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【読書感想文】 "普通"から外れた人の生きづらさを包容してくれる物語 『わたしの美しい庭』
子供の頃に住んでいた家には小さな庭があり、その半分をぐるりと囲むように花壇が作られていました。
そこに植えられていたのは、梅と椿、松の木、水仙、朝顔、チューリップ、コスモス、南天、赤くて半透明の実をつけるスグリ。
それから、食べられるものは苺とアスパラガス、大きくは育たなかったけれどビワの木もあり、雑然と並んでいましたが季節ごとにいろいろな姿を見せてくれました。
その植物たちの中心にいて、ひときわ存在感を放っていたのが姫林檎の木。
私は毎年小さな白い花をたくさん咲かせて、小さくて可愛い赤い実をたくさんつけるその姫林檎の木が大好きでした。
しかし、翌年の春に引っ越すことになり、家も取り壊されてしまうことが決まった年の姫林檎は不思議なくらいほとんど花を咲かせず、当然ほんの少ししか実をつけなかったのでとても淋しい思いをしたことを覚えています。
植物にも心があるという嘘か本当か分からない説がありますが、もしかしたら、もうすぐ別れがくることを知っていたのかもしれません。
可愛らしく素敵な装丁に一目惚れ
本日は『わたしの美しい庭』(凪良ゆう 著)をご紹介します。
2020年の春、本屋さんに寄り道したら、"話題の本"の棚に並んでいたこの本の可愛らしく素敵な装丁に一目惚れしてしまい、お迎えいたしました。
CDでは今まで一度もジャケ買いをしたことがないのに、本ではできてしまうわけです。
そんな個人的な趣味はさて置き、タイトルロゴは箔押しになっていて、発売当初は水色だったそうですが、私が出逢った時には凪良さんの『流浪の月』がこの年の本屋大賞を受賞し、その記念として新たに金・サンセットオレンジ・キウイグリーン・ピンクの4色が追加されていました。
さらに、SNSに投稿されていた写真で拝見させていただきましたが、のちには冬季限定の特別カバーも登場していて、こちらもとても素敵です。
"普通"から外れた人たちの生きづらさを包み込んでくれる清々しい物語
この作品は、屋上庭園の奥に縁切り神社があるマンションに集う、いわゆる"普通"という価値観から外れた人生を生きる人たちの生きづらさを包み込んで受け入れてくれる、優しくて温かく清々しい物語。
私の人生は私だけのもの、他人や世間の価値観や世間体に左右されたり従ったりするものではないという気付きが、流れるような文体と相まって心地良く、すっかり魅了されてしまいました。
この物語に登場する人たちは、皆、難しい立場に悩んでいるのですが、でも、それぞれの存在を尊重していて自然で優しい。
特に、この物語のキーパーソンのひとりである10歳の女の子が驚くほど大人で天真爛漫。
目の前に広がる世界を綺麗な瞳で真っ直ぐに見つめているのが印象的です。
その女の子が語るすべてを悟っているかのようなラストの2行に胸が熱くなりました。
P.S.
この作品は5つの章でできいるのですが、一番心が震えたのは『あの稲妻』。
他人に話したらテンプレートのような励ましの言葉しか返ってこないようなどうにもならない恋に、胸がぎゅっと締めつけられるような切ない気分になりました。
何歳だろうとそれで本人が幸せならば、純粋な気持ちを抱きしめたままで生きていたって良いと思う。
ちなみに、私が選んだタイトルロゴの箔色は金です。