木幡真人|masato kohata

Runtrip Magazine編集ディレクター(Runtrip, Inc.)/ 文章を書いたり走ったりしてます。本や映画の話、考えごとの話が多めです。

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強さとは、速さとは。小説「風が強く吹いている」を再読して気づかされたこと

週末、小説「風が強く吹いている」を再読した。 この本を初めて読んだのは2011年、中学卒業間際。駅伝という競技に出会った中学3年、好きになった物事には没頭する癖がある僕はあらゆる選手の情報、過去の映像を見入った。2010-2011シーズンは現在マラソン日本記録保持者の大迫傑が早稲田大学へと入学した年であり、早稲田大学が学生三大駅伝で史上3校目の三冠を達成したシーズンだった。 長距離選手たちが魅せる異次元の走りに魅了された僕はすっかり駅伝沼へと浸たり、行き着いた先がこの「風

    • 希望を凌駕するあまりに大きな絶望

      生きていて、想いに共感して応援したいひとはいる。 例えば政治の話。先日、とある地方の市議会議員選挙に立候補して当選した知人がいた。20代という政治家としては非常に若い年代での立候補。直接投票したとか、メッセージを送ったとか、そういうことではないけれど、SNSに流れてくる彼女のアカウントの投稿を見て陰ながら応援していた。 政策に対する公約や彼女が昔から掲げてきた地元への想い、そして行動を知っているからというのはあるけれど、応援したいという想いはその人の人柄ゆえというのは確実

      • 言葉が浮かばない、聴こえなくなるとき

        ときどき言葉がさっぱり浮かばなくなるときがある。 自分が何を考えているのか、何が好きなのか、何を欲しているのか。全然聴こえなくなる。 ただ平和に生きたいだけなのに、気づくと「こうあるべき」という声の濁流に押し流されて窮屈な思いをする。 自分の希望を伝えるのが苦手すぎるのか。日常生活でも、仕事でも、ああまた言えなかったと思って自己嫌悪に陥ることがある。 そうしているうちに、何もできなくて、動けない自分、言葉が出てこない自分を怠惰な人間だと責める。 自分は言葉を神聖化し

        • ままならない問題ばかりが積み重なってゆく

          20代後半にもなれば、もっと人生は安定するのだとばかり幻想を抱いていた。いや、安定せずとも、その荒波の中をもっと勇敢に進んでいけるものだと信じていた。10年前のあの頃は。 いざ自分が29歳になってみるとそんな夢みたいなことは一つもなく、見渡す限り周囲は問題が積み重なっている。 自分の人生だけですら、キャリアはどうするのか、自分がこれからどこに居たいのか……果ては恋愛の行方。今晩のごはんのメニュー、そしてエトセトラエトセトラ。分からないことが頭の中を占めている。学生の頃自分

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          地元への帰省、衆院選、眩しさetc.

          今週、地元の宮城に帰る。金曜日から月曜日までの4日間、仙台で開催されるマラソンに出るついでに友人・知人と会う旅行にする。今年は出張も含めてこれで4回目の仙台だから、これまでより比較的多く帰っている一年だ。 一緒に仕事をしているライターの方が宮城に縁のあるひとで、学生時代女川でインターンをしていたという。いま住んでいるところから宮城に行くのは常磐線を使うのだそう。先日、その方が常磐線の車窓は福島の沿岸部を通ってゆっくりと仙台へ向かうから震災後の景色を眺められると言っていた。

          地元への帰省、衆院選、眩しさetc.

          仙台にまつわる、10年くらい前の記憶

          最近、仙台で過ごした学生時代のことをよく思い出す。 長いもので2014年〜2021年まで7年間大学に在籍したのだけど、とくに思い出すのは2014年〜2016年くらいの3年間。でも、当時参画していたプロジェクトや自分たちで立ち上げた活動のことではない。もっと日常の一瞬を切り取った、瞬間的に現れるシーンを思い出す。ヒトコマの写真のように。 正確にいえば、大学1年〜3年の時期に重なるこの頃は学外での活動に没頭して、よくも悪くも意識が高かったころ。日常の瞬間的なシーンといっても、

          仙台にまつわる、10年くらい前の記憶

          戦友とは"翼"を授けてくれる人たち

          29歳になった。自分が20代最後の1年を迎える、というかあと1年で30歳になることを未だ信じられずにいるけれど、数字だけは順調に積み重なっていく。 誕生日を迎えた今週、2つの朝ドラを見終えた。一つは今期の『虎に翼』。もう一つは3年前に放送された『おかえりモネ』。感想はSNSに洪水を起こすほど流したので割愛するが、どちらの作品も20代最後の1年を迎えた自分にとって今後の羅針盤となり得る物語だった。 人生はドラマではない。劇的な展開があるわけでも、岡田将生も坂口健太郎も目の前

          戦友とは"翼"を授けてくれる人たち

          「まともにならなければ」という呪い

          ずっと何かに追い立てられている。清潔感のある服装をしなければ、年収はこれくらいでなければ、これくらいのものを持たなければ、20代後半ならこう振る舞わなければーー。他者からの要請でそうなっているのか、自分から湧き出る感情で願っているのかだんだんと境界は薄れ、強固な強迫観念へと変わってゆく。 25歳で東北の小さな大学を卒業した。学生時代は震災復興や教育関連の活動に入り込んでいたが、卒業を目前にした年に悩みの土壺にはまり結果的に卒業が3年遅れた。隔絶された長い空白時間を抜け出すと

