マガジンのカバー画像

甘野充のオススメnote

503
noteで出会った素晴らしい作品を収録しています。 ぜひぜひマガジン登録を! フォロワーが増えています!
運営しているクリエイター

記事一覧

海辺のニャフカ

もし、人生が1本の映画だったら、私はメガホンを握りたい。 演出家として、あらゆるシーンをコントロールしたいのだ。主演俳優としてキャスティングされた自分自身を、時には泣かせ、時には笑わせ、どう転んでも“私の物語”になるように仕立て上げる。そんな妙な妄想にふけっていたある日、不思議な夢を見た。 その夢では私は猫に転生していた。にゃーん、と一鳴きしてみると、そこに姉が現れた。姉と言っても、これも猫である。彼女はなぜか私を見つめ、「さあ、父のチュールを奪い取るんだ」と真剣な顔で言

ミッドナイト

君はいつもの場所で 僕にサインを送るんだ 二人だけの サインを 夜になれば 君と甘い時間 僕は 欲望をむき出しにして    愛するよ 夜が 待ち遠しい 二人だけの 熱い夜が 熱く 熱く 君を愛するよ

掌編小説 ブロックの家

「あなたっ」 そのときは突然やってきた。妻の左頬にあるほくろに「僕のお星さま」と軽く口づけ、玄関を出たばかりだった。家が――黄色の直方体が――妻をなかに残したまま垂直にゆっくりと上昇する。とっさに引き留めようと飛びついたが、無常にも振り落とされた。僕を呼ぶ妻の声がどんどん小さくなっていく。やがて、おもちゃのブロックにしか見えなくなった家は西に向かって水平に移動し、雲の間に消えていった。 今や、世界の大半の人はブロックの家に暮らしていた。ブロックを寄せ集めてできた家、というこ

【超短編小説】 楽園

胸の奥の扉を叩いてみてください。 カフェ『楽園』は辛い時、苦しい時、寂しい時、いつでも、最高峰のコーヒーを味わう事が出来ます。 ☆☆☆ 「コンロンサンです、どうぞ」 店主が、伝説のコーヒー〈コンロンサン〉を音一つたてずテーブルに置いた。 畳くつろぎスペースでは俊成卿女らしき人物がうたた寝をしている。 「ミルクと砂糖はどうなさいますか?」 「いえ、けっこうです」 「では、かわりのサービスです。ん、ん、あーあーあー 珈琲の匂ふあたりのうたた寝は夢も昔の袖の香ぞする イェイ

【短編小説】「ロザリオ」

 日曜礼拝のあと、僕は教会の前に流れる小さな川を眺めていた。川は透き通っていて、きらきらと光る小魚が見える。  今日は神父の話も上の空で、讃美歌も歌う気になれなかった。終始ぼんやりしていた。 「あなたのせいよ」母親はいった。  実際、誰のせいでもない。病気が進行し、父親は亡くなったのだ。    父親に病気が見つかるまで、両親はふたりで仲が良くとはいいがたいが(実際、口論が多かった)、慎ましやかに暮らしていて、僕が美術大学を卒業し、就職して家を出てからも、とくに寂しいともいわな

¥100

cosmos【掌編小説】

あなたはたしかに生きていました。 入れ物である体は失いましたが、わたしの中に足跡を残し、これからも生き続ける。 そうでしょう? ゆらゆら、ゆらん。 ベンチが一基あるだけの小さな公園で、桃色や濃紅、純白のコスモスが秋風に揺れています。雌蕊は気道を確保するかのような角度で、空を見上げていました。 わたしも同じような角度で秋の空を仰ぎます。そうしなければ、下瞼に溜まっている涙がこぼれ落ちてしまうからです。 2カ月前まではあなたと一緒に、この公園をよく訪れていました。ベンチに

