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血と一千一秒 クールな彼に旅芝居を人間を想う
彼のことがいつもどこか気になっているのは、
10代だった頃のとある日にあまりにもクールに踊っていたからかもしれない。
13年前のこと。粋心会(という団体というか会)の結成記念お披露目公演。
ふわふわの帽子付ドレスで女形で登場した瞬間、
客席からは「わぁ」と声があがった。
でも彼は終始無表情にすら見えた。整いすぎた顔だからこそ際立つ。
曲はなぜかTULIPの『心の旅』。
思わず笑ってしまったのだが笑うところでは全くない。
曲は変わり、繋いで、カバーバージョンの『亜麻色の髪の乙女』となる。
明るいアップテンポの曲に客席からは手拍子が来た。
でも彼はクールに踊っていた。
舞台、好きじゃないんかな。
勝手に思った。
もうひとつ、思い出す舞台がある。
あの日から4年後、またまた粋心会の若手大会と題された公演。
芝居は幡随院長兵衛だった。といってもベタなやつじゃない。
言うなればロック幡随院。
言うなれば髑髏城の七人風幡随院。
(いつも書くがわたしが真顔になるやつ)
出演者たちは時代劇の拵えではなく革ジャンにサングラスとかそんな格好で演じた。
彼がやっていた役は刀の鞘だったかを鏡にして自分に見惚れるナルシスト役。
ロック幡随院の仕掛け人であり会の中での皆の兄貴分、
現在も若手たちのリーダーと言うか軍団のボスというか、
そんな座長が当てた役柄だった。
イキイキと演じていた。同世代の仲間たちと共に。とても楽しそうだった。
普段、自分の劇団に居るときは、見ないような顔のように思えた。
好きじゃないのは舞台じゃなくて……。
また勝手に思った。
整っている整いすぎているというのは、なかなかに、たいへんだ。
たいへんなんじゃないかな。
当人にしかわからない苦悩などがさらに塗り込められる。
塗り込められるのに、滲み出る。でも、ひたすら、整っている。
先のボスというかこの世代のリーダー的座長で、
お客さんからは「様」付けで呼ばれもする役者は言っていた。
「僕なんか全然イケメンじゃないですよ」
じゃあ座長が思うイケメンは?
秒で返ってきた答えは、彼の名前だった。
わたしのまわりの友人たちも、皆、騒ぐ、
わぁっとキャーと言う、あの頃も、今も、ずっと。
先日、ひさしぶりに観た。
2~3年ぶりくらいだっただろうか。
20代の彼は、あの頃のようにとげとげぎすぎすではなく、
すこしふっくら大人になってはいた。
でもやはり、とても整った顔で、クールだった。
血について、考える。
旅芝居・大衆演劇を観ていると
否が応でも考えさせられるテーマのひとつが、血、家族、家だ。
いい悪いじゃない、いいも悪いも、すべて舞台に出る。
だから、考えさせられる。
鏡に向かい化粧をしながら、日々まいにち何を思っているのかな、思ってきたのかな。
彼だけじゃない。
常に横に居て、持て囃される息子を見て兄を見て、何を思っているのかな、思ってきたのかな、
同じ家同じ一座として、皆は。
私的に、特に印象深いのは、父だったりもする。
一時期、口上中ずっと、息子の名を「君」付けでやたら連呼していた。
若作りというと失礼な言い方だが、
とても若返ったような恰好で踊っていたのも見た。
彼は彼らは日々舞台に立つ立っている。
日々の舞台は暮らしはやってくる。
鏡に向かって塗って舞台に立たなければならない時間が来る。
それが、旅芝居、旅役者、その仕事。
そうして、年月と歳を重ねる。重ねてゆく。
先日踊っていたのは旅芝居のお客さんの多くが
「キャー」となるテッパン曲のひとつだった。
『一千一秒』
平日昼の客席はそんな大入り満員というほどではなく、
最初は温度低めに踊っていたように見えた。
彼を目当てに来た友人はぱしゃぱしゃと写真を撮る、熱を入れて。
その熱が彼に伝わったのか、中盤からあきらかに熱が入った、
ポーズが増えた、乗ってきたように見えた。
だから、特にイケメンに興味がないわたしも、
なんだかこの空気が撮りたいというか、撮った。
前方の席で、あきらかに「自分をみている」「自分に興味を持つ」2人が熱を入れて撮っている、ということは、空気で、伝わるのだと思う。
照明もなんだか乗ってきて、なんだかいい『一千一秒』だった。
特にこういう曲好きじゃないというか興味はないけど。むしろ逆やけど。
一千一秒って、なんなんやろね。
旅芝居、役者って、なんやろうね。
照らすライトは、時に眩しすぎもする。
ちかちかと目が眩みもする。すべての一千一秒を照らす。
生きること、生きていること、って、なんやろね。
帰路、そして帰って数日してわたしの脳に残っていたというか
リピートされていたのは、整ったクールな『一千一秒』ではなく、
それもあるが、同じくらい浮かんだのは、ちあきなおみの『役者』だった。
彼の父が、なんだか恰幅がというかでっかくなった父が、
派手めな衣装で女形で踊っていた。
晩年の?ちあきなおみが歌う、恋愛を、失恋を、歌う、
切なくも、人間臭い1曲。
サビで何度も繰り返されるフレーズが印象深い。
「わたし、役者だね」
旅芝居・大衆演劇を、いいだけで言うというか、
全肯定を出来るかというと、わたしは出来ない、というか、しない。
ずっとそうしてきたしそう言ってもきた。
あまりに人間であり、あまりに生きることそのことそのものすぎるから。
綺麗事を言ったり綺麗事だけですませようとする傾向にYESは言わないし、
好きかと言われたら好きとは言えないし言わない。
旅芝居を。いや、人間を。
でもだから、みている、だからでも、みていくのかもしれないと思う。
ずっとそうだったし、たぶん、これからもそうかもしれない。
その舞台は、やはり、あまりに、あまりにも、人間だから。
人間が生きる生きているそれそのことそのものだと思い、
笑ったり泣いたり怒ったり、考えたり、してゆきたいから。
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(藤間劇団 11月 庄内天満座)
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年内最終号StaySalty、読んでいただけて嬉しかったです。あったかくして元気で居てね。
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まとめています
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構成作家/ライター/エッセイスト、
momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。
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