提案は概念化の度合いが結果を左右する
近頃は新事業立ち上げをお手伝いすることが多いわけですが、その一環で、お客様といっしょに提案書を作成する機会も増えてきました。そんな中、私は「提案書が、提案ではなく説明になっていることが多い」ということに気付きました。
提案書の冒頭から商品や技術を説明したとしても、それは「私たちは皆さんの要求にこんな機能や性能でお応えできますよ」と言っているだけで、自分たちが選ばれる理由にはつながりません。要求に応えることは大切ですが、それはお客様にとっては織り込み済みであって、サプライズではないからです。
そんなわけで、いきなり提案書の作成作業に着手したところで、うまくいくわけありません。勝つためには、勝つための戦略を立てる(= 提案を概念化する)ところから始めるべきです。相手に選ばれるためには、概念化で提案の本質を見極めることが欠かせません。
・ お客様が抱えている課題の本質は何か? 根底には何があるのか?
・ お客様すら気付いていない悩みや課題はないのか?
・ お客様に事の重大性(=ペイン)を自覚させるにはどうすればいいのか?
・ 課題を解決するにはどのような手段があるのか?
・ それらの手段の中で、効果が大きく、なおかつ他社には真似できない手段は何か?
・ 競合他社にしが実現できない手段は何か? それはどれほど効果的か?
・ 自分たちが取りうる手段(前者)は他社の手段(後者)に、効果や実現性などの観点で勝るのか?
・ 自分たちが取りうる手段(前者)をピカピカに輝かせるには、どのようなシナリオが効果的なのか?
・ 実現性をどう担保するのか? お客様にどう説明するのか?
・ 選定責任者の保身に関わる懸念点やリスクをどう軽減できるのか?
・ これらすべては、最終的に、自分たちが「選ばれる理由」につながるのか?
こんなことを考えながら提案内容を概念化していくわけです。
そこでまずは、これまでの提案の流れから離れ、提案の本質を概念的にとらえる訓練から始める必要があります。
以下に紹介するのは、そこでヒントとなる提案シナリオの一例です。
[提案シナリオ]
1. お客様を観察し、提案に結びつく情報を発見、収集する
2. お客様の要求や期待、それにつながる背景などを理解する
3. エンドユーザー(お客様にとってのお客様)の情報など、「お客様にとって価値のある情報」を収集し、活用方法を練る
4. 自分たちが「なぜ選ばれるのか」を考える
5. 「選ばれる理由」をお客様に刷り込む
6. 刷り込んだ「選ばれる理由」の持つ意味がお客様の中で大きくなるように、「選ばれる理由」につながるペインを顕在化させる
7. 提案相手(選定責任者など商談のキーマン)を見極め、相手を理解する
8. 提案に当たってのキーメッセージを整理する
9. 提案シナリオを作成する
10. 「お客様にとって価値のある情報」が効果的に表現されていることを確認する
11. 「選ばれる理由」が際立って見えることを確認する
12. 提案書を作成する
13. キーメッセージが明確に伝わること、商材や技術の説明が提案シナリオの流れを乱していないことなどを確認する
14. お客様の要求や期待に応えていることを確認する
15. 提供価値が明確になっていることを確認する
16. 問題意識や価値観など、「相手を理解するための6つの視点」(以前にブログで取り上げた)にうまく働きかけていることを確認する
17. 提案相手の理解に基づき、提案内容が相手の共感につながるように工夫しながらプレゼンする
18. 相手が興味をもったことを見抜き、そこを重点的に掘り下げる
(全体を卒なくプレゼンすることよりも、数少ない興味のポイントを見抜き、掘り下げることのほうが重要)
19. 相手が興味をもったことをストーリーの中心に据えて、最後のまとめをする
この提案シナリオを足掛かりにすれば、概念化の訓練はスムースに開始できるはずです。
ところが最近では、これだけでは勝つことができません。提案に着手した時点で、すでに勝敗がついていることがよくあるからです。
多くの場合、勝敗を決定づけるのは提案内容だけではありません。むしろ大切なのは提案前の活動です。提案前に「自分たちの唯一無二の価値をどれだけ印象付けられたか」「自分たちの強みをどれだけお客様に刷り込んでおけたか」が大事です。
この刷り込み活動は「デザインイン」もしくは「スペックイン」と呼ばれているものですが、これを実践できている日本企業は稀です。
その意味では、提案の勝敗のカギを握るのは、本格的な提案活動が始まる前の「準備期間」や「助走期間」です。提案期間にやるべきことを、いかに準備期間や助走期間に前倒しできるかを真剣に考えるべきです。少なくとも上記の1~6は、提案が始まる前にやっておくほうがよいしょう。
これは、提案活動が日常の活動の中に当たり前のように存在するという考え方です。
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