『さがしもの』で感じる、本があることの幸せ
本にまつわる物語はどうしてこうもワクワクするのだろう。
答えは読んでいる本のなかにあった。
『さがしもの』(著:角田光代)は本にまつわる9つの物語で構成されている短編小説だ。
このなかの「ミツザワ書店」に登場する、お店のおばあさんの言葉がスーッと心に入ってきた。
確かにそのとおりだ。
子どもの頃、あかね色のビロードの表紙の本に心を持っていかれたことがある。
百科事典のような分厚いその本は、まだ行ったことのない外国を感じさせ、当時小学生だったわたしを冒険の世界へと連れていってくれた。
(ミヒャエル・エンデ(著)の『はてしない物語』はハードカバーがおすすめ)
そう、本があれば、書き手による人物や情景の描写と、読み手の想像力とが混じり合い、行ったことのない外国や異世界へだって意識を飛ばすことができてしまう。
「人生を変える本」なんてそうそうお目にかかれないと思っているが、この本を読むと、意外と人生を変えるきっかけとなる本に、もう出合っているのではないか……なんて思ったりもする。
その本は、東京で売ってカトマンズで見つけた本かもしれない(1話目:旅する本)
もしかしたら恋人と訪れたタイの海沿いのバンガローで読み継がれている本なのかもしれない。(2話目:だれか)
伊豆の旅館に忘れられたリチャード・ブローディガンの詩集かもしれない(3話目:手紙)
別れた彼が部屋に置いていった、処理に困る厄介な本かもしれない。(4話目:彼と私の本棚)
19歳の頃は気がついたら同じ行を何度も読んでたりした難解な本だったのに、25歳で読み返すと泣けちゃう本かもしれない。(5話目:不幸の種)
それは、裏表紙にびっしりと書き込みがしてある伝説の本かもしれない。(6話目:引き出しの奥)
16歳の頃に万引きした本かもしれない。(7話目:ミツザワ書店)
おばあちゃんにひとりでさがすように言われた本かもしれない。(8話目:さがしもの)
ラブホテルでバレンタインのプレゼントに渡した本かもしれない。(9話目:初バレンタイン)
どの話に共感するだろうか。
そして、どの話で自分と本のエピソードを思い出すだろうか。
わたしはというと、1話目の「旅する本」の
・本を買う
・本を売る
・古本屋
の3つがキーとなり、小学生の頃の本との記憶が蘇った。
小学生が1人で行くには勇気がいる古書店街で、そのなかでなるべく安めで雰囲気のある本を1冊選び、
「大人になったら価値があがるはず!」
と信じて、ドキドキしながらお小遣いを1冊につぎ込んだ、可愛い小学生時代を……。
(大穴を狙って賭けているようにみえるが……いやいや、古代のロマンを追い求める映画に感化されただけなのです)
そうそう、表題作の「さがしもの」という、もうじき病気で逝ってしまうひねくれ者のおばあちゃんが、中学生の孫娘に書名と著者名だけを伝えて、本さがしのミッションを与える話も気に入っている。
まだスマホや、本屋の検索サービスがない時代の話で、本を見つけ出すより先に自分が死んだら化けて出てやるとまでおばあちゃんに言わせた本。
気にならないわけがない。
本のなかで謎は解き明かされるのだが、これがまたいい!
ぜひ、読んでほしい。
まるで目の前にその人物がいるかのように、姿形を想像することができる。
あぁ、本っていいなぁ。
この本を読んでほっこりする自分がいる。
どこか懐かしい9つの物語が、本があることの幸せを感じさせてくれる。
本を手にとり、いざ、本のなかの冒険の世界へ!
なんて、勇ましい本ではないが、静かにノスタルジーにひたらせてくれる、やさしい1冊だ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?