バレンタインデーキス

「よう!元気か?」 窓を開けた瞬間、隣の家のベランダから聞き慣れた声が飛んできた。 侑真だ。隣に住む幼なじみで、昔からずっと一緒にいる。

¥100

季節がそっと閉じて行く

夏の終わり 季節は少しづつ開花の時を目指し、閉じて行く 虫たちも季節に手を引かれるように、閉じられて行くでしょう 始まりの前の終わりに向かって行く季節は台風の通り道 始まりに向かう、終わりの時 終わりの時は、始まりの時 その向こう側を見たのなら、それは生まれ変わりだと言えるはず にぎやかなものが閉じて行く時は、決まってどこか騒がしい 住み慣れた家を解体するように 喧嘩別れをするように 夏が台風にさらわれる様に、来年へと姿を消すように 心もザワザワと揺れるでし

詩『また会いましょう』

『また会いましょう』  二度と会えない気がして  指切りするように言い放つ  「また会いましょう」  とても嫌いな人にも  いじわるするように催眠術  「また会いましょう」  弱虫だから、腰抜けだから  へタレのわたしの、やせ我慢  愛したいんだ、ハグしたいんだ  せっかく出会った、運命だ  note去る人増えてく  コメント欄にはしょうがなく  「また会いましょう」  墓にお参りしたとき  死んでる人にも繰り返す  「また会いましょう」  シャンパンみたい、酔っ

【掌編】『狐日和』

実家に帰ったときに偶々置いてあった 狐のぬいぐるみを見つけ 車の助手席に乗せて帰ってきた 座席に腹ばいになってぺたっと乗っかっている 少し気がまぎれそうな気がした あいつにフラれてから そこは空席のままだったから あいかわらず勝手気ままな元カノを 自認するあいつは こっちの都合などおかまいなしにやってくる 今日は天気がいいからと クッションを探しに郊外のアウトレットまで ドライブに引っ張り出された ランチが美味しかったのかご機嫌で 帰りの道中ずっと狐をあやすように 膝に

Conflict|詩

「Conflict」 君はもっと自由でいいと思うんだ もしも笑えなくなったなら 僕のせい 例えば其れが僕のせい 優しい風がそこにあること 否、かつても其処にあったこと 蒼い瞳の少女の願いは 上昇気流に舞い上がる風船のなかで 壊れてしまわないうちに そう、壊してしまわないうちに

詩•  愛のすむ場所はこころのどのあたり?

ふだんは 近すぎて 見えなかったことが 離れてみると 気がつく そんなちょうどいい距離がある たまに その距離に身を置いてみると 愛おしいものも 大切なことにも 気がつく それは故郷の街並みと そのざわめき めいたニオイだったり… お気に入りの 海が見える場所だったり… そして 君、のことだったりする そんな時に吹く風は 新たな発見をして 心がスキップをするような さわやかな風だったりする 仰ぎ見る今宵の月はレモン色出逢いの頃の君の笑顔の ため息をすべて集め

【詩】違う空

澄んだ空気が一段と 青空を高くする 小さな薄い雲だけが そっと傍で浮いている あなたの場所からも 見えますか いつからか 見える空が異なって いつからか 違う陽を浴びていた それでもこんな晴れた日は あなたと目が合いそうで そっと見上げて探している あなたの空も 晴れですか あなたの空も 元気ですか

【詩】 根っこのしゃっくり

すっかり緩んでしまった影が 地面に染み込んでいく 滑らかに すもも色を帯びた公園には まだ 賑やかだった昼間の 火照りが残っている 蒸れた草木にまみれて 聞こえてくるのは 泡のような 空耳かなにか 「ぽく」 「かぱら かぱら」 「しゅぺぺ」 枝に引っかかった おしゃべりのかけら 「ちっかん ちっかん」 「ぷかぷか」 「るるる。。」 土深く 新芽の かかとを打ち鳴らす音 さっそく降りはじめた夜露が 律儀に佇む遊具の 赤錆を讃え 頼りなく瞬ぐ街灯を じんわり ふやか