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 昨日の続きで、今日は翻訳校閲プロセスの後半を述べる。

7. プリントして素読み

 画面でテキストを読んでいると、視野も狭くなり解像度も低い(紙より劣る)ため、ミスの見落としは避けられない。「紙」にプリントするというのは、校正者やチェッカーだけでなく、翻訳者にも必ず入れてほしいプロセスだ。
誰でもできるミス発見法(納品時のミス予防法)だが、プリンタを持っていない等の理由でやっていない人は多い。わたしは職業柄A3プリンタが必要でとても重宝しているが、校閲者でなければA4プリンタで充分だろう。場所もコストもさほど費やさないはずなので購入を勧めたい。
 さらに、Wordで長い文書の場合には、わたしはもう一度印刷している。フォントを変えて、横書きは縦書きにしてプリントする。そうやって文字を見ると、「見た目」が変わるので、ミスを発見しやすい。

8. 音声読み上げ

 わたしは出版のときには(1冊分は長すぎて、かえって注意力が削がれるため)音声読み上げは使わない。
 だが、産業のときには時々この手を用いる。WordやPDFの音読機能にするときもあるし、音読さん https://ondoku3.com/ja/ の場合もある。無料ツールはAI音声だが、それでも「ないよりはだいぶまし」だと思う。

9. 文字以外の要素をチェック

ビジュアル要素の見落としは致命傷になることが多い。翻訳会社にいたときに、一度だけ「刷り直し」があった。「ロゴ」が違っていたのだ。
指摘したのはクライアントで、本が出来上がってからだった。ロゴは初校から違ったものが入っていて、それに(クライアント含み)誰も気づかなかったのである。
 社内で責任問題となり、取締役が怒りまくったあげくに担当者を解雇した。そこまでの大トラブルに発展した1件だった。
 じつは編プロ時代にも刷り直しがあった。借りた写真のクレジット(この団体から写真を借りたという表示)を入れていなかったのだ。編集担当は自分である。当時はまだまだビジュアルの大切さをわかっていなかった。テキストさえ万全にすればよい、となんとなく思い込んでいたのだ。校正者を入れる余裕はないと思っていたが、その考えがそもそも間違いだった。
 マークやロゴ、クレジットの間違いは謝罪では済まない。それがわかったのがこのときだった。その後わたしは編集ではなく校閲で生計を立てることになった。このときの経験を決して忘れないことが、奢りを防ぐと思っている。
 そのほか教材にとくに多いのが「文字飾り」ミスの見逃しである。文字色や下線、イタリック、ボールドなどがきちんと入れられていないまま印刷されてしまうことはとても多い(市販の本にもしょっちゅう見受けられる)。

10. キャプションチェック

キャプションとは、図表や写真の説明文だ。実用書で多用される。制作の最後に入ることも多ので、校正者が見ていないというケースも多い。もちろん編集者などが複数チェックはするが、ミスがそのまま印刷されてしまうことも残念ながら時々ある。

11. 目次と本文照合  12. 索引と本文照合

 目次では、ページ番号や見出しが本文と違っているというミスは起こりやすい。これを避けるために、目次を最後に作る編集者が多い。だが目次を作った後にまた本文を変更することが多いので、どうしてもミスが出やすくなってしまう。
 索引には、さらにミスする要素が多い。
 最近、ある教科書の資料集索引にミスが多発していたことが話題になった。
 おそらくは編プロが制作したのだろうが、一般に編プロは「索引」にとても気合を入れる。項目もページ番号も、校正者を入れて何度もチェックを繰り返すはずだ。それなのに多数のミスが残っていた。
 原因のひとつに、コロナ禍でリモートワークになったのが挙げられていたが、ふだん会社に出勤して働いている人は自宅にプリンタがなく、紙でチェックした人が少なかったのではないかと邪推する。
 確かなのは、索引は1冊の書籍をつくる上で最もミスが出やすい箇所であり、多数のミスが出やすいということ。市販の本でも、本文には間違いはなくても索引にミスが散見されることはとても多い。

13. その他の要素チェック

 「その他の要素」のうちミスが多いのは、脚注等の注記事項である。これもミスが出やすいところ。
 理由は簡単で、「本文がほぼ確定してから、時間のない中で著者以外が書く」ため。編集者やライターが書くことが多いが、「本文が確定」するのが遅くなれば、とうぜん注記にかけられる時間はどんどん少なくなる。時間がなくなればチェックも充分にはできず、ミスも多発しがちである。
 「ミスは本文以外がおそろしい」ことは、校正者や編集者なら誰でも知っている。だが、それでも起こるのが 9 から挙げてきたミスである。
 最後に、表紙に巻かれる「帯」。これまたミスが多い。6年前、あるタレントが絵本を出したときに間違っていたと話題になった。文字も大きく目立つ箇所になぜミスが起こるか。これも理由は同じ。帯は表紙が決定した後、最後の最後につくる。よって校正者が見ていないことが多いためである。
 校正・校閲者としては、ともかく「なるべく早い段階ですべての要素を決定し、最後の工程に校正者を入れてほしい」と言うしかないが、実際にはなかなか難しいのである。

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