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着物、よきもの 〜其の一

かつて私は、アンティーク着物にハマっていた。

思い返せば、うちの母も着物が好きだった。
おぼろげな記憶しかないが、母は私が3歳頃までは家でも着物を着ていた。
しかし、2歳違いの妹が生まれると幼い子供二人抱えて着物で暮らすのは流石に厳しかったらしく、普段は洋服を着るようになったが、入学・卒業式、結婚式、お正月などお目出度い席ではいつも着物姿だった。
そんな母も晩年は、着付けをすると疲れる、しんどいと言って、ほとんど着物を着なくなり、亡くなった後に沢山の着物が残されたが私は全然好みじゃなく、むしろ大正・昭和初期くらいの祖母の時代のものの方が好きで、それらを形見として貰った。
祖母は母が16歳の時に亡くなっているので、私は一度も会ったことはないが、祖母の帯を手にすると、どんな着物を合わせていたのだろう、などと想像が膨らむ。

冬休みにHDのデータ整理していたら、よく着物を着て出かけていた頃の写真が沢山でてきた。
この国へ移住の際に手放した着物や帯も多く、写真で見ると懐かしい。画像データが残っていてよかった。
その中でもお気に入りはどうしても手放せず、こちらの国へも持って来たけれど、今では全く出番がなく、まさにこれが箪笥の肥やしというもの(苦笑)

本記事は、以前他のブログに書いたものも再編集し書き足し、記録としてアンティーク着物についてまとめ直したものです。
4000文字近くありますので、お時間のある時にどうぞ。写真多めです。



銘仙めいせんの着物

アンティーク着物の中で、多くの人がまず惹かれるのが、銘仙だと思う。
銘仙めいせんとは絣の織り物で、ポップな柄や鮮やかな色が特徴。洋服感覚で着られることもあり人気があるが、今ではほとんど製造されていない。
正絹ではあるけれど、普段着として着られていた着物なので、お値段も手頃。というか、アンティーク着物とは要するに古着なので、新品に比べたら手に取りやすいと思う。
銘仙めいせんは、柔らか物と言われる染めの着物よりパリっとしていて硬めの生地なので、着付けしやすく着崩れしにくいこともあり、初心者にも着やすい。私もアンティーク着物に目覚めた当初は、銘仙めいせんを好んで着ていた。

昔の着物というと古臭いというイメージが浮かぶかもしれないが、むしろその逆で、大正・昭和初期までの戦前のアンティーク着物の方が、模様も色の組み合わせも大胆、自由で、モダンなものが多かったりする。当時の流行最先端だったであろうデザインは、今見ても古さを感じさせず、かえって斬新だ。
そんな意外性もあり、私はどんどんアンティーク着物にのめり込んで行った(笑)

アールデコっぽい柄の銘仙の着物
お正月など戌年じゃない年でもよく結んでいた
手鞠と狆(ちん)が刺繍された帯

こちらも着物は銘仙
梅の図案が織り出された帯と
うさぎの帯留
銘仙の紫はとても発色がよく
帯や帯揚げとの色の組み合わせも楽しい


着物のコーディネート

着物の着こなしに季節は密接に関係している。
季節の文様(着物や帯の柄)は、その季節に着るのがよしとされているが、桜の散った後に桜の文様を身につけるのは野暮やぼとされ、季節を逃さないように、少し先取りして着るのがいきというものなのだ。
例えば、お正月には新年に相応しい、お目出度い文様を身につける。着物、帯、羽織、半襟、帯留、かんざしなどの小物にも、松竹梅、南天、矢羽根などを模った意匠のものを組み合わせてみるなど。
着物は頭からつま先までのトータルコーディネートなのだ。

私が新年によく身につけていた手持ちのものだと

矢羽根模様が織り出された帯

左:梅の地に松や梅がシルエットで描かれている
 右:梅、笹の葉、紅葉
どちらも染めの羽織
左:雪輪の中に椿、梅、南天の実
 右:椿
どちらも銘仙の羽織
干支の柄?
猫、リス、海老なども描かれている面白柄の
端切れを半襟にしてみたり

同じ帯でも着物が変わるだけで(その逆もしかり)雰囲気がガラッと変わるのも楽しいところ。少ない枚数でも着回しが効くのも着物のよいところだと思う。
そして、洋服のようにその時の流行によって型が変わるということもない。

チロリアンテープみたいな模様の小紋に
上記と同じ、手毬と狆の帯を合わせて
帯は左巻き、右巻きと逆に巻くだけでも
柄の出方が変わるので
それで位置を調節したりもできる

