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[創作]影響

[創作]影響

かつて大学からの旧友だった社会人2人が再会した。

「よう、久しぶり。」

「久しぶり、元気してたか?」

「ぼちぼちやってるぜ。そっちはどうよ。」

「もうブログが軌道に乗りまくり。エンジョイ〜」

「ほう、いいな。うまくいってるんだな。」

「時代に恵まれたよ。そっちは公務員、どうよ。」

「今はまだ事務作業だから、そんなに困ることなくやってるよ。」

「ほう、でも事務も最初はむずかったんじゃ

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[創作]気品のある冗談を言う人

[創作]気品のある冗談を言う人

私は彼と恋に落ちた。

はじめて彼を見た時、深い顔をする人だな、と思った。

私は日頃より自分の限界や力不足を感じていて、どうしても高い壁を突き破ることができなかった。

でも彼は常に笑っていた。彼は常に笑っていて、そして彼が言う冗談の節々に感じる知性は、「すべて筋が通っていた」。

私はとても興味を持った。彼は何を見てきたのだろう、彼は一体その若さでその精神にどんな巨魁を抱えたのだろう。

ある

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[創作]か細く生きる花

[創作]か細く生きる花

僕は彼女と恋に落ちた。

彼女との出会いは大学の構内で、授業が被ったことによるものだった。

彼女は黙々とノートを取っていて、僕の大学では(というよりどこの大学でもだとは思うが)そんなすべての文字を書き取るような人は滅多にいなかったので、半ば僕は感心していた。

そのノートは色彩に富んでおり、綺麗な図解と、それでいて膨大な量の書き留めがあった。

それを見た時、「これが女の子なのか」と僕は思った。

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【詩】カタルシスという螺旋

【詩】カタルシスという螺旋

全人類が望む恋の行く先を誰が手に入れよう

罪悪感と連関したノイローゼに

それが自分の努力の証だと気づかされた時に

パッと浮き立つカタルシス

それは一瞬であり

またそして深い

誰もが望む恋の獲得は

社会不適合者のカタルシスにこそある

圧倒的に持たざる者に花開いた精神の世界は

その者に関わる者への心象に憧れを植えるだろう

憧れは"何かを見ている"ということ

彼は何かを見ている

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[創作]大学生男女の会話

[創作]大学生男女の会話

「人生苦なりについて、どう思う?」

その女の子は問う。

男は答える。

「人生苦なりは努力だね。努力したら苦なりになる。努力に目覚めてなければ、それは享楽になるよ。」

「享楽か、つまりは出会いということね。」

「うん。享楽は出会いで、出会いは痛みの感情に薄いことだ。痛みの感情に薄いということは、人生が苦なりではないということだ。」

「分かる、もし本当にその人が苦しんでいるのだとしたら、他

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[創作]コーヒーが飲みたい

[創作]コーヒーが飲みたい

「どうしたの?」

「いや少し思うところがあって、私も飲みたいと思ったの。」

彼女は生来コーヒーを飲める人ではなかった。小さい頃からその苦味と香りが嫌いだったらしい。しかし今日はその彼女がコーヒーを飲みたいと言い出した。

僕は驚いて、でも心なしか否、深いところで嬉しさを感じて、少し心配しながら話した。

「あんま無理はしないで。これは家のドリップコーヒーよりも深く煎たものだから味も濃いよ。」

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[創作]ああ、桜

[創作]ああ、桜

時としていつの日か僕が、ただ人から愛されたかったという事実に気がつく時、それまでの過酷をボロボロにまでなって生き抜いてきた自分と、それを見届けたいつかの紅葉を思い出して郷愁する時、その愛はあなたという彼女の情緒のもとに、万年の永遠であってくれ。

万年も無限、永遠も無窮だ。
時として春が来る。

彼女が話す。

「あなたはどうして生まれてきたの」

僕は答える。

「きっと季節の気まぐれだよ」

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[創作]まだ見ぬ人

[創作]まだ見ぬ人

永い永い冬を抜けた喜びの春は、その幾千のノイローゼの先に、確かにあった人生の青い喜びに、顔を紅潮させながらそれでいてまだどこかぎこちない顔ではにかむ君と、繋がれた手からその体温の温もりとこの季節の予兆を感じる時、私はこのおかしな人生に謝罪と感服とで街を歩く。

「こんな休日は久しぶり」

「僕もちゃんとして過ごしたことはない」

2人はどうもその距離感と、この許された運命に心の落ち着けるところが分

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【詩】あなたを待っていたの

【詩】あなたを待っていたの

あなたと恋をするために生まれてきたのだと思う

でもこれはとても手垢にまみれた表現

私が言うのはノイローゼを超えた先の恋

それはきっと人の深い情緒

あなたがいることが苦しみで、その苦しみの大きさが喜び

苦しいくらいにあなたが眩しい

諸々を体験しない人にはこの言葉の意味は分からない

でもそれでもあなたと恋に落ちたい

たとえ別れの時が来たとしても

精神的に成熟のした2人の行く末は

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[創作]あなたはどんな人と付き合いたいですか

[創作]あなたはどんな人と付き合いたいですか

「私はもちろん、性格の良い女の人と付き合いたいと思う。けれどそれはすなわち性格の悪い女の人と付き合いたいということだとも言える。

というのも自身が性格が悪い、という自己省察に富む女の人ほど、性格の良い女の人だと思うからだ。

これを聞いてめんどくせえな、と思う女の人は性格が良い女の人で、故に性格が悪い女の人だと思う。

これを聞いてなにかハッとする女の人は、性格の悪い女の人で、故に性格の良い女の

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【詩】若い私は談笑しよう

【詩】若い私は談笑しよう

己はいくつ、22才

若いのだから繊細に

若いのだから人生への感謝と敬服を胸に

若いのだからあなたの機微に敏感に

若いのだから人間として哲学し

若いのだから芸術の真髄を現し

若いのだから人の徳を褒めたたえよう

老いたのならバカになろう

老いたのなら愚かになろう

苦しみを知るあなたとの恋の末に

[創作]抜け出して遊ぼうぜ

[創作]抜け出して遊ぼうぜ

暗い電車の滑走するその横道を、無職の男はその女の子に向けて口を開く。

「それはすべて社会のせいだね、君のせいじゃない。」

「そんなこと、ある?」

「そんなことあるよ、君、何も罪がないよ。」

「そんな、じゃあこのノイローゼは何なの?」

電車は2人の横を滑走し、少し遠くの駅に停まった。駅は小さな駅で、しかしながらそこは住民の多い街であり会社から帰宅する者たちの人だかりで溢れる。

「悪の噴出

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[創作]完成しない恋という完了

[創作]完成しない恋という完了

海の地平線が浮かんで見える。海に山が面し、空は青く晴れ渡っていた。この荘厳の隆起と、すべてがフラットの水面、丘の上の道路を私たちは滑走していった。

もし彼女がそこにいればいいな、と思った。そうしたら私は悲しくて泣いてしまうと思った。もし自分が運転していて、彼女がその旅の疲れで横で寝ていたとしたら、私はその横顔の事実だけに苦しくて泣いてしまうと思った。苦しいほど喜びだと思った。

オーディオには自

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