アトピー周辺知識34 : ケトン体・D-β-ヒドロキシ酪酸(暫定)

 前回の記事にて扱ったケトン体だが中々に奥が深く、単体として取り上げ纏めておく価値があるため本記事にてその情報を集約する。


 また私自身ケトン体(BHB)の継続摂取を最近始めたが、それにより頭痛や倦怠感が明確に改善された。ただ残念ながら皮膚炎症に対する効果は限定的な様であり、冬という事もあり不足しがちなビタミンD・鉄分等の摂取を意識し対応している。



・ケトン体とアレルギー疾患への治療効果

体内に存在するケトン体にはアセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンなどがあります。
ケトン体は脂肪の合成や分解における中間代謝産物 であるため、通常、血液中にはほとんど存在しませんが、糖尿病や糖質制限、絶食など、脳や筋肉のエネルギー源である糖質(グルコース)が利用できない時に代わりのエネルギー源として使われます。

ケトン体ってどんなもの?

 大まかに前回説明した通りであるが、基本成人に於いては極度の運動・飢餓状態や3日以上のファスティング、摂取する栄養を限定し糖質制限をしたケトン食の継続などによってしか、多く合成され体内で利用される事は無い。
 ケトン食によるダイエットや糖質制限はアレルギー疾患の炎症を抑制効果を示し、また外部からのβ-ヒドロキシ酪酸(βHB)と呼ばれる特定のケトン体を摂取する事によっても同様に炎症を抑制し得る事も報告されている。


上記のスケジュールの中で、2回のトレーニングの終了直後、および就床時刻の30分前の計3回、各条件にあわせてケトン体エステル(β-ヒドロキシ酪酸;BHB)25gまたはプラセボを摂取してもらった。採血検査から、ケトン体摂取条件ではBHB濃度が3mM以上に上昇していることが確認された。

外因性ケトーシスによって高強度トレーニング後の睡眠の質が改善する

 一般的にβ-ヒドロキシ酪酸(BHB)の一日の摂取推奨量は10g程度であるため摂取量としてはやや多い分量ではあるが、血中濃度が3mM以上に上昇しているのは中々に驚くべき事である。これはケトーシス状態の血中濃度に等しい数値であり、ケトン食による積極的な制限を行わずとも充分な外部からのケトン体補充を行えばほぼ同様の効果得られる可能性を示している(糖質を制限しない事によるデメリットは残るため、その点から完全に同じ効果は得られないものと思われる)。


・胎児期におけるケトン体利用


 また胎児では母体の胎盤にて脂肪酸から合成されるケトン体が主要な栄養源として利用される。これは胎児期に脳や神経系、免疫系が成長・発達する際にケトン体がその栄養として重要な役割を果たしている事も意味していると思われる。
 …胎児期に母体から継続的にケトン体の摂取を行えるというのも、胎生である哺乳類が大脳化を為し得た理由の一つかもしれない。
 因みに鳥類においても胎児はブドウ糖を殆んど必要としないが、大体において卵は低糖質なものであり、動物は発生初期から胎児期にかけてはタンパク質と脂質を主に利用するものなのだろう(=ケトン体質、であるかはまた別であり個別に調査が必要か)。

胎児のエネルギー源はブドウ糖ではなくケトン体です。胎盤には高濃度のケトン体が含まれていますが、ブドウ糖は胎盤にも臍帯血にも多くは含まれません。このケトン体は母体からの脂肪酸を原料として胎盤で作られています。胎児に必要な栄養素とするために母体には中性脂肪とコレステロールが増加しています。卵生動物の卵は蛋白質と脂肪でできていて、炭水化物(糖質)は殆ど含まれません。哺乳類の胎児も同じようにブドウ糖は殆ど必要としないのです。

胎児のエネルギー源  どちらが「代わりの事実」?


 新生児や乳児では胎児期の胎盤からのケトン体摂取に代わり、母乳にて摂取した脂肪分から自身でケトン体を合成・利用する様になる(新生児・乳児期では飢餓状態でなくともケトン体の合成が活発に行われる)。ケトン体合成はミトコンドリアの活動よるエネルギー生成に不可欠であり、その障害により脂質の代謝異常を始め様々な問題を引き起こす事になる。
 また体内での活発なケトン体合成が終わる離乳期は最もアレルギーを引き起こし易い時期でもあり、その時期での対応により後のアレルギー発症具合が変わってくる。

