セルフ校正のポイント――(1) プロセスを3つに分ける
校正・校閲とは、原稿の誤りを見つける作業である。わたしは職業としてやっているが、最近は、自分の書いた原稿や翻訳文をセルフ校正したい、セルフ校正の質を上げたいと考える人から、「どうすれば(自分の)校正でもっとミスを減らせますか?」と聞かれることが多い。
そこで、自分や(たぶん)他の校正者たちがどうやって作業しているのか整理してみた。同じようにやれば、セルフ校正の質はだいぶ上がるはずである。
まず、プロセスを分ける。校正・校閲では、大きく分けて文字そのものが適切か、ファクトが正しいか(正しい事実や適切な出典に基づいているか)、内容に矛盾がないか。この3要素をチェックする。
ところが人間の脳はマルチタスクができないため、同時に複数の作業を並行するとミスが出る。したがって、それぞれを別のプロセスで行う必要がある。
具体的には、文字を「見る」、「調べる」、「読む」プロセスを分ける。すなわち、「文字だけを追って見る」のと、「調べものをする」のと、「筋を追って内容を読む」作業の3つを別々に行う。
第1のプロセスは、文字を「見る」。ふつうの読書と同じく内容を把握しようと「読」んでいると、どうしても文字のミスを見落としてしまう。原稿を読むのではなく、文字だけを「見」ていく必要がある。これはどんな原稿や文章、書籍であってもWordファイルあっても同様だ。
次は第2のプロセス「調べる」である。文章を読みながら並行してファクトチェックをやっていては、事実確認が必要なすべての箇所に目を向けるのは難しい。やはり、ファクトチェックは独立したひとつの工程として作業しないといけない。
書籍の場合、ファクトチェックでとくにミスが出やすいのは訳注や脚注だ。これらについてもひとつひとつ確かめていく。注記の分量が多いのは人文書や実用書だろう。
最後に、第3のプロセス「読む」である。いわゆる「素読み」だが、このときは「文章のロジック」を追って読んでいくのが重要である。
このプロセスがとくに重要になり、かつ負荷が高いのは、小説(フィクション)である。登場人物の性格、行動した時間、そのときの場所(空間)などについて、メモを取りながら読んでいく。
細かく整合性を追いかけていくと、翻訳書では「原著(原文)がまちがってるんじゃないの?」と思うことも多い。こんなとき、わたしたち校閲者はどうするかというと、やっぱり指摘を入れておく。その結果、翻訳者や編集者の判断で原文とは違うけれど整合のとれた訳にすることもあるし、原文ママに訳すこともあるようだ。まぁここは、翻訳者ならば自己判断か編集者と相談すればよいと思う。
このように「3つのプロセス」、つまり「見方、読み方を変えて3回校正」するのを守るだけで、校正者でなくとも、ある程度の品質の校正ができるはずである。
職業校正者であれば、時間(締め切り)の都合上、この3工程を1回か2回の工程でやるときもある。ただし調子の悪いときや、新ジャンルの本である場合には、自分の場合、やはり3工程に分けて行っている。
この続きはまた順次書いていく。
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