【エッセイ】ストレスとの向き合い方 / 一流の頭脳(アンダース・ハンセン)
ストレスは、日常生活の多くの場面で発生し、無くなることはないだろう。そうならば、ストレスの正体を理解し、上手に付き合っていくことが良いだろう。
ストレスの正体
ストレスは、HPA軸という視床下部、下垂体、腎臓からなるシステムの機能によって発生している。具体的には、脳が脅威を感じると、視床下部がホルモンを分泌し、刺激された下垂体もホルモンを分泌する。それを受けて腎臓が「コルチゾール」というストレスホルモンを分泌し、ほんの1秒の間に心拍数が上がり、血流量が増加するなどの身体的な反応が起こる。
この反応の引き金になる。すなわち、脳が脅威と感じるのは、偏桃体が影響である。また、偏桃体はコルチゾールを認識すると、さらに興奮し、コルチゾール増加に起因する。
このように増加したコルチゾールに対して、ブレーキの役割を果たす器官もある。主に、海馬と前頭葉である。
海馬は記憶を司るため、過去の記憶と、前頭葉の創造的な高次機能から、事象を予測、分析することで、ストレス反応に対して、理性的なブレーキをかける。
慢性的なストレスは、それぞれを委縮させることも分かっている。
ストレスへの対処
上記のストレスの正体からすると、対処法は、①偏桃体を鈍らせる。②コルチゾールの分泌量を低下させる。③海馬、前頭葉の機能を向上させる。の3つが考えられ、最も現実的なのは、②である。
①は、日常生活においても危機感を感じることができなくなるため、大きなリスクを伴う。③については、ストレスを感じる機能は、17歳前後で完成するが、海馬、前頭葉は25歳前後で完成するという生得的な性質があるためである。
では、どのようにすれば、②の対処が可能だろうか。
万人に共通する処方箋としては、運動である。
運動のもたらす効果
運動は、多くのエネルギー、酸素を必要とする。そのため、心拍数や血流量、血圧が上昇する。このとき、慢性的なストレスにより、コルチゾールが分泌させていたとするならば、このコルチゾールは、本来の役割を果たす。その後、運動をやめると、あたかも正常に機能したコルチゾールは、役割を終え、減少するのである。
定期的に心拍数が上がる運動(ランニングなど)を行うことで、運動とコルチゾール増加の関係が強化される。すなわち、運動していないときにコルチゾール増加は起こりにくくなっていくのである。
さらに、運動を継続することで、海馬周辺で脳全体を鎮静化するBAGAを生成する神経細胞の増加も確認されている。
これまでのことから、運動はストレスと上手に付き合っていくうえであまりにも効果的であることが分かるが、これは対処方法であり、ストレスの原因を根本的に解決するものではない。
しかし、このような事実を理解し、実践する人が少しでも増えれば、どこかの誰かのストレスの根本的な解決になるのかもしれない。