水の空の物語 第3章 第25話
草花を追うかと思ったが、優月は動かずにいた。
表情のない瞳で、桃色しろつめ草を眺めている。
「お騒がせして、恥ずかしい限りです」
優月は居住まいを正した。
「それから、勝手だとは思いますが、この仔たちはうちで育てさせていただけますか? こちらから押し付けておいて、申し訳ありません」
野生に帰すといっていたが、優月はうさぎも春ヶ原で育てるらしい。
風花はちょっと安心した。
「いえ、寂しいけど、ここには仲間の動物もいるし、そのほうがあの仔たちも喜びますよ」
スーフィアはそっとわらった。
そんなスーフィアを、優月はふしぎそうに見る。
「あなた方は、あの仔たちを返しに来たと思っていたのですが……。もしかして、ここを訪ねてきた理由が他にあるのですか?」
夏澄とスーフィアが顔を見合わせた。
「空に湧く泉だよ」
夏澄より先に、飛雨が身を乗り出した。
「雪割草の精霊が、春ヶ原の空で、そんな泉を見たっていっていたんだ。ここにそんながあるのか?」
「空に湧く泉ですか……?」
優月は瞳を瞬かせる。
しばらく考え込むようにしたあと、顔を上げた。
「それは、もしかしたら……」
優月がはっとしたように言葉を止めた。
ふいに、冷たい風が吹いたからだ。
風には、ここにないばずの枯葉が混ざっていた。風花たちのいる場所を通りすぎ、泉の近くに吹きつける。
すると、風が当たったところだけ、しろつめ草が萎れ始めた。
「立貴っ、頼むっ!」
優月が叫ぶ。
立貴は顔を強張らせ、素早く立ちあがる。
懐からなにかを取り出した。
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