今日のほっこりしたお話 ある休憩所で、手を洗おうとしている 女の子がいました。 そこの蛇口はボタンを押すタイプで、 その子は戸惑っているように見えたので、 私は少し立ち止まりました。 すると、向こうからその子のお兄ちゃんらしき 男の子が走って来て、「こうやって水を出すんだよ」と女の子に助け船を出しました。 その男の子がやって来た方向を見ると、お母さんらしき人がハンカチを広げて、二人が戻ってくるのを微笑みながら待っていました。 プチはじめてのおつかいを 目の当たりにし
___本当は分かってた。 いけないことだったって分かっていたのに……。 この手から伝わる温もりが全て愛だと錯覚した。 朝目が覚めると、部屋には私一人しかいない。 酔いが治まらない感覚に頭を抱えながら、気だるい体を起こした。昨夜脱ぎ散らかした服を拾い集めると、水を求めて台所へ向かった。 コップに注いだ水を飲み干して一息つくと、殺風景な自分の部屋を見渡した。自然と昨夜ここであったことが思い返された。 あなたの隣で同じ朝を迎えたことは一度もない。 その口にする甘い囁きも、
物心ついた時から、「優しい子だね」という言葉をよく耳にしてきた。子供の頃、それは褒め言葉なのだと無邪気に喜んでいた。 思い返すと、あの頃は優しさの意味を理解するにはまだ幼なかったと思う。 大人になるにつれて、そのことを痛感した。 社会に出てからしばらくして、優しさにはいくつかの種類があることを知った。 一つ目は、道徳の授業で習った優しさ。 人に思いやりを持って接しましょうという類のもので、子供の頃から集団行動の中で身につけてきたのがまさにそれだと思う。見返りを求めない無
___「さよなら」「ありがとう」 澄み渡った青空に向けて、声の限りそう叫んだ。 誰もいない河川敷にポツンと一人座ってみる。 どんなに声を上げたところで、きっと私の言葉は届かない。それでも叫ばずにはいられなかった。 もしかしたら風に乗せて、あなたが旅立った先に届くかもしれないから。 目の前に広がる空があなたと出会った日の空に似ていたから、どこかで繋がっていてほしいと願いを込めた。 数年前に入院先の病院で知り合ったそのおばあさんは、人一倍明るくて気さくな人だった。人見知りの
___空を押し上げて手を伸ばす。 分厚い雲で覆われた灰色の空から、雨水が容赦なく降り注ぐ。その感触を手で確かめると、夢ではないことに落胆してため息をついた。 雨は昔からどうも苦手だ。 鼻につくような土の匂い、泥が跳ねる足元、うねりを増す髪、気まぐれに起こる偏頭痛……不快な要素ばかりが頭に浮かび、そのどれもが私を憂鬱にさせる。そんなときはいつもなら家にこもってやり過ごせばいいのだが、生憎今日はそういうわけにはいかない。 重力に負けそうになる体を無理やり起こすと、鬱々とした気
___考えたってわからない。 いつだったかはもう思い出せない。 だけどもうずっと長い間、苦しめられてきた気がする。 君のせいで大好きだった音楽が聞けなくなった。 好きだったラブソングも、流行りの曲も、音が頭に響く度に苦痛を感じるようになった。 大好きだったピアノも、ギターも、弾く度に調律が狂っているように聞こえて触れなくなった。 密かに自慢だった絶対音感も、気づかないうちにどこか遠くに置いてきてしまった。 ただ、机をピアノに見立てて敲く癖だけが未だに抜けない。 街中の人の
その日の朝、登校中の私の手は寒さに加え、緊張でいつも以上に震えていた。 誰よりも早く学校に着かなきゃ、せっかくの計画が全て水の泡になってしまう。 誰もいない校門をくぐり抜けると、先生の靴箱目がけて全力疾走した。玄関口を開けると2月の冷たい風が吹き抜けて、落ち葉がくるくると足元で舞っている。 「よかった……」 誰にも見られていないことを確認すると、昨日用意したものを先生の靴箱に押し込んですぐさま逃げた。 その日の昼休み明けの授業は、時間割の振替で国語だった。教室のカーテン越
君と共存をはじめて4年が経った。 最初に君の存在を知ったのは、4年前の冬の始まり。色々なことが重なった環境に限界を感じた頃、心と体はすでに壊れていたらしい。 君の存在を主治医に告げられて、病気のことや自己肯定感を上げる方法を調べ尽くしたけれど、むしろそれは逆効果で、何もできなくなった自分を責め続けたこともあった。 主治医の助言通り、まず頑張らないことを頑張ることから始めて、べきだの何だのこれまで自分を縛ってきた自作ルールを捨てていった。 今まで自分を痛めつけてきた代償だ