パータ・ケックって、なんだ?[生地編vol.3]
思わず、視界が潤む。
何年か振りの、パウンドケーキのせい。
心象、幼少、昼下がり、母、愉快な鼻歌、鼻を香りがくすぐった。
口に含めば、しっとり、綻んでいく。
現実、焦燥、行き止まり、また、悔しさ嵩んだ、夜半を煙草が燻った。
今だけ全て忘れさせて。
温い思い出に浸らせて。
パウンドケーキを、食べてる間だけ。
おはようございます!
見習いパティシエ、真白けいです!
今よりもっとお菓子屋さんへ行くのが楽しくなる!そんな知識をあなたと一緒に学んでいきます!
読んでくださった方は、ボクのやる気スイッチ、スキを押していただけるととっっても嬉しいです!遠慮なくお願いします!
今回のテーマは、パータ・ケック です!
聞いたこと、あるよって方も、全くないぞって方も、絶対食べたことあるやつ!
知らんけど、日本人は全員食べたことあるのでありますって、総理が言ってたっ!あと、あと…えっと、いっぱいエラいひとたちも言ってたっ!授業で習ったもん!!
…嘘ですっ!!
でも本当に馴染み深いお菓子に使われる生地なので知っておいて損はない!
ということで、れっつ、いくぞっ!
Pâte à cakeって、なんだ?
さあ!では焦らさずに結論から言います!じゃん!
Pâte à cake
(パータ・ケック)
||
バターに空気を含ませ、
砂糖、卵、小麦粉を混ぜて焼く生地
つまり!どういうことか。
それは、バターが主役!ってこと!
パティシエはこれをバター生地と呼んだりもするみたい。
ほら、こないだパータ・ジェノワーズとかパータ・ビスキュイの時にスポンジ生地って言ってたみたいにさ、
今回はバター生地って分類なのよ。分類しちゃえばわかりやすいでしょ!
それで、スポンジ生地たちはどっちも卵に空気を含ませてました。それで軽くしていました。
でも、パータ・ケックは一味違います。
バターを泡立て器でめっちゃぐわーーってうりゃーーって混ぜて空気を含ませます。
ここでなんとなく想像して欲しいんですが、卵を使った時ほどはボリューミーになりません。
それで、しっとりした出来上がりになります。
…もう、言っちゃいますね。
これは、パウンドケーキの生地の話です。しっとりしてるでしょ?!そしてある程度空気含んでるでしょ?!
そうなんですよね〜。バターたっぷりでさ、おいしいよね!
じゃあ、なんでスポンジ生地と違って卵を泡立てるやり方をしないの?
って、聡明なあなたは思ったはず。
…大丈夫、思ってなくても大丈夫です。
世の中に疑問を持って一緒に生きていきましょ。
はい、質問にお答えしましょう。
簡潔に言えば、バターの割合が多い生地だからです。
スポンジ生地の共立て法と別立て法のとこでチョコっと言いました。脂肪分は泡を消すんだぞって。
だからせっかく泡立った卵のとこにバターをぶっ込めばじゅわーってたちまち消えていきます。
そこで!バターに空気を含ませるやり方に行き着いたわけです。
ただし、スポンジ生地でも製法が2通りあったように、バター生地もやはり一辺倒ではありません。
時代を経てきていますから。
パータ・ケック、その3つの製法
3つ、作り方があります。
①シュガーバッター法
シュガーバッター法
||
空気を含ませたバターに
砂糖、卵、小麦粉の順に加えていく製法
シュガーを最初に加えるのでシュガーバッター法。
バッターは「バター」からという話と、英語の動詞「batter」からという話を聞いたことがありますが真相は知りません…。
3つの中で一番一般的な作り方です。
小麦粉が入るのが後の方なので、柔らかく、きめの粗い気泡を含んだ生地になります。
でも、卵を加えるときに分離しやすいんです…。すごく大雑把に言ったら、油の中に水を入れていくようなものなんです。
つまり、うまくいけば柔らかく重すぎない出来だけど、失敗すればもろもろになります。
温度管理と混ぜ方、つまり💪が大事!
