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ないものねだり

冬に想う、夏のうだるような暑さ、容赦なく照りつける日差し、鳴きやむことのない蝉の声、草いきれのこもる道、夕立のあとのアスファルトの匂い、夜空に煌めく大輪の花。

そのすべてが狂おしいほど恋しい。暑さで皆が少しずつおかしくなってしまうような。匂い立つ濃密な闇。なにかが起こりそうで、でも結局なにも起こらないまま終わる夏。胸がぎゅっと締めつけられるようなあの空気感。あの中にいますぐ戻りたいと、そう願う。

夏に想う、冬の凍てつく空気、どんよりと厚く重く空を覆う雲、吐く息の白さ、かじかむ指先、霜を踏むときの感触、毛布にくるまる幸福。それらもまた、恋しいのだ。

僕らはとてもワガママだから、いつだってないものねだり。そうして今日も、いま無いものを想っては、恋しさに想いを募らせている。

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