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#5 ビジネスゲームによる正統的周辺参加の可能性
ビジネスゲームには、リアルな経営シミュレーションを通した学びを提供するものが多くあります。
では、こうした経営シミュレーションの有効性とは何なのでしょうか?
本記事では、経営シミュレーションでの学びと現場での学びを比較しながら、その導入メリットを探っていきたいと思います。
ビジネスゲーム研修や経営シミュレーションゲームに興味がある方はぜひご覧ください。
はじめに
本記事のキーワードとして登場する言葉が「正統的周辺参加」です。
まずはその意味を紹介した後、そこで生じる「学習の実験的領域」と「シミュレーションの有効性」を結びつけながら考察していきます。
以下では、次のポイントに沿って、解説していきます。
・正統的周辺参加とは
・学習の実験的領域とは
・シミュレーションの有効性とは
正統的周辺参加とは
正統的周辺参加は「社会的な実践共同体への参加の度合いを増すこと」が学習であると捉える考え方です。
具体的には、徒弟制における「最初は下っ端の仕事(周辺)をしながら、より熟達している人がこなしているより重要な仕事(中心)を見よう見真似で覚えていき、徐々に参加度を増していくこと」を学習と捉えています。
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しかし、ベッカーは、こうした現場学習に関する議論に対して、現場では学べないと述べています。
ベッカーは、学習に必要な「ゆとり」「タイムリーな教授」「失敗への寛容」が、現場にはないとしているのです。
たしかに、現実的なことを考えると、実際の現場では、こうしたリソースを確保することが難しいともいえます。
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学習の実験的領域とは
そこで、前述したベッカーの難問に応える形で提示されたのが「学習の実験的領域」です。
レイブとウェンガーは、このような領域では、新人は試行を行い、失敗が構造的にカバーされている環境で学ぶことができると唱えています。
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しかし、実験的試行には、3つの制約「時間的制約」「経済的制約」「法的制約ー免責構造」が伴うとされています。
現場では、様々なリスクに晒されている現実とは別空間で、プラクティスの毒をいかに取り除くかが大きなテーマになります。
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シミュレーションの有効性とは
では、この実験的領域におけるビジネスゲームでの解決について検討していきます。
ビジネスゲームは、現実と切り離されていた無縁所である一方で、現実が再現されたリアルな空間を提供します。
一言でまとめると「アジールとしての擬似空間」です。
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これを可能にするのがビジネスゲームのシミュレーション要素で、3つの制約「時間的制約」「経済的制約」「法的制約ー免責構造」をクリアすることができます。
ビジネスゲームにおける課題
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しかし、ビジネスゲームによるシミュレーションには課題があります。
一つは「リアルな実験環境をつくることができるか」という技術的課題で、もう一つは「そもそも分野によってはできるか定かではない」という状況的課題です。
後者に関しては、医療現場等のハイリスク環境においての現実とのギャップ(リアリティ・ショック)をカバーできるかどうかがポイントになります。
ビジネスゲームを行う場は、あくまで研修会場なので、現実とは切り分けられています。だからこそ、そこで得た学びをいかに現場へ転移させるかが重要な問いです。
課題解決の糸口
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最後に、ビジネスゲームによるシミュレーションを上手く機能させるには、どうすればよいかについて、検討します。
大きなアプローチとして、研修会場を超えた学びを生み出す仕組みづくりを考えます。
これは、シミュレーションで何を学ぶのかという「ゲームデザイン」、シミュレーションと現実のあわいでどう学びが転移するかという「学習環境デザイン」の両面から探ることができそうです。
それらをデザインすることで、ビジネスゲームでのシミュレーションが上手く機能するのではないかと考えられます。
まとめ
さて、今月は「ビジネスゲームによる正統的周辺参加の可能性」について紹介しました。
探索的なテーマになりましたが、自身も一人の実践者として、この問いに対してアプローチし、結論を見出したいと考えています。
本記事が、皆さまの今後のゲーム学習に対する考えや学びへのヒントになれば幸いです。
もっと詳しく知りたい方へ
筆者:大空 理人
東京大学大学院 学際情報学府 修士課程。Ludix Labにて、人の学びや成長につながる「楽しい経験」を創り出す学習コンテンツの設計や教育プログラムのデザイン方法論を研究。また大学院進学と同時に、株式会社NEXERAに新卒入社し、クリエイターとしてビジネスゲーム及び研修カリキュラムの企画、開発、運用を行う。2023年に『ELSI Game Lab』を設立。科学技術と社会の接続・課題解決にも努める。
東京大学 ELSI Game Lab:@ELSIGamelab
大空 理人:@masato_edut