あの言葉たちは仕掛けられた爆弾だったのかも|映画『ラストマイル』を観て
“時限爆弾”という一種の表現がある。
例えば、10代の頃にとある大人から貰った言葉。そのときは、それがどういう意味なのか深くは分からなくとも自分が大人になる過程で経験を通して、その言葉への解像度を深めていく。そして、あるとき突然腑に落ちたり、はっと何かに気づかせられたりする。
または、ネガティブな方向に受け取れば「呪い」という言葉にも変化する。周囲からかけられた些細な言葉が、大人になっても縛り付けていたり、積もりつもっていつか爆発したりする。
言葉には、その瞬間は何事が起こらなくても、いつかどこかで爆発する時限爆弾のような性質がある。
週末に観た、映画『ラストマイル』はそんな印象を受けた。ドラマ『アンナチュラル』や『MIU404』の世界線と繋がる本作は、大手ショッピングサイトから届く荷物が次々と爆発を起こす事件を巡るサスペンス。脚本の野木亜紀子さんが描く現実社会への投げかけ、問題提起を含んだストーリーが好きでラストマイルを公開初日に観に行った。
日常からAmazonをはじめショッピングサイトを当たり前のように利用している自分、IT企業で働いている自分にとっては、どれも一見違和感なく入り込んでくる描写がいくつも散りばめられている。
新しいセンター長として配属されたエレナ(満島ひかり)は、爆発の責任が自社にあることを公表されることによる損出や倉庫の稼働が止まることによる影響を緊迫感のある表情で話す。また、“Customer Centric”(すべてはお客様のために)という言葉が一見その通りだと思わせられたりする。
しかし、足元の事情を優先することが、運送会社への莫大な負担につながっていたり、ユーザーファースト的発想が実は自分たちの事情とすり替わっていないかと種明かし的にひっくり返されていくストーリーなのだ。
満島ひかりさんの随所に入るコミカルな表現とセリフはドラマ『カルテット』を思い出させるかわいらしさがあるのだが、その中に血気迫る緊迫感が漂う。
だから、自分の中に浮かんだ違和感は、その表情と絵によってかき消されていく。非常時の中でもあらゆる方法を探って倉庫の稼働を止めないように動いていく姿にほっと胸を撫で下ろす瞬間すらある。
しかし、後から冷静になると、それら言葉・行動に違和感を持たずにスルーしそうになることこそが現代社会で自分がある意味生きられてしまっていることの証明なんだと振り返っていた。
やはり、この映画を観ている自分も現代に適応してしまっているのだ。
“What do you want?”
この言葉が、映画に出てくるサイトのキャッチコピーとして随所に出てくる。
止められなくなってしまった流れの中で、その問いかけへの答えはどれだけ自発的に出てきたものなのか。欲しいものも、働くことを通じて得たいものも。もはやそれは自発なのか社会に喚起されているのか見分けがつかない。
ストーリー以上に、現代の違和感を持たずにいたことをそうではないのだと露わにしてくる言葉が何個も入ってることが、それこそいつか爆発する“爆弾”のように仕掛けられているのではないか。