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こんにちは、「笑顔工学」の専門家、木村光範です。
笑顔工学って何??という方は、ぜひ自己紹介をご覧ください!

今回は、品質機能展開(QFD)を活用した商品開発の話です。

QFDをご存知無い方が大半かと思いますし、ご存知の方も「そんな古い手法・・・」と思われる方も多いのかと思います。

1990年代に私が大学生の時代で、すでに「古い手法」とも思われていたように思います。そんなQFDの歴史的背景を振り返り、なぜ今あらためてAI時代に脚光を浴びる可能性があるのかを考えてみます。

QFDについて

QFD(Quality Function Deployment: 品質機能展開)は、1970年代に日本の自動車業界(特にトヨタ)を中心に整備された品質管理手法です。
主導的な研究者としては、故・赤尾洋二(あかおようじ)先生などがよく知られ、当時の製造業では「顧客の声をしっかり掴んで、製品の設計に反映させよう」という革新的な発想でした。

例えば、エンジニア同士で議論すると、どうしても「作り手視点」の仕様ばかりになりがちですが、QFDではまず「顧客は何を求めているか(VOC: Voice of Customer)」を整理するところから出発し、それを「品質特性」→「設計要件」→「工程要件」へと段階的に展開していくことで、最終的に顧客満足度を最大化することを目的としていました。

ではなぜ1990年代に、すでに「古い手法」扱いされてきていたのか、私なりに理由をいくつか考えてみました。

1. 大量のドキュメントと複雑な手作業

QFDを行うには、まず顧客アンケートや市場調査で集めたデータを紙ベースやExcelで膨大に整理し、「どの顧客要求がどの品質特性に対応するか」を表にびっしり書き込みます。
作業工数が多く、参加人数も大規模化しやすいため、導入コストが高く「一度やると疲弊する手法」というイメージが根強かったのです。

2. 製造業以外での馴染みの薄さ

自動車など日本の製造業で発展した歴史があり、ITやサービス業には適用しにくいとみられがちでした。モノづくりの現場向けの“古い品質管理手法”という印象が強く、「ソフトウェア開発やサービス産業には合わない」と敬遠されがちでした。

3. 変化への追随が難しい

QFDは一度大規模に作り上げると、市場や顧客の要望が変化しても更新が大変なため、結局「初期の分析をしただけで放置」されることも多々ありました。そのため、「状況の変化に弱い時代遅れのやり方」と感じる人が出てきたのだと思います。

4. 他の新しい手法の台頭

1990年代は、デザイン思考アジャイル開発など、顧客参加型・反復型の開発手法が台頭し始め、「QFDは大がかりで固い手法」「スピードが遅い」と見られていた面もあります。

House of Quality(HoQ)とは何か?

QFDを語るうえで欠かせないのが、品質表 (HoQ: House of Quality) という図表です。これは、顧客要求品質特性をマトリックス状に配置し、その関連度や競合製品との比較、優先度などを可視化したものです。
形が「家のような」屋根付きのマトリックスに見えるため「House of Quality」とも呼ばれています。典型的には次のような構成です:

House of Quality (Public Domain)

  1. 左側列:顧客要求(Customer Demanded Quality)
    図の左側には、顧客が求める品質や特性が列挙されています。この例では、例えば「Produce innovative solutions that work(革新的な解決策を提供)」「Quality of product(製品の品質)」「Effective customer contact(効果的な顧客対応)」といった具体的な要求が挙げられています。これらは、顧客アンケートやフィードバックをもとに抽出されます。

  2. 上側行:品質特性(Enterprise Product Development Capabilities)
    図の上側には、製品開発やプロジェクトマネジメントにおける具体的な品質特性や技術要素がリストアップされています。この例では、「Business Capture(ビジネス捕捉)」「Quality Processes(品質プロセス)」「Project Management(プロジェクト管理)」「Technology Development(技術開発)」などの大項目があり、それぞれがさらに具体的な要素に分かれています。

  3. マトリックス部分:相関度
    中央のマトリックス部分では、顧客要求と品質特性の関連性を示しています。記号を用いて関連度を表現しており、「◯」(強い相関、スコア9)、「△」(中程度の相関、スコア3)、「×」(弱い相関、スコア1)などが使われています。この視覚的表現により、どの品質特性が顧客要求に対してどれだけ寄与するかが明確になります。

  4. 屋根(Roof):品質特性間の相互関係
    マトリックスの上部には「屋根(Roof)」と呼ばれる部分があります。ここでは、各品質特性同士の相関関係が示されており、「+」(強いポジティブな相関)、「-」(強いネガティブな相関)などが記号で記されています。この情報は、ある品質特性を強化すると他の特性にどのような影響が出るかを把握し、設計のトレードオフを管理するために使われます。

  5. 下部:改善方向、重要度、難易度
    図の下部には、「Direction of Improvement(改善の方向性)」「Organizational Difficulty(組織的な難易度)」「Weighted Importance(加重重要度)」などの項目があります。ここでは、どの要求が優先されるべきかを示し、さらにその実現に必要な労力やコストが評価されています。

