先生と豚16
紅林は思い出したようにこれまで疑問に思っていた事を柿崎にぶつける。
「そういえば、あの協力者って誰だったんだよ。金庫に来たとき顔の半分くらいしか見えなかったから結局誰かわからなかったし」
「さあねぇ」
柿崎は首をかしげる。
「さあねって、先生は知ってんだろ」
「どうだろう?」
にこにこと人好きのする笑みをたたえて柿崎は答える。
その反応に紅林は舌打ちした。
「隠さなきゃなんない人物なのかよ」
「君に教えたくないだけだよ」
「……嫌な奴だな、あんた」
それはお互い様じゃないかな、と柿崎は笑顔で答えた。
「そんなに知りたいの?」
柿崎がぐっと顔を近づけ、真っ向から紅林を見る。笑みの絶えた柿崎の顔は思いのほか迫力があった。紅林は思わず顔を僅かに仰け反らす。視線だけは柿崎の瞳から逸らさず、柿崎を睨み返した。
「……知りたい」
寸の間の沈黙の後、柿崎はふっと笑んで紅林から離れた。
「仕方ないなぁ。誰にも言っちゃダメだよ?」
言えないことは分かっているくせに、と紅林は心中で呟く。今回の件に関わった者の誰かひとりでも裏切れば、全員が道連れになることは紅林にも分かっていた。それだけのことを仕出かしたのだから当然といえよう。しかし捕まれば手にしたものは、何の価値もなくなってしまう。使えないなら盗んだ意味がない。
「あの人はね――」
銀行の支店長だよ、と柿崎はさらりと言った。
紅林は息を呑む。
意味が分からなかった。
「は……何、言ってんすか」
冗談だろう。なぜ支店長がそんな真似をするのかがわからない。そう紅林が言うと柿崎は鼻で笑った。
馬鹿だねえ君は、と柿崎は言う。
「お金を作るのに一番簡単な方法はなんだと思う?」
にこりと笑んだ顔は、目が笑っていなかった。
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