シェア
風花 朋(Kazahana Tomo)
2022年2月20日 15:29
重たい灰色の雲が空を覆っている。まさに「どんより」という表現がぴったりの景色だ。吐く息は白く、凍えそうな空気が頬に痛い。春の訪れはまだ感じられず、たまにうっすらとさす日差しは、すぐにまた分厚い雲にかき消されてしまっていた。そんな冬空の下、私たちは近所の川沿いの遊歩道を二人並んで歩いている。手にはたくさんの食料とお酒が詰まった袋を携えながら。つないだ手はひんやりと冷たい。「寒い、寒い」と言いなが
2022年1月30日 13:57
冬に想う、夏のうだるような暑さ、容赦なく照りつける日差し、鳴きやむことのない蝉の声、草いきれのこもる道、夕立のあとのアスファルトの匂い、夜空に煌めく大輪の花。そのすべてが狂おしいほど恋しい。暑さで皆が少しずつおかしくなってしまうような。匂い立つ濃密な闇。なにかが起こりそうで、でも結局なにも起こらないまま終わる夏。胸がぎゅっと締めつけられるようなあの空気感。あの中にいますぐ戻りたいと、そう願う。
2021年11月23日 16:19
雲のすき間から差す黄金色の光の柱。溢れだす光。神々しく輝くその光のまぶしさに目を細める。離れてしまった大切な人。今そばにいてくれる大切な人。そのすべての人を愛しく想う。おだやかな日々。めぐりゆく季節。私たちはみな幸せになるために生きている。この美しい夕景に心満たされるような日々を、大切にしようと想う、いまこの時。今日という日が終わりろうとしている。
2021年7月17日 15:40
扇風機の風でなびく髪の毛を、頭の両側から挟み込むようにクシャっと掴んで離してみる。ふわりとトリートメントのいい香りがする。部屋のなかから眺めるベランダは、刺すような強くまぶしい日差しに照らされて、そこだけ白く浮いたように見える。そのベランダの光が反射して、ほのかに部屋のなかは明るい。しかし明るすぎることはなく、心地のよいほの暗さも残っていた。なんとなく流しているテレビから、まるでBGMのよ
2021年7月4日 14:59
いつものお店でお昼を食べる。顔馴染みの店員さんたちとの他愛もない会話。食事を終え、図書館に寄り、その後軽く買い物もすませ歩いて帰る道の途中、真ん中に大きな池をたたえた公園の横を通り過ぎようとして、何とはなしに、その池のほとりをぐるりと一回りしてみることにした。初夏の蒸し暑さのなか、木々の緑は日に日にその色の濃さを増してゆく。穏やかにたゆたう水面を噴水のしぶきが細かく揺らしている。そこへ太陽の光