計画できない人たちの「問題が顕在化しない」という課題は、計画できるようになったことで「顕在化した問題に手が打てない」という本質的な課題に変わった
ずいぶん前のことになりますが、そのITシステムインテグレーターは事業運営に苦戦していました。彼らの課題は「問題が顕在化しない」というものでした。苦労の末に解決に目途が立ち始めたころ、彼らの行く手に新たな課題が立ちはだかりました。それは「顕在化した問題に手が打てない」という課題でした。課題の中身が、それまでとはまったくの別のものに変わってしまったのです。
・ これまでの課題 = 問題が顕在化しない
・ いまの課題 = 顕在化した問題に手が打てない
この変化は、組織を事業再生の本質へと導くことになりました。とても興味深い話なので、今回はこれについて書くことにしました。
この組織の収益はプロジェクトに支えられていました。大型プロジェクトを複数抱えており、プロジェクトの失敗が収益悪化に直結していました。私は選抜された改革チームとともに事業再生を目指して課題解決に乗り出しました。
当時の課題は「問題が顕在化しない」でした。事業の屋台骨を揺るがすような大問題ですら、手遅れの状態になるまで、組織はそのことに気付けずにいました。「早い段階に問題を顕在化できるようにさせてほしい」というのが幹部たちの願いでした。
私たちはプロジェクトマネジメント力(≒計画力)の底上げに取り組みました。この取り組みが実を結び、さまざまな種類の問題が週次の進捗会議の場で顕在化するようになりました。
さて、そんなある日、私はある話に耳を疑いました。
「計画には意味がないから時間を割くなと上司に言われました」
こう話してくれたのは、私がかつてプロジェクトマネジメントの「いろは」を指導した中堅エンジニアのうちのひとりでした。彼はその数か月前まで、身に付けた計画力を駆使してグループをうまくまとめ上げていました。
彼 「浦さん、お久しぶりです」
私 「噂で聞いたのだけど、最近、計画の更新が滞っているようだね」
彼 「そうなんです。上司に、計画に時間を掛けるなと言われたもので」
私 「どういうことですか?」
彼 「現場作業が遅れ始めたとき、上司から、計画しても意味がないからやめろと言われました。私には反論材料がありませんでした」
私 「具体的に教えてもらえませんか?」
彼 「進捗会議の場ではさまざまな問題が明らかになったのですが、私にはそれらを解決する術がありませんでした。それで、計画したところで問題は解決しないと言われました」
私 「それで、計画に時間を割く意味はないと言われたのですね?」
彼 「そうです」
もちろん、計画に意味が無かったのではありません。問題が早期に浮き彫りになったのであれば、それは計画が機能していた証です。個別の問題解決活動を重視するあまり計画の更新を止めさせたのは上司の過ちです。私は、このままでは手遅れの問題が山積されるばかりか組織の稚拙な問題解決力までもが放置されることになってしまうと危機感を覚えました。
つまり、事態はこういうことでした。
問題が顕在化するようになったことで新たな課題が浮上していました。それが「顕在化した問題に手が打てない」です。顕在化した問題の中には、組織がこれまで見て見ぬふりをしてきた、いわゆる難題が多く含まれていました。
顕在化した問題に含まれていた難題の例
・ 不具合の対応に追われ、プロジェクトに工数を割けない。
・ 部門の壁を越えた調整がうまくいかない。
・ プロジェクトを回すためのリソースに裏付けが薄い。
・ 顧客からの追加要求を受け入れざるをえない。
・ 提案段階の見積り金額が安すぎる(無理な金額でしか受注できない)。
組織は一丸となってこの難題に取り組みましたが、解決するにはまだ相当の時間がかかりそうです。私は訳あって、改革半ばにしてここを去りましたが、彼らの戦いはいまも続いているはずです。私が去るとき、すべての幹部たちは「問題が顕在化しない」という当初課題の解決を事業再生の偉大な一歩だと高く評価し、次なる課題の解決に意欲を燃やしていました。
このケースでは「問題が顕在化しない」という表面的な課題の向こうにあった「顕在化した問題に手が打てない」という本質的な課題が組織に突き付けられたわけですが、これは「計画」がもたらした成果の象徴であり、関係者に計画の大切さを実感させるには十分でした。
とはいえ、問題解決力の欠如は計画を徒労に終わらせてしまいます。「顕在化した問題に手が打てない」という本質的な課題が浮き彫りになったら、組織を挙げて問題解決力向上に取り組まなければなりません。
これは万国共通の課題です。総じて計画意識の低い日本企業ではなおさらです。
私はこれからも、さまざまな日本の組織で、このような課題たちと奮闘し続けます。
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