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エピソード6|I have a black dog.
自分を切り売りしている感覚が拭えない。深い悲しみ、僕しか知らないはずだったもの。
笑っても泣いても怒っても幸せになっても消えない胸に残り離れない深い絶望を伴った悲しみ。それはあの日母親に階段から突き落とされたとき、父親に馬乗りになって殴られたとき、中学校でマイクを持った男子に卑猥な暴言を吐かれて死ねと言われたとき、体育の授業中にクラスメイトの女子達に体操服を脱がされて抵抗したとき、部活でペアに
エピソード5|嫌いって言ったら友達が増えていくらしいけど
よくわからないけれど物心がついた頃から人の悪口を聞いたり、みんなに同調して人の悪口を言ったりするのが苦手だ。嫌いと言った方がいいのかもしれない、聞くのも言うのも嫌悪感を憶える。偽善者だとか言われるかもしれない、そういう訳ではなくて、ただ自分にバチが当たる気がして怖いのだ。人の悪口を聞いていたり、言っていたりすると、その頃は神様なんて頭の中に無かったけれど、目に見えない何者かに罰せられるような気が
もっとみるエピソード4|雲を掴む
僕はよく、雲を掴むような話をするらしい。
小学生の頃、僕は森を削った高原の高い所に住んでいて、少し坂を登って森の入り口の前まで行くとそこから琵琶湖とそれに沈んでいく太陽が見渡せた。小学校の八割が高原の子で、僕たちは全校生徒二〇〇人みんな顔見知りで友達だった。放課後はみんなで高原にある公園に集まってから秘密基地に行ったり、高原中でかくれんぼをしたり、鬼ごっこをしたりした。毎日一年生から僕らの学
エピソード3|文士として咲き文学に散る
小説を新人賞に出せた。人生で三作目、自身としては一番多い原稿用紙の枚数だった。良い作品が書けたと思う、それは面白いだとか、文章が上手いだとかそう云う単純なことではなくて、小説としての純粋な質の話だ。クオリティーが高いだとか、そう云うことでもなくて、良い話、誰かの人生に介入して糧となるような良い話が書けたと思う。誰かにとっての応援歌になるような、誰かにとっての慰めや救いになるような、慈悲深い、思慮
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