それよりも作りやすいのは次の作り方。
②フラワーバッター法
フラワーバッター法
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空気を含ませたバターに小麦粉を加え、
卵と砂糖を加える製法
フラワーを先に混ぜるのでフラワーバッター法。
小麦粉を先に混ぜちゃいます。
そうすると、卵を入れた時に小麦粉が水分を吸ってくれるので分離しにくくなるっていう寸法です。あたまいい。
ただその分空気は含みづらいのでしっとりしてきめの細かい、しっかりした出来になります。
③オールインワン法(ジェノワーズ法)
オールインワン法
||
卵に砂糖を混ぜて泡立て、小麦粉を加え、
最後に溶かしバターを加える製法
(膨張剤を加える場合が多い)
…ついさっきパータ・ケックは卵を泡立てないと言っておきながら、思いっきり泡立てていて申し訳がありません。
何事にも例外はある!ってことで許してください。
ただやっぱりバターは泡を消します。なんせ溶かして混ざりやすくしてるとは言え大量のバターが投下されますから。
そのため、きめがすっごく細かく膨らみも少なく、しっっっとりします。
膨らみを補うためにベーキングパウダーを入れることもあります。
実はマドレーヌなんかはこの方法で作ることが多いです。
とまあ、大きく3種類ご紹介して参りましたが、実は4種類目もあります。
ややこしくなるので一旦スルーしましたが、①シュガーバッター法の派生です。
シュガーバッター別立て法
||
空気を含ませたバターに
砂糖の一部、卵黄を順に加え、
残りの砂糖と卵白を泡立てて作ったメレンゲと小麦粉を交互に加える製法
さあ〜、難しいですね。応用編です。
パータ・ビスキュイの記事で別立て法はご紹介しました。さっきシュガーバッター法もご紹介しました。
ならばそれらを掛け合わせたらどうなる?!って作り方です。
メレンゲにするのでふわっと膨らむ生地になります。しかしメレンゲは状態が大きくさまざま変わりやすいので、この生地の状態もやはりさまざま変わりやすい。しかもいろいろ手順多くてめんどくさい。
上級者、プロ向けです。
こんなんも、一応あります。ってお話でした!
パウンドケーキひとつとってもこんな色々作り方があったなんて!感動です。
考えた人もすごい。駆使する人もすごい。
奥が深くて可能性に満ちた世界です…!
パータ・ケックの由来
さあ、お待ちかね!由来のお時間です。
まずは名前から紐解いていきましょう。
pâte=生地
であるということは、もう生地編第3弾ですからボクもさすがにわかってきました…!
さて、問題は「cake」の方です。
これは実は、元々イギリスからフランスへ入った言葉を、そのまま使っています。
でもややこしいのが、英語の「cake」とフランス語の「cake」では意味が異なっているってことです…。
まず、英語の「cake(ケーク)」。
これは、みんな大好きケーキって意味です。
チーズケーキ、スポンジケーキ、ウェディングケーキ、パウンドケーキe.t.c.…のケーキです!
いわゆるクリームを使うケーキも、焼き菓子のようなものもケーキと呼んだりしていて、お菓子において幅広い意味を持つようです。
そして、フランス語の「cake(ケック)」はというと、
意味が限定されてパウンドケーキ、さらに言えばドライフルーツや果物の砂糖漬けを入れたフルーツパウンドケーキのことを指すみたい。
つまり…!!
pâte á cake
||
(フルーツ)パウンドケーキの(ための)生地
ってこった!
ちなみに、じゃあフルーツとか入ってないシンプルなやつはなんなの?ってことですが、それは…
…後にとっておきます!
少しの間気になっておいてください…!