          「まともにならなければ」という呪い

          旅と内省と世界のこと|広島旅行記

          8月の初旬、一人旅で広島に行った。幼い頃、夏休みになると年一回祖父と旅行に行ける機会があったのだが、いつも行き先は乗りたいのりものから考えていた。 東北新幹線に乗りたいから東京、乗ったことのない700系に乗りたいから名古屋……と旅行に行った。その選び方は20年経った今でも変わらず、新幹線だけでなく飛行機も選択肢に入った。 空港に行くと飛行機が並ぶ光景にいつも胸が躍る。朝早く羽田空港へ向かいぼーっと離陸していく飛行機を見つめる。なぜ好きなのだろう。非日常に行ける期待感なのか

          旅と内省と世界のこと|広島旅行記

          あの言葉たちは仕掛けられた爆弾だったのかも|映画『ラストマイル』を観て

          “時限爆弾”という一種の表現がある。 例えば、10代の頃にとある大人から貰った言葉。そのときは、それがどういう意味なのか深くは分からなくとも自分が大人になる過程で経験を通して、その言葉への解像度を深めていく。そして、あるとき突然腑に落ちたり、はっと何かに気づかせられたりする。 または、ネガティブな方向に受け取れば「呪い」という言葉にも変化する。周囲からかけられた些細な言葉が、大人になっても縛り付けていたり、積もりつもっていつか爆発したりする。 言葉には、その瞬間は何事が

          あの言葉たちは仕掛けられた爆弾だったのかも|映画『ラストマイル』を観て

          "繋がり"の暴力性、そして

          ある人に「明日の夜空いてるか?」と聞かれて、空いてると答える。とある懇親会のようなイベントに誘われた。 久方ぶりにその人から連絡があったので、話したいと思いそのイベントへ出向くことにした。 その日、お店に行ってみるとすでに会は賑やかな様相を呈していた。誘ってくれたその人と目が合い、そこへ行くとすでにそこには入る隙間もないほどテーブルを囲む人たちが座っており、結局早々にその人が僕のことを紹介だけして他のテーブルに行ってしまった。 その人と話せることを期待して来たのに、結局

          "繋がり"の暴力性、そして

          夏の絶不調日記

          舌にできた口内炎がなかなか治ってくれない。正しくは舌炎というらしい。 毎日チョコラBBのドリンクとビタミンを摂るサプリを飲んで、10日になるというのに手強いもので居座り続けている。口内炎というのは、一個は小さいのに口の中で当たるものだからずっと気になってしょうがない。 おかげで、喋るのも一苦労だし食べられるものも刺激が弱いものを選ばざるを得ない。ここ数日食べるものは戻ってきたけれど、ちょっと前は冷たい麺類しか食べられなかった。 時を同じくして夏バテになった。倦怠感と微熱

          “完璧”とは脆いはずなのに|映画「PERFECT DAYS」を観て

          遅ればせながら、というか超絶遅れて、映画「PERFECT DAYS」を観た。少し前に、PERFECT DAYSを観た友人が「まだやってる映画館もあると思うから観てほしい」と言うので、調べたところ確かに上映している映画館があったので土曜日に観てきた。 公開当初、SNSで見かける感想は賛否が真っ二つに割れているように見えた。特にその対象だったのは、主演の役所広司が演じる平山の姿で、その生き方を絶賛している人もいれば、批判的な人もいた。 PERFECT DAYSを観た友人が「自

          “完璧”とは脆いはずなのに|映画「PERFECT DAYS」を観て

          過去に存在する自分の“加害性”との対峙(小説「ブルーマリッジ」を読んで)

          あの人が今の自分の発言や投稿を読んだらどう思うのだろうか。過去の自分の行動は、批判する自分にそのままブーメランとして返ってくるのではないか。 フェミニズムやジェンダーについて学ぶようになって、この社会に存在するマチズモや男性優位主義的な価値観に対して嫌悪感を抱くようになった。その分、明確に受け付けたくない著名人や作品も増えた。せめて、自分はよくありたいと思いジェンダーに関する本を頻繁に読んだ。 しかし、学ぶことによって自分の知識や考え方を改めるほど、過去の自分の行いや見過

          過去に存在する自分の“加害性”との対峙(小説「ブルーマリッジ」を読んで)

          居心地が良い場所と悪い場所がある世界

          関東では梅雨が明け、体が暑さに順応していく間合いを無視するかのように気温が甚だしく上昇していく。外に出れば、都会のビル群という蒸し風呂に閉じ込められたような気分さえ漂う。 この空気をあと2ヶ月も味わう必要があるのかと思うと、夏が苦手な自分を絶望が襲ってくる。12分計があって苦しくなったら出られるサウナのように、一瞬ドアを開けて涼める世界があったらいいのにと思う。冷房が効きすぎた寒暖差のはげしい室内ではなく、爽快な自然を五感で触れられる草原のような場所がいい。 緩やかな妄想

          居心地が良い場所と悪い場所がある世界

          「わたしは怒っている」に思い出した自分が生きてきた過去のこと|ドラマ『虎に翼』を観て

          関東では梅雨入りして、雨がちだった週末。周囲からよいと勧められていたNHKの朝ドラ『虎に翼』を最新回まで観た。 このドラマを観て自分は何を思いだしたのか。何を感じたのだろうか。 “女性の怒り”をポップに消費してしまっていた10代小学生から中学生にかけての時代、怒れる女として叫ぶ姿が休日の昼下がりにテレビで放送されていた田嶋陽子さんのことを友達がモノマネして茶化していた。自分は何も知らず無邪気にそのモノマネを笑っていた。 中学2年のとき。S先生という50代の女性の教師がそ

          「わたしは怒っている」に思い出した自分が生きてきた過去のこと|ドラマ『虎に翼』を観て