本は誰がつくるのか?~安藤祐介『本のエンドロール』レビュー
自分の本が生まれ出る瞬間に立ち会うため、人気作家が製本所に見学にくる。次々と産声を上げる本たちを前にして、印刷会社の担当者は図らずも「私たちが造りました……」と口にする。それを聞いた作家は「本を作っているのはあなた方ではなく私です」と昂然と言い放つ。
本を「作る」、つまり生み出すのはもちろん作家である。だが本を形にする、つまり「造る」ためには、そのほか何十人のコミットが必要だ。
本のエンドロールである奥付には、著者と発行所のほか、その本に携わった人の名前が刻まれている。装幀、本文デザイン、イラスト、編集協力、校正(校閲)などはクレジットタイトルとしてお馴染みだ。
だが印刷会社はどうだろう。社名はあっても担当者ひとりひとりの名前までは載っていない。とくに、製版の直前工程までを担当するDTPという業務は、本造りのなかでも目立たず、あまり知られていない。
「物語は本という身体を得て世に生まれてきます。生まれてくる時のお手伝いをする私たちは、本の助産師じゃないかと」本書において、この仕事が天職と言い切るDTPオペレーターの言だ。出産(本の完成)までの進行とプロセスにおいて、本の助産師は何をしているのか。それを知れば、本の扱い方も変わってくるはずだ。
さらに、DTPだけではない。名前の載らない「本造り」の裏方たちはほかにも多数存在する。営業担当や進行管理と呼ばれる人たちの仕事とは何なのか。なぜこの仕事を選んだか。自身の仕事をどのように考え、日々向き合っているのか。
すっかりストーリーに入り込み、「本が好きでよかった」と幸せな気持ちで本を閉じようとすると、最後の最後に、題名に隠された本当の意味が静かな迫力をもって佇んでいる。著作物としての「本」を書いた人には、ぜひ読んでほしい。