先生と豚12
紅林が捕まったことは誤算だった。柿崎は朝の職員会議でそのことを知った。
会議で紅林の処分は報告されなかったが良くて自宅謹慎一週間、悪くて少年院に数日拘束されるといったところだろうか。
(まいったな)
柿崎は軽く頭を掻く。
共犯者が捕まっても尚、冷静でいられるのは柿崎の性格ではなく紅林の罪状が万引きであることによるものだった。もちろん、この万引きも柿崎の作戦の一部になっていたのだが、まさか高校生の万引きで現行犯逮捕されるとは考えていなかった。柿崎としては厳重注意で保護者が呼ばれる程度で済むと考えていたのだ。
もっとも、と柿崎は口元に手を当てる。
紅林の唯一の保護者である母親は病床にいて動けぬ状態だから注意を促そうにも促せないと判断した結果なのかも知れない。柿崎は再び頭を掻き、ため息を吐いた。
紅林が銀行の件を進んで自白するとは思えない。それで損をするのは紅林自身であるからそれは疑いようのないことだ。しかし柿崎には杞憂がひとつあった。
(やっぱり僕のせいかな…)
珍しく罪悪感を抱く自分に驚きつつも、次に会ったとき紅林になんと声をかけるか迷っていた。
(結構、いい作戦だと思ってたんだがなあ。読みが甘かったかな)
菊本には一回万引きをさせた後、性格からして次にやれば確実に店員に怪しまれて捕まるだろうと思われたため万引きはさせなかった。
その代わりコンビニに立ち読みなどして長居させ、事件当夜の十二時から一時までたっぷり監視カメラに映ってもらうようにした。格好は前回と同じ、ジャージ姿だった。そして何かひとつ好きなものを買わせた。好きなものとは輪島に決めさせたから柿崎は菊本が何を買ったか知らない。
そして事件の翌日に報道がされ、紅林はそれから日付が変わった深夜に、菊本が最初に入ったコンビニに向かった。紅林は店員から見えるようにガムをポケットに突っ込み、すぐに店を出た。後ろを振り返ると案の定、店員が追ってきた。走って逃げ、途中でわざと転び店員に捕まる。そうしてここ数日の間に起きた万引きもすべて自分がやったと白状した。
これで紅林のアリバイが出来る。
完璧だと思っていたが、紅林に思わぬ傷を負わせてしまった。
仕方ない、と柿崎はため息をつく。
次に会うときに謝ろうと決めた。
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