アールデコ調の細かい柄の、ちりめん小紋と
牡丹に鳥が描かれた染めの帯
刺繍の半襟に絞りの帯揚げを合わせて
帯留はスモーキークオーツ
同じ帯にこちらは銘仙の着物

骨董市で手に入れた大正ロマンな染めの着物
夢二きもの、と呼んでいた 笑
上記の梅の帯を合わせて


着物は着付けがまず難しいと思われる方も多い。確かに練習は必要だ。私は当時3ヶ月くらい着付け教室に通ったが、今ならオンライン・レッスンやYouTubeを見て独学も出来ると思う。
初めて着て出かけた時は、巷で言われている "お直しおば様"(着崩れや帯結びを指摘してきたり、時には直してくれる上級者の方々)に遭遇しないか、私もドキドキした。
でも、ある程度慣れてくれば、自分が着やすい着方でいいと思う。私は飲み食いすると苦しいので、いつも帯板は入れていない。そもそも日常的に着物を着ていた時代の人は帯板なんて入れてなかったし、昔の写真を見てもそんなにキッチリ着付けしていない。けっこうグズグズで、ゆるりと着ている(笑)

それ以外にも、出かける場所の格式に合った着物を着るとか、色々な決め事が面倒という方もいると思うが、近年は以前に比べてだいぶルールもゆるくなり、着物にブーツ、帽子、ブラウスを合わせるなんていうコーディネートも結構一般的になったようで、それはそれで気軽に着物を楽しめていいと思う。

モガっぽい帽子を合わせて



私も色付きや柄足袋を愛用していたし、冬寒い時は編み上げブーツも履いていた。半襟も大抵は真っ白ではなく色付き、刺繍ものや、端切れを利用した柄物を付けていた。

柄足袋、足袋ソックス
冬には別珍足袋も愛用していた

刺繍、プリントなど現代ものの半襟
蜘蛛の巣は粋筋のお姐さん方が好んだ柄だとか

刺繍、ふくれ織り、鹿の子絞りなど
アンティーク半襟

アンティーク羽織は羽裏まで素敵な柄が多く、見えない所にもこだわるのが着物のお洒落。私はその端切れをよく半襟にしていた。

アンティーク羽裏の端切れたち
アールデコ柄が好き
一番右は筆柄


とにかく模様や色をこれでもかと組み合わせるのが好きだったので、アンティーク着物ではそれが存分に味わえた。不思議と着物の場合は柄×柄、色×色を重ね合わせても、洋服ほどやり過ぎた感じにはならない。
そして、洋服のように同系色でまとめるよりは、反対色を組み合わせたり、思い切った色使いの方がしっくりくる。そこが和服と洋服の違いの一つだと思う。
着物の柄の中から一色取って帯や帯揚げ、半襟などの色を合わせると、多色使いのコーディネートでもまとまりが出る。


お正月の晴れ着

数年前、こちらの国に移住後に唯一、着物を着て出かける機会があった。
フォーマルなお呼ばれの席だったので、普段着きもの派の私としては珍しく色留袖を着た。
背中に紋があるのとないのでは、格式も変わる。
これは背紋がないので、色留袖だけど訪問着くらいの格。
戦前のアンティーク着物は今の着物より袖が長いものも多い。これは当時の流行だったらしい。長めの袖は好きなんだけど、着物の下に着る長襦袢の袖丈が着物に合うものを探すのはちょっと難しい。そんな時は、その名も "うそつき" という替え袖もあり、袖の部分だけ袖丈に合わせて揃えている人もいる。
私は、母が持っていた長め袖の長襦袢が丁度よかったので、それを着ている。

檜扇と薬玉模様が織り出された目出度い柄の帯
ピーコックグリーン色の紋綸子の着物は
アンティークではあまりない色だと思う

裾に薔薇、橘、南天の模様
薔薇が入ると季節を問わずわりと着られる
祝いの席なので伊達襟という重ね襟も付けて


この時は、ほぼ10年ぶりに着物を着た。
着付けも帯の結び方も忘れかけていて、YouTubeを見ながらなんとか着ることが出来た(苦笑)
アンティーク帯の場合は、結ぶ方法だと古い帯が更に痛んでしまうので、私は結ばない方法(捻るだけ)にしている。
出産後に体型も変わってしまったが、そんな時でも着物なら若干身幅が狭くなっても着られた。
一年に一回着るか着ないかで型が古くなってしまうドレスを買うより、着物の方が何年経っても着られるので、これからまたパーティーなどに呼ばれる機会があったら着物で行こうと思っている。

年齢的には、もう少し地味な模様や渋めの色の着物の方がいいのだろうけど、海外だと日本の "侘び寂び" のような感覚は理解して貰い辛い。
明るめで華やかな着物の方が喜ばれる傾向なので、若い頃に着ていた着物を厚かましくもまだそのまま着てしまった(苦笑)



あ〜着物について書いていたら、すっごく着たくなってきました(笑)
しかし、すでに着付けと帯結びが怪しい…
年に一回くらいは、外に出かけるのは無理でも、家の中だけでも着たいものです。

長くなるので、其の二へ続きます。



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森野 しゑに
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