生まれた瞬間に食物アレルギー体質を持っている人はまずいません。(各種アレルギー検査をしても何も異常値はでません)
離乳食の初回(初めてゆで卵を食べさせた時など)に発症することが多く、初めて食べた時より前に食物アレルギー体質が作られていた可能性が高い。
以上の理由から、『生まれた時から離乳食を食べ始める前』の間に食物アレルギー感作(食物アレルギー体質が作られること)が起きると考えられるようになりました。

アレルギー体質が作られるメカニズムが徐々にわかってきた

 ケトン体合成は酪酸菌との共生においても必要であり、ケトン体合成能の変化が腸内細菌叢の占有率変化という形でアレルギーに関わっている可能性も疑われる。

 特に低出生体重児はケトン体合成能が低く、エネルギー代謝やミトコンドリア機能の低下により発達不良、更に抗酸化能の低下や腸内細菌叢の酪酸菌との共生関係にも悪影響を及ぼすと考えられる。
 低出生体重児は近年増加傾向にあり、それもアレルギー増加の一つの遠因となっている事だろう。

 …低出生体重児でのケトン体合成能の低下は、逆にケトン体の外部からの摂取による慢性疾患予防や治療の可能性も示しており、その点今後の医療に早期介入における改善の余地を残すという意味で希望を含む事実なのかもしれない。


・酪酸菌と人のケトン体を介した共生関係

健常人における大腸上皮細胞では、ケトン体の合成に関与する酵素であるHMGCS2(注3)が強く発現しているため、大腸管腔内のケトン体濃度が高く維持されています。これにより、エネルギー基質であるケトン体が酪酸菌の代謝を活性化し(論文1)、酪酸菌優位な腸内細菌叢を維持することでヒトの健康に貢献していると考えられます(図2)。健常人においては、大腸上皮細胞のHMGCS2の発現量を確保できれば、「ケトン体-酪酸シャトル」が機能し、「酪酸菌とヒトの共生関係」が成立すると推測されます。

酪酸菌とヒトはケトン体を介して共生関係にある~大腸管腔内のケトン体濃度が高いことを発見、仮説を提唱~

 ケトン体は酪酸菌と人間の共生関係においても酪酸菌の栄養として重要な役割を果たしているとの事。
 酪酸菌と人との相互の積極的な共生関係が明確にされた事は、腸内細菌叢に関わる疾患を理解し治療を行う上でも、また医療において慢性疾患の予防を行い医療過誤を防ぐ上でも当然に大きな意味を持つ。

 また酪酸菌に対してはプレバイオティクスだけでなく、ケトン体であるBHBの外部からの積極的な摂取がその増殖に効果的である事をも示している(研究者曰くプレバイオティクスならぬ「ケトバイオティクス」との事である)。


・ケトン体と睡眠調節機能

 ケトン体には睡眠調節機能があり、その摂取により睡眠効率が改善され、レム睡眠を増加させる作用がある。


・ケトン体による免疫活性化

T細胞はリンパ球の一種で、ヘルパーT細胞とキラーT細胞に大別されますが、重症COVID-19の特徴として、ヘルパーT細胞の働きが悪い(疲弊している)ことが知られています。そこで、BHBやケトン生成がヘルパーT細胞の働きに良い影響を与えるのではないかと考えました。ヘルパーT細胞とBHBを一緒に培養してみた所、抗ウイルス作用を持つインターフェロンγ量の増加が認められました。さらに、BHBはヘルパーT細胞のミトコンドリアの働きを増強することも分かりました。やはりBHBはヘルパーT細胞の働きを支えていることが示唆されました。また細胞のエネルギー源となるBHBとブドウ糖にそれぞれ特別なラベルをつけて、マウスのヘルパーT細胞でどのように代謝されていくか追ってみました。その結果、ブドウ糖に比べ、BHBは細胞にとって栄養不足の環境下においてもT細胞の働きを促進するエネルギー源として機能していました。さらに、実際に重度の呼吸不全を伴うCOVID-19患者の気管支肺胞洗浄液や血液中のT細胞も調べた結果でも、ブドウ糖から著しくエネルギーを得ようとして、それに伴ってミトコンドリアの働きが弱まっていることも分かりました。

新型コロナウイルス感染症:ケトン体の代謝異常によるT細胞の疲弊が重度の呼吸不全に関わる

 ケトン体は免疫細胞であるT細胞内でミトコンドリアの栄養となり、その働きを促進する作用があるとの事。免疫活性の意味でもBHBを積極的に摂取するのは効果的という事である。

いいなと思ったら応援しよう!