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つい、してしまうことって何ですか? ----------------------------------------------------- わたしのそれは、ふと思い出した昔の…
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2021年2月の記事一覧

長女の乳歯の行方

長女の乳歯の行方

「神様に会ったことってある?」と、長女に聞かれた。日曜日の夕食の最中。先に夫が「ないなぁ」と答える。「じゃあサンタさんは?」と続くその無邪気に敬意を表して、返事をする前に、まじめに記憶をさらう。

神様に会ったことはないが、神様っているのかも、と、感じることは、長く生きていると何度かあるんじゃないか、と、思っている。

記憶から掬い上げたのは、祖母との間に起きたことだ。



父方の祖母は、よく

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メロウな夜と白昼のニゲラ

メロウな夜と白昼のニゲラ

夫のライブを観に行った。まだ、結婚する前のことだったと思う。そこは、中央線の人気ある駅のうちのひとつを降りて、少し歩くと行き着く、小さなバーのような、隠れ家的スポット。にして、毎夜ジャズの生演奏がブッキングされている、という、ちょっと熱いお店だ。

その夜わたしは、たまに演奏させてもらうこともあった馴染みのそのお店で、一人カウンターにて、夫(当時はまだ彼氏)の演奏を聴いていた。ジャズ(の中でも古い

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梅の頃、包み紙の匂いを思う

梅の頃、包み紙の匂いを思う

母方の祖母は、ウメという名前だった。梅の季節に生まれたから、という話だったけれど、そういえば、わたしは誕生日を知らない。毎年、梅の頃になると、今時分なのかなぁと顔が浮かぶ。祖母の季節。

祖母は同じ市内に住んでいて、よくバスに乗って泊まりに来てくれた。
手土産は決まって、おだんごと豆大福。町の中心部にある神社の、向かいの和菓子屋さんのもので、バスを乗り継ぐ時に買うのだと教えてくれた。だんごは、餡子

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もうこれ以上は

もうこれ以上は

「もうこれ以上は頑張れない、という一線は、頑張っているその人にしか、決められないからね」

それに続いたのは、「だから自信を持っていいんだよ」だったか、「だから自分で決めていいんだよ」だったか。涙が溢れ出るのをこらえるので精いっぱいで、よく覚えていない。

当時、大学四年生のわたしは、惑っていた。就活もそろそろ終わりか、という初夏。内定が出たのは、第一希望の出版業界でなはく、第二希望の医療業界だっ

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