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HELLOWEENのHELLOWEENはHELLOWEENなのか?

HELLOWEEN の "Helloween" を聴いた。もはや物欲も性欲も枯れ果てたオッサンだけど、この一枚だけは結構一日千秋の思いで待ちわびていた。実際、日本のメタル世界でこれほど心が躍るようなリリースは本当に久しぶりだと思う。だって、あのマイケル・キスクとカイ・ハンセンが遂に、遂に HELLOWEEN に戻ってきたんだから。

とはいえ、僕は HELLOWEEN にその2人がいた時代を知らない。いや、もちろん知っているしアルバムは死ぬほど聴き込んでいるんだけど、実体験はしていない。僕みたいな人は相当数いるだろう。だからこそ、もしかしたら当時を知る人たちよりも伝説の再来に興奮しているのかもしれない。

シールはマイケル・キスクだった。マイケル・キスクというよりも武藤敬司といった趣きだが、今はどうでもいい。かつてビクターは、邪魔くさいだけなのになんか紙でできた箱にCDを入れて、ゴージャスだろ?とボッタクっていたけどどうやら社風はあまり変わっていないらしい。まあそれも今はどうでもいい。

急いでアルバムに針を落とす。実際はあんまり家で大音量でメタルを聴いていると嫁がアーライするので車のカーステレオにCDを挿入したんだけど、それも今はどうでもいい。でも、針を落とすという表現はとても文学的でモテそうだ。まあそれも今はどうでもいい。

"Out For The Glory" が勇ましくはじまった。まさにパワーメタルだ。キスクの伸びやかな声が疾走に映える。若干歌メロが平坦な気もするが、練られたミドルパートやカイのアーライ的賑やかしが HELLOWEEN の復活を告げる。ちょっとした転調や、ちょっとしたテンポ・チェンジこそ HELLOWEEN の魔法だ。尊い。これは尊いですよ。アゴもムケチンも本当によく帰ってきてくれた。でも何かとてつもなく大事なものを忘れているような…ファーストキスや初エッチの思い出は鮮明に思い出せるのに、すぐに忘れてしまう嫁の誕生日のような何か…

デリスどこいった?!

間髪入れずに "Fear of the Fallen" がはじまる。この哀愁、この繊細、この知性、このガッツ。いた。デリスいた。

正直に言おう。僕は守護神伝をそこまで愛していない。もちろん、スゴい作品だ。メタルを変えた作品だ。でも、気がつくと針を落とすのは "Master of the Rings" であり、"Time of the Oath" なんだ。

前にも書いたけど、僕はパワーメタル特有のコードをそのままなぞるような山なし谷なしの歌メロが好きじゃない。守護神伝は様々に捻りを効かせているので、そこまで単調じゃないんだけど、それでもやっぱりパワーメタルの雛形で始祖。定型的な一面は存在する。特にキスクはミスター・パワーメタルなので、彼にパワーメタルをやらせると完膚なきまでのパワーメタルになってしまう。書いていて訳がわからなくなってきたけど、とにかく単調さを誘発しがちなんだね。

まあでも結局キスクと HELLOWEEN も、ソコに気づいたからこそ傑作 "Pink Bubbles" からの "Chameleon" にたどり着いたわけでしょ?

僕が "Helloween" に危惧していたのはまさにその単調さだった。今回はなにしろお祭りだし、久々の復帰だし、原点回帰を合言葉に思う存分パワーメタルをやるべき理由も環境も整っていたからね。キスクのメタル嫌いもどうやら過去のものみたいだし。つまり、ミスター・パワーメタルがパワーメタルを存分にやりきって完全無欠のパワーメタルにしてしまう可能性があったんだ。

だけど嬉しいことに、そうはならなかった。アンディ・デリスというもう一人の天才がいたからだ。

少なくとも、僕にとっての HELLOWEEN とは、アンディ・デリスであり、ヴァイキーであり、マーカスであり、ウリ・カッシュであり、ローランド・グラポウスキーなんだ。

何十年 "Master of the Rings" を聴き続けても飽きないのは、その5人の不思議な個性がパワーメタルをバラエティーに富んだメロディック・メタルへと進化させたから。"Soul Surviver" ではじまり、"Still We Go" で幕を閉じる演出も憎すぎた。俺らはまだまだやれるぜ!ってね。

いいんだよ、別にウリの眉毛がつながっていたって、ウリの関節がガッチガチだったって、ウリのタイム感が雑妙だったって。あのド派手なフィルインの数々がメタルとは何かを教えてくれた。いいんだよ、グラポウがイングヴェイを全然気取れていなくたって。ごく稀に神曲を書くんだから。そしてもちろん、ヴァイキーはいつだってヴァイキーだ。美脚だ。

でも結局、カイもインゴもキスクもいなくなったHELLOWEEN が、それでも30年力強く生き延びられたのはデリスの力がとても、とても大きかったと思う。

彼のメロディーに対するこだわり、センス、アイデアはどれもずば抜けている。そして声に備わった天性のメランコリーとエモーション、ポップな息吹。"Where the Rain Grows" をキスクが歌っていたら、あそこまで感情は溢れなかったと思う。切なすぎる"Secret Alibi" や ポップすぎる "Perfect Gentleman" がそれまでの HELLOWEEN にやれたとは思えない。何より、ソロアルバム "Come in from the Rain" の尊さよ。

そんなアンディの旨味が凝縮された楽曲こそ、"Fear of the Fallen" だったんだ。紛うことなき名曲の誕生だ。胸を抉られ、心臓を鷲掴みにされる。でも、アンディ曲だけじゃなくて、アルバムを通してアンディの存在は重要すぎる役割を果たしているんだ。キスクの圧が強すぎて気づきにくいかもしれないけど。

アンディの影を帯びた繊細かつ豊かなメロディーがあることで、キスクの伸びやかなハイトーンが際立つ。逆もまた真なり。起伏に富んだ山と谷が見事に形成されていく。そんな2人の相乗効果が生み出したのが、"Rise Without Chains" であり、"Indestructible" だろう。"Robot King" にしても中盤の畳み掛けが強烈なアルバムだ。ドイツから英国、そしてアメリカを股にかけるような楽曲のバラエティーも存分。最後には、11分の "Skyfall" でカイ・ハンセンがしっかりカイ・ハンセンして締めてくれる。自撮りばっかりしていないで、ラルフと GAMMA RAY もやってくれ。

だから僕にとっては、HELLOWEEN の "Helloween" は HELLOWEEN だったよ。HELLOWEEN すぎるほどに。カラフルで起伏に富んだ、メロディック・メタルのカメレオン。2021年にこの音を届けてくれて本当にありがとう。でもたぶん、そう遠くない未来、カイがもうやーめたってなって、キスクがじゃあ俺もやーめたってなるだろうから、そうしたらアンディにも密やかに脱退してもらってぜひ PINK CREAM 69 をまたやって欲しい。結局何が言いたいかといえば、PINK CREAM 69 をまたやって欲しいに尽きる。本当にごめんなさい。

ていうか、マーカスって本当に凄いベーシストだよね。こういうメタルメタルしたメタルでヌルヌルとメロディックに動き回るベースラインって他にないと思う。HELLOWEEN の半分はマーカスで出来ているのかも。





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