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先生と豚

18
ある高校生の日常に舞い込んだ非日常を描いた短編ミステリー?ぽいものです。拙い部分もありますが、読んで頂けたら幸いです。
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#創作

先生と豚18(最終話)

先生と豚18(最終話)

あの夜から早いもので十年の月日が流れていた。世間を騒がせた事件は、もうすぐ時効を迎える。紅林は、物憂げに無精髭を撫でた。

元支店長の男が柿崎の部屋に訪れた時、そこに紅林が隠れていたことを男は知らない。書斎の本が堆く積まれた一画の影にスペースを作って柿崎との会話を盗み聞いていた。それは柿崎が指示したもので、つまるところ諸々の説明が面倒だから隠れて聞いていろ、ということだった。
そこで分かったのは銀

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先生と豚17

先生と豚17

 閑散としたアパートの二階にインターフォンの音が響いた。
しばしの間をおいてドアが僅かに開けられる。実年齢よりも若く見えるすっきりとした顔が不機嫌そうに出てきた。
「やぁ、しばらくだな。柿崎」
言われて柿崎は更に顔をゆがめた。
「何しに来たんだい?」
「いや、何って時間ができたから、昔話に花でも咲かせようかと」
柿崎は訪問者の顔を睨み、ちらっと視線だけで周囲を窺った。日曜の昼だというのに人の声ひと

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先生と豚16

先生と豚16

 紅林は思い出したようにこれまで疑問に思っていた事を柿崎にぶつける。
「そういえば、あの協力者って誰だったんだよ。金庫に来たとき顔の半分くらいしか見えなかったから結局誰かわからなかったし」
「さあねぇ」
 柿崎は首をかしげる。
「さあねって、先生は知ってんだろ」
「どうだろう?」
 にこにこと人好きのする笑みをたたえて柿崎は答える。
その反応に紅林は舌打ちした。
「隠さなきゃなんない人物なのかよ」

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先生と豚15

先生と豚15

 で、条件ってなんだい、と柿崎がやんわりと促す。紅林はふぅとひとつ息を吐いた。
「その、俺の残りの取り分、それを卒業までにきっちり渡してほしいんだ。卒業したらあんたと連絡がとりづらくなる」
「卒業かぁ……。ん、まあ構わないよ。それだけでいいの?」
 こんなに気前のいい柿崎は初めてだな、と紅林は寸の間たじろぐ。この際だ、少し無理を言ってみよう。
「……あと、俺がこの先、金に関して困ったら助力してもら

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先生と豚14

先生と豚14

「……なんだと」
紅林は柿崎に指し示された乱歩全集に目を落とした。
 こんなもののために自分は警察のお世話になったのか。そう思うと怒りと感じると同時に、妙にやるせない気持ちになった。
「確かに俺は、手術の費用を払えたけど。三億だぞ。くそっ」
 取り分は一割の約束だった。
 全体からすれば少なかったが金額が金額だけに、一割だけでも手術費用を払っても働き手が紅林しかいない家計は今までよりぐっと楽になる

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先生と豚13

先生と豚13

「捕まるなんて聞いてなかったぞ」
本に埋もれた六畳の部屋に紅林の怒気のこもる声が発せられた。
足の踏み場のないほど書物が積まれた先に座卓とその前に座り込んだ柿崎の姿が見える。窓からさす陽光にそれは黒く浮き上がっていた。
柿崎は振り向かずに笑った。
「本当にね、僕も驚いたよ。でも良かったじゃない。刑務所のなかを体験できるなんて、普通ないよ」
紅林は心底愉快そうに言う柿崎に舌打ちし、部屋の入り口に立っ

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先生と豚12

先生と豚12

 紅林が捕まったことは誤算だった。柿崎は朝の職員会議でそのことを知った。
 会議で紅林の処分は報告されなかったが良くて自宅謹慎一週間、悪くて少年院に数日拘束されるといったところだろうか。
(まいったな)
 柿崎は軽く頭を掻く。
 共犯者が捕まっても尚、冷静でいられるのは柿崎の性格ではなく紅林の罪状が万引きであることによるものだった。もちろん、この万引きも柿崎の作戦の一部になっていたのだが、まさか高