では名前がわかったところでこの子のバックグラウンドを探っていきましょう。
(ⅰ)13世紀、イギリスでケーキと呼ばれるものが生まれる。
当時のケーキはイーストを使って膨らませたものだった。
早速ケーキの爆誕です!!
イーストっていうのは、現在でもパンを膨らませるのに使われる菌なんだって!
だから、この頃の「ケーキ」はあくまで砂糖を使ったパンのような感じ。甘いパン。菓子パン。
この区別が少しずつ生まれてくる感じが、ザ・黎明期って感じですね…!!
(ⅱ)14〜16世紀、卵白を泡立てて膨らませる方法が伝わって主流になる。
出ました!卵白泡立てパターンね!
さっきもどこかで出会いましたよね!
この状態ではまだスポンジケーキですから、ここからに注目です。
(ⅲ)18世紀初頭、パウンドケーキが誕生し、主にウェディングケーキに使われる。
な、なんと…!!
今でこそスポンジケーキがよく使われますが、当時はパウンドケーキを結婚式用に焼いていたんですね。
パウンドさん!あなたそんな経歴をお持ちで!
いやはや、しかし、ここで「パウンドケーキ」という名前の由来をご紹介すると、4つの材料(バター、砂糖、卵、小麦粉)を1ポンドずつ使うからパウンドケーキというらしいのですが、
1ポンドって何gかあなたはご存知ですか?
正解は、1ポンド=約454g。
それが4種類なので、454gを4倍したのが生地の総量です。
つまり!!
…めちゃくちゃ多いねっ!!多いんですよ!
それは3段重ねのウェディングケーキを作るためだっんだって。
大きい土台が必要だよね!ってことで1ポンド×4もある生地を仕込んだってことです。
名前の由来、すっごい納得じゃない?!ボクはめちゃくちゃへーへーへーってなりました。
ちなみに、この3段にも意味があって、1段目は式の列席者に、2段目は当日参加できなかった友人知人に、3段目はこれから生まれてくる子ども(または1年目の結婚記念日)に贈るそうです。
当日参加できなかった人にも持っていけるのは日持ちする焼き菓子だからこそですね!
しかもドライフルーツ入れたりするので、切っても断面までいろとりどりでキレイ!
そう言われれば華やかで結婚式にうってつけでしょ?!
そうだ、ここでさっき置いといた話をします。
思い出してね!
フランスでシンプルなパウンドケーキはなんて呼ばれてるの?っておはなし!
名前から言うと、カトルカールっていいます。
いや、なんやねんそれ!聞いたことあらへんわ!
ってお気持ちもお察ししますが、どうか聞いてください。
これ、
quatre(カトル)= 1/4(4分の1)
quarts(カール)= 4つ
ってことで、「1/4が4つ」って意味です。
…はにゃ? 1/4×4?
つまり1やん!って話じゃなくて、おんなじ量ずつ4つの材料使ってるよってことが言いたいのっ!
だから「パウンドケーキ」と同じ意味のことだけどお国によって表現が違うのっ!ってこと!
もう、せっかく面白いと思ってとっておいたのに、つまんないとか言わないのっ!
次行きますっ!!
