マガジンのカバー画像

変な体験談

18
運営しているクリエイター

#エッセイ

一瞬のナンパ師

一瞬のナンパ師

真夏の九州の空港に降り立ったその日は、出張の移動日で仕事は何もありませんでした。空港でレンタカーを借りてホテルへ向かおうとしたんですが、まだ昼過ぎだったのでこのままチェックインしてもつまらないなと。また、その受付の子がちょっとかわいかったんですね。気づけば、口が勝手に動いていました。

「何時に仕事終わるの?」

誤解のないように言っておきますけど、ナンパなんてしたこともないし、生来シャイでそんな

もっとみる
モンキーマジック

モンキーマジック

某ブラック系運送会社に勤めるMから聞いた話。仕事のキツさと長時間労働では定評のあるその会社は慢性的な人手不足で忙しい。そのため、「世間的にはかなり問題のある人でもけっこうクビにならずに働ける」とのこと。

「今度おれの部署に来た人はさ、忙しくなってテンパるとまともに喋れないし、ブツブツ独り言言いながら自分の世界に入っちゃったりして、もうほとんど“猿”になるんだ。」

「“猿”?」

「『◎◎さん、

もっとみる
マニラに高飛びしたくなった日

マニラに高飛びしたくなった日

ちょっと前、フリマアプリで不要品を処分していた時のこと。

モノは良いけど、かなりガタがきてメンテの必要なロードバイクを出品すると、すぐに応募があった。

車で引き取りに来たHさんはすこぶる感じの良い初老の男性だった。自分で修理できるというので交渉成立し、引き取ってもらうことに。

いざ自転車を車に積み込むという時になって、Hさんは言った。

「ちょっとまけてくれませんか?」

来たよ、来たよ。ア

もっとみる
あなたは昨日の私

あなたは昨日の私

駅前のカフェで待ち合わせの相手を待っていた時のことです。目の前にタクシーの待機場所があり、そこを囲む形でバス停がぐるっと円状に並んでいます。バス待ちの人たちをぼーっと見ていました。

バスが次々と来ては人を吐き出し、また収納して去っていきます。並んでいて乗らない人はけっこういて、同じバス停でも始発のバス停なので海廻り、山手廻りなどとルートの違う複数の路線が一つのポールに並ぶようところもあるからです

もっとみる
分別のある戦争

分別のある戦争

ある日、井上家の前に「持ち主不明」の紙が貼られたゴミ袋が置かれた。おそらく分別がいいかげんだったゴミ袋が井上家の出したものだと誤解されたのかもしれない。

やがて井上家が「うちのゴミではありません」と貼り紙をして応戦する。誰だって他人の無分別なゴミを家の前に置き去りにされたら憮然とする。わけもなく右の頬を打たれたのに黙って左の頬を差し出すような人間はそういない。

井上家の主も清掃業者も一歩も譲ら

もっとみる
おばあちゃんの妙な知恵袋

おばあちゃんの妙な知恵袋

※全国の鍋島姓のみなさま、この投稿は鍋島姓の方に対する偏見を助長する意図はありません。

Aくんは、小さい頃からおばあちゃんに繰り返し言われるセリフがあった。
曰く、

「鍋島にゃ気ばつけれ(鍋島には気をつけなさい)」

このおばあちゃんというのが、戦国時代の武将であり肥前は佐賀藩の立役者・鍋島直茂によるお家乗っ取り騒動に絡んで実際に不利益を被ったか、逆恨みしている家の血筋を引いていたそうな。

もっとみる
鑑別所で言われた「“あ”はいらねぇ!!」

鑑別所で言われた「“あ”はいらねぇ!!」

その時ぼくは家庭裁判所の一室にいた。18歳だった。目の前には法服ではなく黒いスーツを着た銀行員みたいな裁判官がいた。額の生え際の両サイドがとんがっていて鬼のツノのように見えなくもなかった。彼は憎々しげにぼくを睨むと言った。
「あなたには鑑別所に行ってもらいます!!(怒)」
その思いっきり私情の入ったドヤ顔は今でも覚えている。ぼくの罪状は傷害のように被害者が出るようなものではなかったから、どうしてこ

もっとみる
植木屋最大のタブー?を知った日

植木屋最大のタブー?を知った日

こないだ植木屋をやっている親戚の仕事を手伝った。現場は戸建住宅での植木の剪定。途中でどうしても小便がしたくなったので親方にそのことを伝えると、
「うん、そしたらその辺で…」
と、けっこう大きな声で言いかけた親方は急に辺りをはばかって口をつぐんだ。そして、ぼくの肩を抱きながら裏庭に誘導しつつ、こう言うのだった。
「この業界では“ポイント”って言うんだけど…ほら、そこに俺のした跡があるからさ」
指差さ

もっとみる
ゴマ一粒で“呪われた病院”に入院した男

ゴマ一粒で“呪われた病院”に入院した男

※友人の体験談ですが、非常にショッキングな内容を含んでおります。心臓疾患のある方、妊娠されている方、重要な資格試験や試合、縁談などを控えている方にはおすすめしません。

その日、友人のHは新宿で仕事をしていた。昼の休憩で飲食店に入り、そこでマグロの漬け丼を食べたのだが、その上にゴマがかかっていた。気管にゴマが入ってしまったのに気づくのと、むせたのがほとんど同時だった。

ピキッ

そんな音が腰から

もっとみる
いまだかつてないあえぎ

いまだかつてないあえぎ

あまり行き慣れてない温水プールで泳いだ時のこと。そのプールは巡礼コース(高齢者が水中歩行する)、ヒトコース、半魚人コース、マグロコース(泳ぐのを止めるとすぐ死ぬ)に分かれていた。もちろんそんな札が付いているわけじゃなくて、なんとなく棲み分けがあり、先に来ている人の様子を見ていると、そんな具合に分かれていた。

ぼくがヒトコースで25mごとにハァハァ言いながら泳いでいると、マグロコースをものすごい勢

もっとみる
素敵すぎてすみません

素敵すぎてすみません

最近、友達が引っ越したんですけど、そこの大家さんがすごい。
その大家さんは父親の遺産として不動産を相続した人で、引っ越したNちゃんは大家さんの父親と知り合いだったという。

契約が決まり、荷物など運び入れる段になって大家さんに会った。
「お父様には生前お世話になりまして…」
Nちゃんが言った途端、彼の表情が険しくなった。
「私は父のことが心底嫌いでした。だから父のことをよく言う人、父と親交のあった

もっとみる
サンタへのギフト

サンタへのギフト

クリスマス前のことだった。
たまに家族で食べにいく庶民的な中華料理屋があって、その晩も妻と二歳の子供と一緒にその店に行った。

もうそろそろ食べ終わる頃になって隣の席に客が座った。どさっと腰を降ろしたその感じで大柄な人だなと思ったけど、腹が減っていたから脇目も振らず食べていた。ぼくの隣に息子、反対隣に新たに入って来た客という位置関係。

ふと気がつくと、息子が食べる手を止めて何か呟いている。
「え

もっとみる