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よりぬき伝奇さん

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これまでこのnoteに掲載した記事のうち、特におすすめの作品に関するものについて、よりぬいています。
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2024年8月の記事一覧

小説として、歌舞伎の原作として 京極夏彦『狐花 葉不見冥府路行』

小説として、歌舞伎の原作として 京極夏彦『狐花 葉不見冥府路行』

 先日観劇した新作歌舞伎『狐花 葉不見冥府路行』――その原作として刊行されたものがこの小説版となります。もちろん歌舞伎とは独立した作品として楽しむことができる一冊ですが、ここでは可能な限りネタばらしに注意しつつ、歌舞伎との比較も含めて紹介したいと思います。

 ある日垣間見た美青年に心奪われた作事奉行・上月監物の一人娘・雪乃。しかし彼女付きの女中・お葉は、その美青年――萩之介の姿に衝撃を受け、寝付

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仁木英之『モノノ怪 執』 時代小説の文法で描かれた『モノノ怪』

仁木英之『モノノ怪 執』 時代小説の文法で描かれた『モノノ怪』

 2022年はアニメ『モノノ怪』15周年ということで様々な動きがありました。それは2年後の現在(2024年夏)公開中の『劇場版 モノノ怪 唐傘』に結実しているわけですが、この15周年時の大きな収穫が、スピンオフ小説『モノノ怪 執』であったことは間違いありません。
 全六話が収録されたこの小説版を担当したのは、なんと歴史・時代小説でも活躍する仁木英之――実力派であると同時にマニア精神をよく知る作者だ

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黒崎リク『呪禁師は陰陽師が嫌い 平安の都・妖異呪詛事件考』 世間知らず呪禁師と将来の大陰陽師が挑む怪事件

黒崎リク『呪禁師は陰陽師が嫌い 平安の都・妖異呪詛事件考』 世間知らず呪禁師と将来の大陰陽師が挑む怪事件

 今なお衰えを見せない人気の陰陽師ものの中でも、本作は少々変わり種――というよりも、正確には陰陽師ものではなく呪禁師もの。呪禁の技を操る外法師の青年・竜胆が、若き陰陽師・賀茂忠行に引っ張り回されて都を騒がす怪事件に挑むという、いささかユニークな物語です。

 京の外れの化野でひっそりと暮らす青年・竜胆。腕は確かですが人付き合いが苦手の彼は、育ての親であり、数年前に姿を消した千種から伝えられた技で、

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牧野礼『六四五年への過去わたり 平城の氷と飛鳥の炎』 美しきタイムスリップと、少女の確かな成長

牧野礼『六四五年への過去わたり 平城の氷と飛鳥の炎』 美しきタイムスリップと、少女の確かな成長

 タイムスリップを題材とした歴史時代小説は少なくありませんが、本作はその中でも比較的珍しい、過去から過去へのタイムスリップを描いた作品です。日本書紀執筆のために奈良時代から飛鳥時代――乙巳の変の最中に飛ぶという危険な任務に挑む少女の成長を描く、極めてユニークで内容豊かな児童文学です。

 平城京で姉の真桑と二人、身を寄せあって暮らす少女・沙々。しかし彼女の運命は、姉がその美貌に目を付けた貴人に突然

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