みか

漫画と本を7:3の割合で愛する会社員。

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最近の記事

『カフネ』で知る、あたたかい食事の本当の意味

もし、忙しすぎて心をなくしかけているのであれば、2024年に講談社から刊行された『カフネ』(著:阿部暁子)を手に取ってほしい。 心に寄り添って、内側からじんわりとあたためてくれるはずだから。 溺愛していた12歳年下の弟を亡くした主人公が、弟の元恋人とカフェで会うシーンから物語は始まる。 一度だけ会ったことがある弟の元恋人「小野寺せつな」の印象はよくない。 愛想がなく、空気を読むことをしない彼女には本音と建前はなく、思わず「言い方!」とツッコミたくなる。 もう会うこともない

    • 『きみの友だち』であふれ出す泣きの感情

      やられた……。 思わず泣きそうになる。 出版社が煽るキャッチコピーには、「中高生が選ぶ最泣の一冊」とあった。 大袈裟だと思っていたが、そのとおりだった。 外でこの本を読んでいたわたしは、泣きたいのをこらえるのに必死だった。 小学校に通ったことがある人は、この本を読むと思い出すのではないだろうか。 あの狭い場所がすべてだった頃の世界の話を。 そして、気がつく。 世界はなにも変わっていないことを。 『きみの友だち』(著:重松清)は2005年に新潮社から刊行された10本の短編

      • 『さがしもの』で感じる、本があることの幸せ

        本にまつわる物語はどうしてこうもワクワクするのだろう。 答えは読んでいる本のなかにあった。 『さがしもの』(著:角田光代)は本にまつわる9つの物語で構成されている短編小説だ。 このなかの「ミツザワ書店」に登場する、お店のおばあさんの言葉がスーッと心に入ってきた。 確かにそのとおりだ。 子どもの頃、あかね色のビロードの表紙の本に心を持っていかれたことがある。 百科事典のような分厚いその本は、まだ行ったことのない外国を感じさせ、当時小学生だったわたしを冒険の世界へと連れてい

        • 『夜が明ける』は大切な友を思い出す

          「お前はアキ・マケライネンだよ!」 人に影響を与えるような、人生を変えるフックになるような言葉はたいてい言ったほうは覚えていないものだ。 191センチで吃音があり、クラスメイトの誰もが遠巻きで見ていたアキに対して、びびってないぜ感を出すために主人公が言ったその言葉は、アキの人生を変えた。 2022年に本屋大賞にノミネートされた『夜が明ける』(著:西加奈子)は、主人公が語るアキの容貌の描写に、冒頭から引きこまれた。 映画好きにはたまらない比喩だ。 これだけ濃い俳優を集める

        『カフネ』で知る、あたたかい食事の本当の意味

          『あなたの燃える左手で』に隠れた自我がざわめき立つ

          作家の皆川博子さんが書かれているこの帯につきる。 第51回泉鏡花文学賞、第45回野間文芸新人賞をダブル受賞した『あなたの燃える左手で』(著:朝比奈秋)は本当に凄かった。 これは現実なのだろうか。 それとも自分の記憶が違っているのだろうか。 読んでいる途中で、自分の記憶を確かめずにはいられない。 クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』や『メメント』を観たときと似たような感覚に陥る。 読み終わるとすぐに本を読み返したくなる。 すると、まったく異なるストーリーが浮か

          『あなたの燃える左手で』に隠れた自我がざわめき立つ

          『月の立つ林で』はやさしさが心に染み入る

          2023年に本屋大賞5位に選ばれた『月の立つ林で』(著:青山美智子)は、5章で構成される連作短編集だ。 どこの章から読んでも読み切りのように独立して読めるので、オムニバス形式に思えるが、それぞれの章に連続性があるため連作短編集という。 はて? 連作短編とは? 本の情報サイトの『好書好日』に掲載されている、作者の青山美智子さんのインタビュー記事がわかりやすい。 わかる! 映画やドラマで戦国時代の戦いのシーンがあると、米粒ぐらいにしか映らない、名もなき足軽たちの人生を想像

          『月の立つ林で』はやさしさが心に染み入る

          『八月の御所グラウンド』は爽やかに妖しく心をカケル

          第170回直木賞を受賞した『八月の御所グラウンド』(著:万城目学)は、表題作と「十二月の都大路上下ル」の2篇からなる。 わたしは、本書の最初に収録されている「十二月の都大路上下ル」が好きだ。 新京極、寺町……京都へ行ったことがある人であれば、この響きだけで、観光客でにぎやかなアーケードのある商店街が思い浮かぶのではないだろうか。 行ったことがある地名を本のなかに見つけると、本との距離がグッと近づいた感じがして嬉しくなってしまう。 そして、旅館の「山茶花」という部屋の名前。

          『八月の御所グラウンド』は爽やかに妖しく心をカケル