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月ふたつ

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嬉しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと。生きてたら、みんなそれなりに何かある。それを全部ひっくるめて私という人間ができあがる。もちろん、あなたも。日常と、想…
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#幸福

ふたりの日々

ふたりの日々

重たい灰色の雲が空を覆っている。まさに「どんより」という表現がぴったりの景色だ。吐く息は白く、凍えそうな空気が頬に痛い。春の訪れはまだ感じられず、たまにうっすらとさす日差しは、すぐにまた分厚い雲にかき消されてしまっていた。

そんな冬空の下、私たちは近所の川沿いの遊歩道を二人並んで歩いている。手にはたくさんの食料とお酒が詰まった袋を携えながら。つないだ手はひんやりと冷たい。「寒い、寒い」と言いなが

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ないものねだり

ないものねだり

冬に想う、夏のうだるような暑さ、容赦なく照りつける日差し、鳴きやむことのない蝉の声、草いきれのこもる道、夕立のあとのアスファルトの匂い、夜空に煌めく大輪の花。

そのすべてが狂おしいほど恋しい。暑さで皆が少しずつおかしくなってしまうような。匂い立つ濃密な闇。なにかが起こりそうで、でも結局なにも起こらないまま終わる夏。胸がぎゅっと締めつけられるようなあの空気感。あの中にいますぐ戻りたいと、そう願う。

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いまこの時に

いまこの時に

雲のすき間から差す黄金色の光の柱。溢れだす光。神々しく輝くその光のまぶしさに目を細める。

離れてしまった大切な人。今そばにいてくれる大切な人。そのすべての人を愛しく想う。

おだやかな日々。めぐりゆく季節。私たちはみな幸せになるために生きている。

この美しい夕景に心満たされるような日々を、大切にしようと想う、いまこの時。今日という日が終わりろうとしている。

至福のとき

至福のとき

扇風機の風でなびく髪の毛を、頭の両側から挟み込むようにクシャっと掴んで離してみる。ふわりとトリートメントのいい香りがする。

部屋のなかから眺めるベランダは、刺すような強くまぶしい日差しに照らされて、そこだけ白く浮いたように見える。そのベランダの光が反射して、ほのかに部屋のなかは明るい。しかし明るすぎることはなく、心地のよいほの暗さも残っていた。

なんとなく流しているテレビから、まるでBGMのよ

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幸福な瞬間

幸福な瞬間

いつものお店でお昼を食べる。顔馴染みの店員さんたちとの他愛もない会話。食事を終え、図書館に寄り、その後軽く買い物もすませ歩いて帰る道の途中、真ん中に大きな池をたたえた公園の横を通り過ぎようとして、何とはなしに、その池のほとりをぐるりと一回りしてみることにした。

初夏の蒸し暑さのなか、木々の緑は日に日にその色の濃さを増してゆく。穏やかにたゆたう水面を噴水のしぶきが細かく揺らしている。そこへ太陽の光

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