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よりぬき伝奇さん

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これまでこのnoteに掲載した記事のうち、特におすすめの作品に関するものについて、よりぬいています。
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2024年4月の記事一覧

馬伯庸『両京十五日 Ⅰ 凶兆』 南京から北京へ、決死行を描く「歴史冒険小説」の傑作

馬伯庸『両京十五日 Ⅰ 凶兆』 南京から北京へ、決死行を描く「歴史冒険小説」の傑作

  記念すべきハヤカワ・ミステリ2000番は、『長安二十四時』『三国機密』の原作者による、歴史冒険小説の傑作。十五世紀の明を舞台に、皇位を狙う巨大な陰謀に巻き込まれた皇太子が、たった三人の仲間と共に南京から北京までわずか十五日間で向かう姿を描く、一大スペクタクルです。

 時は1425年、明の第四代皇帝・洪煕帝の時代――北平(北京)から金陵(南京)への遷都が計画される中、南京に遣わされた皇太子・朱

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白川尚史『ファラオの密室』 前代未聞、探偵で被害者は甦ったミイラ!?

白川尚史『ファラオの密室』 前代未聞、探偵で被害者は甦ったミイラ!?

 毎回ユニークな作品が登場する『このミステリーがすごい!』大賞、第22回の受賞作は、何と紀元前1300年代後半の古代エジプトが舞台。それも探偵にして被害者は、自分が死んでミイラとなりながらも、冥界から再び甦った男という、異色中の異色作です。



 ある出来事で命を落とし、ミイラにされて葬られた上級神官書記のセティ。しかし冥界に赴き、真実を司る神・マアトによって審判を受ける直前になって、彼は心臓

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乾緑郎『戯場國の怪人』 史実と虚構、この世とあの世を股にかけたスーパー伝奇

乾緑郎『戯場國の怪人』 史実と虚構、この世とあの世を股にかけたスーパー伝奇

 ミステリと並行して独自の時代伝奇小説を描いてきた作者によるオペラ座の怪人オマージュ――に留まらない、凄まじい奇想に満ち満ちた物語です。女形の溺死の謎を追ううち、市村座に潜む謎の怪人と対峙することになる平賀源内や深井志道軒たち。一連の怪事の背後に潜む「戯場國」の驚くべき姿とは……

 宝暦十三年の夏、舟遊びをしていた市村座の役者たちの一人・荻野八重桐が怪死した事件を、作品にするよう依頼された戯作者

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滝沢志郎『エクアドール』 海を越える同胞愛と、明日に踏み出す人々の物語

滝沢志郎『エクアドール』 海を越える同胞愛と、明日に踏み出す人々の物語

 中世の琉球王国に始まり、東南アジアへと展開していく、希有壮大にして爽快な海洋冒険ロマン――琉球を外敵から守るため、ポルトガル人から新型兵器を手に入れんとする琉球王府の人々の旅路を描く快作です。

 時は種子島に鉄砲が伝来する二年前――倭寇だった過去を持つ琉球王府の下級役人・眞五羅は、湾に迷い込んできた倭寇船との交渉に当たる中、倭寇時代の友・弥次郎と再会することになります。
 弥次郎と共にかつて所

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田中文雄『髑髏皇帝』 後醍醐帝の魔に挑む少年二人、足利直冬と北条時行!

田中文雄『髑髏皇帝』 後醍醐帝の魔に挑む少年二人、足利直冬と北条時行!

 足利尊氏の庶子・直冬、そして北条高時の遺児・時行が、後醍醐天皇に憑いた奇怪な魔物と対峙する時代ホラー長編です。尊氏に都を追われ、吉野に逼塞する後醍醐天皇の前に現れた異国の魔――吉野で相次ぐ奇怪な事件の謎を追う若き武士たちが、魔に挑みます。

 本作の舞台となるのは、鎌倉幕府の滅亡、建武の新政の失敗、南北朝の動乱と、うち続く動乱の時代。その渦中でそれぞれに父母と早くに引き離され、肉親の温かみをほと

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