ご覧いただいて感じていただけると思いますが、このHoQは紙やExcelベースで作ろうとすると非常に労力がかかりがちです。ここにAIやクラウドツールが登場することで、自動生成や自動更新を実現できるわけです。

AI時代にQFDが再評価される理由

1. 生成AIで顧客要求(VOC: Voice of Customer) を大量処理

SNSやレビューサイト、アンケートなどから集まる膨大な顧客の声をAIが自動で分類・要約・優先度付けしてくれます。
→ 従来のQFDで最も時間のかかる部分をカットできます。

2. 自動でHoQの原型が作れる

AIに「顧客要求」「品質特性」を渡し、相関度を推定させることで、HoQのベースを一瞬で出すことが可能になります。
→ 人間は修正だけやればOKです。そして、そもそも、HoQを作成するのが目標ではありませんので、描きづらい家の形にこだわらなくても良いのです。

3. リアルタイム更新で時代に追随

QFDが「古い」と言われた大きな理由は、一度作ると更新が大変だったこと。しかしAIにVOCを随時取り込ませれば、QFDを常に最新の顧客要求に合わせてアップデートできます。

4. 業種・業態を選ばず導入可能

サービス業やITでも、実は容易に適用可能です。。AIが生成する結果をスプレッドシート等で可視化する仕組みを作れば、大規模なツール不要で対応できます。

Googleスプレッドシート+AI+無料SNS収集ツールで実現する事例

  1. 無料SNS収集ツールの活用

    • 無料でも活用できるツール(SINIS、SocialDog、CCX socialなど)で、SNSからの情報を取得し、CSVなどで書き出します。

  2. 生成AIで自動分類&QFD用のマトリックス下準備

    • ChatGPTなどに「このCSVを顧客要求としてカテゴリ分けして」「品質特性リストも提案して」とプロンプトを投げます。

    • 結果として、「顧客要求 × 品質特性」のマトリックスを自動的に提案してくれます。

  3. Googleスプレッドシートに取り込み、HoQを可視化

    • AI出力をコピーしてスプレッドシートにペースト

    • 相関度(1,3,9など)もAIが一緒に出してくれれば、シート上で条件付き書式などを使って色付けし、HoQに近い形を視覚化

    • 「屋根」部分(品質特性間の関係)もAIに算出させればシート上の上部セルに相関を埋め込めます。

  4. 必要なら人間が微調整

    • どこか不自然な点や実際のエンジニアからのフィードバックを受け、「これは相関9じゃなくて3だよね」など微修正します。

    • 全体を最小限の手間でブラッシュアップして完成します。

QFDを継続的に更新し、PMFへ近づく

PMF(Product-Market Fit)は、「製品が市場のニーズと合致している状態」を指します。QFDはもともと「顧客要求を製品に反映する」仕組みですから、PMFを追求するのに最適なフレームワークです。さらにAIを使って顧客要求をリアルタイムに拾い、QFDマトリックスを随時更新することで、常に市場の声に合わせて製品をチューニングできるようになります。

リアルタイム更新事例

  1. SNSで「新モデルの○○機能が使いにくい」という投稿が急増

  2. AIが自動的に「操作性」カテゴリの重要度を再計算

  3. 次の製品アップデートやファームウェア修正に「操作性向上」を最優先項目として組み込む

こうしたフローが成立すれば、PMFを得るまでのサイクルがとても短くなり、「顧客が何を求めているか」を常に検証しながらアップデートできるのです。

まとめ:QFDは「古さ」を克服し、AIで蘇る

1990年代に私が品質管理を学び始めた頃、すでにQFDは「古い」「大規模企業向け」「運用が大変」と敬遠されがちでした。しかし、AIやデジタルツールが一般に普及した現代においては、QFDのボトルネック(手間・更新の難しさ)が一気に解消されるチャンスが訪れています。

  • QFD本来の強み:顧客要求を確実に商品・サービスへ反映し、優先度付けを明確化できます

  • AIがカバーする部分:VOCの分類・相関度の算出・マトリックス自動作成・リアルタイムに近い形で更新できます

  • Googleスプレッドシートの役割:誰でも使える汎用クラウドツールでHoQを手軽に可視化・管理できます

  • 無料SNS収集ツールのメリット:有料APIに頼らずともSNSデータをライトに取得し、AIで分析→QFDに反映できます

最小限の人間の判断や手作業で、顧客が本当に必要とする品質を素早く把握し、PMF(Product-Market Fit)へ一気に近づける、まさに今の時代ならではのアプローチです。

QFDを「古い」と見なしている方こそ、このAIとクラウド時代における手軽な活用法を試してみてはいかがでしょうか。意外なほどハードルが下がり、顧客要求をしっかり満たした商品づくりやサービスづくりが可能になるはずです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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