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#読書感想文

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文芸書から自己啓発書まで、読書感想文として書き留めています。ご参考になれば幸いです。
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#村上春樹

#読書感想文 村上春樹(2020)『猫を棄てる 父親について語るとき』

#読書感想文 村上春樹(2020)『猫を棄てる 父親について語るとき』

村上春樹の『猫を棄てる 父親について語るとき』を読んだ。2020年4月に文藝春秋より出版された本である。

妊娠した雌猫を棄てるため、父子で自転車に乗り、海辺に行く。二人が帰宅すると、棄ててきたはずの猫が自分たちより先に家に戻っていた、というどこか不思議でユーモラスな出来事から、本書は始まる。随筆とも自伝とも違う塩梅の、短い読み物だった。

子ども時代に感じていたことと現在が交錯しながら、父親の人

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村上春樹(1982)『風の歌を聴け』の読書感想文

村上春樹(1982)『風の歌を聴け』の読書感想文

村上春樹の『風の歌を聴け』(1982年に講談社文庫から出されたもの)を再読した。言わずと知れた村上春樹のデビュー作でもある。

何度か読んだことがあるはずなのだが、内容はあまり覚えていなかった。ただ、村上春樹がデビュー作で自分の文体を確立させていたことに驚く。これはすごいことだ。凡百の作家たちは、独自の文体を持たぬまま、書き続けることになる。読めば、村上春樹だとすぐにわかるし、この文体の模倣犯が、

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村上春樹(1988)『回転木馬のデッド・ヒート 』講談社文庫の読書感想文

村上春樹(1988)『回転木馬のデッド・ヒート 』講談社文庫の読書感想文

村上春樹の『回転木馬のデッド・ヒート 』を再読した。再読のはずなのだが、ほとんど何も覚えていなかった。

講談社文庫では1988年、単行本は1985年に出された本である。

わたしの手元にある文庫本は2001年の33刷りで、定価は381円(税別)であった。Amazonによれば、今の定価は638円。倍ではないにせよ、やはり高くなっているのだなあ、と思う。

さて、まずタイトルのすごさにわたしは気が付

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庄司薫(2000)『バクの飼主をめざして』中公文庫の読書感想文

庄司薫(2000)『バクの飼主をめざして』中公文庫の読書感想文

庄司薫のエッセイ集『バクの飼主をめざして』を再読した。1973年6月に講談社より出版された本で、わたしの手元にあるのは2000年の中公文庫版であった。ちなみに表紙のイラストは、奥様の中村紘子さんによって描かれたものだ。

庄司薫は1937年生まれで、1958年の21歳のとき、『喪失』で第三回中央公論新人賞を取って、1969年32歳のとき『赤頭巾ちゃん気をつけて』で芥川賞を受賞している。赤頭巾ちゃん

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#読書感想文 マイケル・ギルモア(1996)『心臓を貫かれて』

#読書感想文 マイケル・ギルモア(1996)『心臓を貫かれて』

マイケル・ギルモア、村上春樹訳の『心臓を貫かれて』を読んだ。1996年10月に文藝春秋より出版された単行本である。

父親による暴力に苦しんだ家族の物語である。被虐待児であるゲイリー・ギルモアは数々の犯罪を犯し、死刑を言い渡される。死刑制度を復活させたユタ州で、ゲイリーは上告せず、死刑執行してほしい、と州に対して主張した。そのことで、一躍時の人となった。

暴力は連鎖し、トラウマは遺伝する、という

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『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』の読書感想文

『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』の読書感想文

1998年に新潮文庫から出版された『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』を読んだ。単行本は1996年に岩波書店から出されている。

わたしはフロイトやユングといった精神分析医をオカルトめいた自説を唱えている人たちだと敬遠していた。理由は二つある。フロイトのエディプス・コンプレックスやリビドーの考え方に対して、まったく納得できなかった。おじさんの男根主義にはうんざりしていた。もう一つは、わたしの物心つい

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