【読書】鎌倉幕府初期の頃がよくわかる~『鎌倉残影 歴史小説アンソロジー』(朝井まかて他)~
鎌倉幕府初期の時代を題材とした、歴史小説のアンソロジーです。鎌倉が舞台のものと、奈良・京都が舞台のものがあります。
↑kindle版
・「恋ぞ荒ぶる」(朝井まかて)
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも主人公だった北条義時が主人公です。政子と頼朝の出会いに始まり、その後の義時の半生が描かれます。展開が早いので、一歩間違うとダイジェストのような感じですが、嫌な感じはせず、読み易いです。大河の俳優さんたちを思い浮かべつつ、楽しく読みすすめることができました。
頼朝が助命されたいきさつです。フィクションとはいえ、ありえるなぁと思いました。
武力を有するとは知りませんでした。
伊豆と鎌倉の間を、毎日行き来? 海上を行くのだと、それぐらいの感覚で往来できるのでしょうか。
亀ノ前事件の説明ですが、何かすごいです。
若き政子の形容に使われていた「大どか」という表現は、初耳です。『新明解国語辞典 第三版』によれば、「わずらわしい事・細かい事に関心を払わず、のんびりしている様子」だそうです。かくありたいものです。
そういうものなのですか。
・「人も愛し」(諸田玲子)
後鳥羽天皇と頼朝の長女大姫が実は出会っていた、という設定のお話です。フィクションとはいえ、そういうこともあったかも、と思わせられる、優れた歴史小説です。
水塔婆というのも、初めて知りました。普通の塔婆(板塔婆)より小さくて薄く、川に流して供養するものだそうです。
・「さくり姫」(澤田瞳子)
頼朝の妹の坊門姫(作品中では、有子)のことも、頼家や実朝の異母兄弟に当たる貞暁(作品中では亀鶴丸)のことも、この作品を読んで初めて知りました。頼朝一家を取り上げた歴史小説は、結構読んできたと思っていたのですが、まだまだ知らないことはあるものです。
ちなみに「さくり」は、しゃっくりのこと。頼朝の妹が、緊張したりすると、しゃっくりが出るという設定なのです。
ネタバレになるので書きませんが、政子がなぜ、それこそ上記の亀ノ前事件に象徴されるように、頼朝の妾たちの存在を許さなかったのか、その真意が良いです。頼朝のアホ、と言いたくなります。
・「誰が悪」(武川佑)
和田合戦を題材にした作品です。
「鎌倉殿の13人」のイメージですが、いかにもそんな感じです。
この作品、途中までは「鎌倉殿の13人」同様、「全部大泉(頼朝)のせい」というスタンスで進むのですが、最後の最後で「誰が悪」かがひっくり返ります。でも結局、「彼ら」が悪になったのは、頼朝のせいな気も……。
・「女人入眼」(葉室麟)
兼子は後鳥羽上皇の<申し次ぎ>、政子は言わずと知れた北条政子です。
これを読んで「うん?」と思い調べたら、三寅は両親がそれぞれ、坊門姫の孫でした。ややこしいので、ウィキペディアさんの坊門姫の記事中の家系図をご覧ください。
この作品も「恋ぞ荒ぶる」同様、ある意味ダイジェストっぽい作品なのですが、もう一度鎌倉幕府初期の頃を振り返る感じで、巻の最後の飾る作品として、悪くありませんでした。
見出し画像は、1本目の「恋ぞ荒ぶる」にちなみ、伊豆山権現、今の伊豆山神社の「頼朝・政子腰掛け石」です。
↑単行本