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先生と豚⑩

先生と豚⑩

 甲高い機械音が鳴った。留守電の録音開始音に似ていると紅林は思った。同時にこの音がエラーを表していたら終わりだなとも考える。
幸い、予想に反して扉のロックが外れる音が重々しく響いた。同時に空気が勢いよく漏れ出すような音がした。
(開いた……!)
 紅林は厳ついドアノブを思い切り引いて金庫のなかを見る。非常灯の明かりがついた凡そ二十畳ほどの空間には鉄製の棚にズラリとアタッシュケースが並び、その横に砂

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先生と豚⑦

先生と豚⑦

 銀行にも当然ながら関係者専用の出入口がある。いわゆる裏口である。侵入するとすればこれほど好都合な道はないだろう。入館証さえあれば、そこを突破するのは容易い。金庫が破られることを想定していないせいか厳重な警備などは特にない。
 柿崎はそのことについてひと言――馬鹿だねぇ、と感想を述べた。
 こちらとしてはやりやすいが一般論で言うならば人様の金を預かっているというのに、その自覚と警戒心が足りないので

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先生と豚⑥

先生と豚⑥

「強盗なんてできないよ」
 放課後の準備室で柿崎は断言した。
 紅林が柿崎と協定を結んでから一週間が過ぎていた。
「はぁ? いまさら何言ってんですか」
 逃げられないと言ったのは柿崎のほうだったはずだ。それが今後の指示を仰ぐために入室した生徒に向ける言葉なのか、と言いたい。しかし柿崎は紅林のそんな思いは露とも知らず答えた。
「だって銀行強盗って、昼間に襲って金を出せぇって脅して金を盗むでしょ。そん

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先生と豚⑤

先生と豚⑤

 翌朝、登校してきた菊本の顔にはシップが貼られていた。輪島やその仲間に殴られでもしたのだろう。紅林は罪悪感を覚えたが、教室内で菊本と接触するのは目立ちすぎる。放課後にでも声をかけようかと思う。本当はすぐにでも謝りたい気分だったが、それをすると柿崎が黙っていない。誰を巻き込んでも文句を言うなと釘を刺されたばかりだ。
 紅林はため息をついて窓際の席につく菊本を見やった。
 その日の菊本の机には花瓶に入

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先生と豚④

先生と豚④

   豚のキーホルダーが目の端でゆらゆら揺れた。
 つぶらな瞳で見つめてくるピンクの顔を紅林は睨み返す。柿崎が用意した目印で電柱にぶら下がっていると誰かの忘れ物のようにも見えた。
 深夜とはいえ、道路沿いに点在する街灯やコンビニの明かりで辺りはわりと明るい。それでも暗いことに変わりはなかったが、紅林は山中の、自分の手足さえ確認できないほどの闇を知っていたから電柱の影にひとり隠れていても心細くはなか

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先生と豚③

先生と豚③

 紅林のクラスにはいわゆるいじめが流行していた。
 対象者は菊本といって、いかにも気弱そうな顔立ちをしている。細い身体をして肌が白い。それが女子に言わせると気持ち悪いらしい。紅林はいじめに参加する気は全くなく第三者に徹していた。しかしクラス全体が菊本を攻撃しているため、ときには面倒なこともあったが興味がないと言ってその場を凌いでいる。
 そんな菊本の存在に柿崎が目を付けた。
「あの子、使えるね」

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先生と豚②

先生と豚②

 紅林が母親の病状を知ったのは、救急病院に呼び出されて重々しい医師の口調を聞いたときだった。緊張と不安とで文字通り頭が真っ白になっていて、そのときのことはあまりよく覚えていない。ただ、レントゲン写真に映し出された黒い影と医師が身につけていたロレックスの時計が強く印象に残っていた。
紅林がぽつぽつと相談を持ちかけると、そうだねえ、と呟きながら柿崎は研究机の引き出しから眼鏡を取り出した。柿崎は少し前か

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