草原、砂漠、岬、広場、洞窟、川岸、海辺、森、氷河、沼、村はずれ、島どこが一番落ち着きそうですか?
『森の中の静寂』
東京郊外の静かな森。
木々の間から差し込む柔らかな陽光が、
落ち葉を敷き詰めた地面に斑模様を描いていた。
その森の中を、一人の男が歩いていた。
私は、人生で経験した二度の大きな失恋によって、
心が木っ端微塵に砕け散ってしまった。
それは、まるで春の嵐が桜の花びらを無残に散らすかのようだった。
その傷ついた心を立て直すため、私は瞑想を始めることにした。
瞑想にも様々な種類があると知り、
その中でも特に歩行瞑想に惹かれた。
森の中にいると、ストレスも和らぎ、健康にも良いという。
そう聞いて、この静かな森を選んだのだ。
しかし、この歩行瞑想が予想以上に難しかった。
普通の瞑想のように目を閉じる必要はない。
ただ、一歩ずつゆっくりと歩くだけ。
とにかく、歩くことに意識を集中する。
意識が逸れたら、そっと戻す。
これが、こんなにも難しいものだとは。
「むずかしい...」と、私は何度も呟いた。
そんな時、ある著名人の歩行瞑想のやり方を知った。
私は藁にもすがる思いで、その方法をそのまま真似することにした。
足の裏に意識を集中させる。
まるで足の裏から呼吸をするかのようなイメージで進める。
最初は戸惑ったが、必死に取り組んだ。
慣れるまでにどれくらいかかっただろうか。
やがて、うまくできるようになった。
毎回30分、週末だけの実践。
それでも、少しずつ効果を感じ始めていた。
ある日曜日の朝。
いつものように森に入り、歩行瞑想を始めた。
木々のざわめきと鳥のさえずりが、かすかに耳に届く。
足の裏で大地を感じながら、ゆっくりと一歩、また一歩と進む。
そして、タイマーが終了。
右腕につけている時計が振動した瞬間、私は気づいた。
森の静寂とともに、
まるで時間が止まったかのような感覚に包まれていたことに。
その瞬間、砕け散っていた心が、
少しずつ、でも確実に癒されていくのを感じた。
森の中の歩行瞑想は、私にとって新たな人生の一歩となったのだ。
(おわり)