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第三章 蓮峯山の小さな楽土 ……日本の洪水伝説。 洪水伝説とは、世界中の諸伝説に多く…
今日の飛雨は、人が変わったようだった。人なつこい笑顔で、友達のように接してくる。 鋭…
「えーっとね、蓮峯山の山々の間にある湖には、竜が住んでいる。池に大蛇が住んでいる」 「い…
聞いても楽しくないぞと、飛雨はつぶやいた。 飛雨は、戦国武将の家臣の家の出身で、生ま…
「……ここまでにしよう」 長い沈黙が続いたあと、ふいに飛雨がいった。窓にもたれていた体…
少女は中学生くらいだった。 かわいらしいという表現がぴったりの子だ。かなり華奢で、長…
空気が痛い……。 風花たちは、山頂に続く坂道を歩いていた。 さっきまでは、笹原や枝葉があって足を踏み入れる隙がなかったが、山頂近くになって、急に辺りが開けた。 風花たちを取り巻く空気は、ぴりぴりしていた。 飛雨が放つオーラのせいだ。 「ルール違反だぞ、夏澄」 また飛雨の小言が始まった。 「自分の手に負えないことは、引き受けない約束だったろ?」 「ごめん……」 夏澄は腕の中のうさぎを抱きしめる。 さっき、ワンピースの少女に頼まれて、引き取ったうさ
それきり、飛雨はなにもいわなくなった。 ありがとう、と、夏澄が風のようにささやくのが…
眉間にしわを寄せ、飛雨は岩の上に寝転がっていた。 ずっと黙り込んで、宙を睨んている。…
過去に想いを馳せ過ぎたのか、かすかな目まいがした。 風花は頭を振る。 となりの夏澄…
風花たちと優月は向かい合い、輪を描いてすわった。 「ここには、動物がたくさんいるんです…
「ありがとうございます。……立貴にも感謝しております」 いった優月は、スーフィアのひざ…
草花を追うかと思ったが、優月は動かずにいた。 表情のない瞳で、桃色しろつめ草を眺めて…
「三年くらい前からでしょうか。たまにこんなことが起こるのです」 優月の言葉に、夏澄は瞳を伏せる。 彼の足元の泉に、そんな夏澄の姿が映って揺れていた。 雨水が流れて地面はぬかるみ、すわれなくなっていた。ただ立ち続けるのもつらく、風花たちは泉の周りを散策していた。 ぽつぽつとしろつめ草についている水滴は、葉を深く染めていた。 清浄な雨の香りがしている。 風花は、そのしろつめ草の上空に視線を移す。 さっき、泉のようなものができた場所だ。 空の泉……。