(ⅳ)20世紀、店頭にフルーツケーキが並ぶようになる。
念のため断っておきますが、ここでのフルーツケーキって、フレッシュフルーツ盛りの生クリームスポンジケーキのことじゃありません。
もちろんパウンドケーキの話です。ドライフルーツとか、フルーツの砂糖漬け、これをコンフィと言ったりしますが、こういったものをふんだんに入れ込んだパウンドケーキです。
そして!最初に名前の由来を学びました。
このフルーツケーキがフランスに伝わり、ケックと呼ばれるに至ったわけです。
なのでフルーツケーキのことをフランスでは、
cake anglais
(ケーク・アングレ)
||
イギリスのケーキ
と呼んだりもするそうです。
さて!ここまでをまとめますと
[事実]13世紀、イギリスでイーストを使って膨らませた甘いパンがケーキと呼ばれる
↓
[事実]14〜16世紀、卵白を泡立てる方法で作られるようになる
↓
[妄想]ゲストにより高級なお菓子を振る舞うためバターをたっぷり使った生地を作り始める
↓
[事実]18世紀初頭、ウェディングケーキにバター生地が使われる
↓
[妄想]保存性がよく参列しなかった人にも配られたため広まりやすく人気が出た
↓
[事実]20世紀、製菓店の店頭に並ぶようになる
↓
[妄想]一方フランスでもカトルカールというお菓子が生まれる
↓
[妄想]持ち運びの良さから、いつしかフルーツケーキがイギリスからフランスに伝わり、その生地はパータ・ケックと呼ばれるようになる
ってことかな。
バターがリッチで美味しい、持ち運びできる、フルーツも入れちゃう
って、こりゃ人気が出るのも広まるのも自然なことですやん!
そして、なかなかどうしてスポンジ生地とも似たような人生を送ってフランスへ行き着いたみたい。
はっ!もしや全ての洋菓子の終着点はフランスなのか……?
というところで今回も由来はおしまい!
結局、パータ・ケックって、
もともとはウェディングケーキに使われた少し贅沢で煌びやかな生地。
でもそのポテンシャルの高いこと高いこと。
人々に親しまれて、広まるのも自然なことだったのでしょう。
今や極東の国でも焼き菓子の定番中の定番。
ギフトの箱に大御所として鎮座するまでの人生を追ってみました。
あなたも、心に安らぎが欲しければ、パウンドさんの大きな懐に身を任せてみては?
ということで今回は以上です!
この記事でお菓子に少し興味が湧いたよーという方はぜひスキお願いします!
今回に関連する「イースト」「卵」「小麦粉」「バター」に関しても学んでいきたいと思うので、興味のある方はフォローしていただくと、すぐにお届けできます!
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フォロワーが全然いなくて怪しいアカウントみたいになってるので、何卒お願いします!!
次回の大テーマは…
「パート・シュクレ」です!
ついに大人気、タルト先輩が出てきちゃうかもよ…!お楽しみに!
あと今回更新が遅くなって大変お待たせしました!なかなかね、大変ですよ、この職業。
でもその世界のことを知って欲しいから、細々とでも続けていきます。
いつも読んでくれてありがとう。
参考文献
猫井登、お菓子の由来物語、幻冬舎ルネッサンス、2011
パータ・ケック、パティシエwiki、閲覧日2021-6-22、https://www.patissient.com/wiki/パータ・ケック
パウンドケーキの名前の由来は?どこで生まれた?気になるパウンドケーキの歴史、くみぱうんど、閲覧日2021-6-22、https://www.kumipound.com/column/1642/
【パウンドケーキの歴史と由来】ケーキマニア無添加パウンドケーキ専門店、mipoundtokyo、閲覧日2021-6-22、https://mipoundtokyo.com/poundcakeblog/2010/
カトルカール、辻調おいしいネット、閲覧日2021-6-22、https://www.tsuji.ac.jp/oishii/recipe/k025_outlline.html?CID=TJONCS0001&RECIPE_CD=k025
フランスのケーキにみるイギリス、イギリスの食、イギリスの料理&菓子、exciteブログ、閲覧日2021-6-22、https://www.google.co.jp/amp/s/ricorice.exblog.jp/amp/24390658/
ウェディングケーキが3段の理由、雑学ネタ帳、閲覧日2021-6-22、https://zatsuneta.com/archives/004318.html
※この記事は上記の参考文献を元に執筆しました。諸説あるものは一部のみ紹介しています。
また、新たな事実を勉強し次第、追記・編集する場合があります。
いつも応援ありがとうございます!ぜひ、オススメしてください!みんなにお菓子のこと、もっと知って欲しい!!