると考えることができます。
一方、医療現場の医療従事者は、「日々果たすべき使命」であるミッションに注力しているためか、私の肌感覚では「実現したい未来」であるビジョンの具体化が苦手の方が多いように感じます。つまり、経営者や管理監督者と現場の医療従事者の対立は、この「未来(ビジョン)」と「現在(ミッション)」の視座の違いによるものと考えることができます。
ビジネスの論理と医療従事者の対立の要因
他方、ビジネスの論理では、コミュニケーションを通して消費者が求めるサービスを具体化し、そのコストは適切に消費者が負担しながら、消費者の利便性に配慮して提供することができれば利益が生じます。この利益は、企業の持続可能性を高めるために必要不可欠です。
しかし、患者は心身の不都合と不安を抱えた弱い存在であるため、医療従事者は献身的に患者に便益をもたらそうとします。つまり、医療現場に従事する医療従事者は、弱い存在である患者にコストを負担させることには直感的に強い抵抗感を感じるため、ビジネスの論理は医療従事者に馴染みにくいと考えることができます。
わが国の医療が犠牲にしてきたものは何か
上記の引用の内容は、「コストとアクセスと医療の質の3つ全てを両立させることはできない」ことを意味しています。
英国はコストを抑制しすぎた結果、手術の待機期間の延長などアクセスが障害されました。日本はコスト(医療費)を抑制しアクセス(国民皆保険)も保証してきた結果、医療の質が犠牲になっている可能性があるのではないかというのが李氏の見解です。
私の感覚では、医療の質で犠牲となっているのは、「有効性」「患者中心性」「適時性」「効率性」の4つではないかと感じています。特に重要なのは、有効性に含まれる『① 過剰な医療サービスの適正化』、患者中心性に含まれる『② 患者の価値観の尊重』、適時性や効率性に含まれる『③ ムダの排除』の3つであると考えます。
① 過剰な医療サービスの適正化や② 患者の価値観の尊重、③ ムダの排除といった3つの課題は、経営者および管理監督者と現場の医療従事者の共通の課題であるため、その解決は経営状況と医療現場に一挙両得をもたらす可能性が考えられます。また、管理監督者と医療従事者の対立をも、和らげてくれるかもしれません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今村英明(2013)「崩壊する組織にはみな「前兆」があるー気づき、生き延びるための15の知恵ー」
李啓充(2004)「市場原理が医療を滅ぼす」
一般社団法人日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会(2023)「ペイシェント・エクスペリエンスー日本の医療を変え、質を高める最新メソッドー」